暑さも極まりジィジィ鳴く蝉の鳴き声が耳から離れないころのカラスは、どのような生活をしているのか気になります。なにせ全身黒色ですから、夏の強い日差しを一身に浴びたらさぞかし暑かろうと同情の念を禁じえません。
今年の気温は連日35度を超え、40度近くの日も少なくありません。ほぼ毎日のように、熱中警戒アラートが表示され「命に関わる危険な暑さ」とテレビやラジオから報じられています。
このような酷暑では、日中にカラスを探してもあまり見かけなくなりました。日差しを避けて、どこか木立の日陰で休んでいるのでしょう。今回はそんな「カラスの夏」についてお話していきます。
カラスの暑さ対策
一般的に、黒色は熱を吸収することが知られています。全身黒のカラスは、どのような暑さ対策をしているのでしょうか。
カラスの羽は、一枚の布のように体を覆っているのではなく、複雑な構造をしています。幾枚もの羽毛が屋根瓦を組んだように重なり合っています(写真1)。
この羽毛が作り出す空気の層によって、体表の皮膚に暑さが直接伝わらないようにしていると考えられます。冬は冬で、この空気層が体温の低下を防ぐように作用するのでしょう。また、カラスの体温は41度くらいで私たちより5度ほど高く、夏の外気とのギャップはそれほど感じないのかもしれません。
そうは言っても、この夏の暑さにはこたえているようで、春や秋ほどは活発に飛び回るカラスを見かけません。その代わり、くちばしを開いてぼーっと電線に止まっている姿を目にすることがあります。これが、もうひとつのカラスの暑さ対策です。そもそもカラスをはじめとする鳥類には、汗腺がありません。暑いときに「汗をかいて体温を下げる」という調節機構がないのです。その代わりに、くちばしを大きく開き、吐く息で熱を逃がしています(写真2)。
これは、同じように汗腺がなく口を開いてハアハアと息遣いを早くして体温を下げるイヌの行動(パンティング)に似ています。カラスは酷暑対策として、身体を覆う羽毛の構造、体温、呼吸などをフル活用しています。
変わるカラスの夏の餌場
さて、生理的にはなんとか酷暑を克服する仕組みがあり、カラスのたくましさを感じます。では、この時期の食事はどうでしょう。
人のそばで暮らすカラスにとって、ひと昔前ならばこの時期の終盤に楽しみがありました。それは、お盆です。地方では、霊をお迎えしに墓地に出向き、ご飯、お菓子、精進料理などを供物としてそなえました。この時期の墓地には、日常見ることもないご馳走がそなえられているのです。
当然、供物だからといってカラスは遠慮しません。また、人々も供物が腐るよりカラスが処理してくれる方が良いと思っていました。あるいは「空を舞うカラスが食べれば、ご先祖に届くかも」という考えもあったようです。そのため、供物に群がるカラスも、それほどには嫌われていなかったように思います。
そんな寛容な時代も過ぎ、墓地の管理も環境・衛生の面から厳しくなりました。お迎えの合掌が済んだら墓地の清掃が行われ、カラスの餌(供物)が全て回収・処理されるようになったのです。これでは、さすがのカラスも供物を食べることができません。
しかし、そんなカラスに新たな餌場が生まれています。夏のレジャーを楽しむ人口が増えたことで、行楽地での盗食(写真3)や、野外食後に放置された食材など、不適切に放置されたゴミがカラスにとっての新しい「ご馳走」になりました。
カラスにとっては助かるのでしょうが、なんとも気になりますね。
【執筆者】
杉田昭栄(すぎた・しょうえい)
1952年岩手県生まれ。宇都宮大学名誉教授、一般社団法人鳥獣管理技術協会理事。医学博士、農学博士、専門は動物形態学、神経解剖学。実験用に飼育していたニワトリがハシブトガラスに襲われたことなどをきっかけにカラスの脳研究を始める。解剖学にとどまらず、動物行動学にもまたがる研究を行い、「カラス博士」と呼ばれている。著書に『カラス学のすすめ』『カラス博士と学生たちのどうぶつ研究奮闘記』『もっとディープに! カラス学 体と心の不思議にせまる』『道具を使うカラスの物語 生物界随一の頭脳をもつ鳥 カレドニアガラス(監訳)』(いずれも緑書房)など。
【編集協力】
いわさきはるか
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