雲洞庵を舞台にした猫伝承の第2回は、寺宝の「怪獣の骨」と、その怪獣を退治した「北高禅師の袈裟」にまつわる物語を紹介します。
怪獣の頭骨、火車降伏の袈裟
天正時代(1573~1592年)、雲洞庵の十世北高全祝禅師が在住の頃の話です。この北高禅師は、上杉謙信、武田信玄に禅を教示した人物としても知られています。
ある日、北高禅師は三郎丸村(現塩沢町)の現早川関家の葬式に呼ばれました。雪の降り盛る時期であり、4日も葬儀を延期していたのですが、仕方なく吹雪の中で葬儀をすることになりました。
野送りの道中に、今まで以上の猛吹雪となり、空には暗雲が立ち込めました。この暗雲に乗って、尾が2つに裂けた怪獣が現れました。金城山の洞窟に住む怪獣が、棺を奪い取ろうと現れたのです。北高禅師は騒がずに経を唱えていましたが、大喝して、飛びかかる怪獣を鉄如意でたたきつけ、怪獣を退治しました。やがて吹雪もやみ、葬式を無事に済ませられたそうです。
怪獣の頭骨とされるものと、返り血を浴びた北高禅師の袈裟は、今も庵の宝物殿に保存されています。また、怪獣を退治した鉄如意は信州岩村田の竜雲寺に秘蔵されています。
前回の記事でご紹介した中町の化け猫の話と、今回の怪獣の話は、一致する点も多く見られるため、同じ話が元になっているのかもしれません。
ただし、いくつか一致しない点も見受けられます。雲洞庵ではこの魔物を「怪獣」または「火車」と称しており、猫又とは言い伝えていません。また雲洞庵には、上杉憲実による再建時に金城山頂上の洞穴に棲んでいた鼠の火車の伝承もあるため、一概に「火車=猫又」とは言えません。さらに、雲洞庵では「早川関家の葬儀の出来事」として言い伝えられていますが、佐藤家に伝わる古文書では当家の葬儀で起こったと記載があるそうです。名刹と知られる雲洞庵だからこそ、さまざまな地域で伝承が言い伝えられるうちに、形を変えていったのでしょう。
[参考文献]
・磯部定治著『ふるさとの伝説と奇談(下)』,1995年(野島出版)pp129
雲洞庵
住所:新潟県南魚沼市雲洞660
【執筆】
岩崎永治(いわざき・えいじ)
1983年群馬県生まれ。博士(獣医学)、一般社団法人日本ペット栄養学会代議員。日本ペットフード株式会社研究開発第2部研究学術課所属。同社に就職後、イリノイ大学アニマルサイエンス学科へ2度にわたって留学、日本獣医生命科学大学大学院研究生を経て博士号を取得。専門は猫の栄養学。「かわいいだけじゃない猫」を伝えることを信条に掲げ、日本猫のルーツを探求している。〈和猫研究所〉を立ち上げ、SNSなどで各地の猫にまつわる情報を発信している。著書に『和猫のあしあと 東京の猫伝説をたどる』(緑書房)、『猫はなぜごはんに飽きるのか? 猫ごはん博士が教える「おいしさ」の秘密』(集英社)。2023年7月に「和猫研究所~獣医学博士による和猫の食・住・歴史の情報サイト~」(https://www.wanekolab.com/)を開設。
X(旧Twitter):@Jpn_Cat_Lab
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