はやいもので、今年も11月半ばになります。暑かった夏が嘘のような涼しさを通り超して、むしろ寒いと感じるようになりました。この時期になると大陸から越冬のために白鳥やツルなどの渡り鳥が日本にやってきます。愛鳥家にとっては楽しみの季節ですが、養鶏関係者とっては鳥インフルエンザの発生に神経を尖らす時期になり、今年もすでに数件発生しています。
渡るカラス、渡らないカラス
さて、そのような鳥の渡りの悲喜こもごもの舞台にカラスも登場します。普段目にするカラスにすっかり馴染んでいますので、多くの人はカラスが渡りをすることを知らない方が多いのではないでしょうか。
日本で見ることができるカラスは5種類ですが、日常に見るカラスはハシブトガラスとハシボソガラスの2種類です。この2種は渡りをしません。いわゆる留鳥です。
他にみかける3種類はミヤマガラス、コクマルガラス、ワタリガラスです。
これらが渡り鳥としてやってきて、秋から3月にかけて日本でみられます。ワタリガラスは冬鳥として北海道東部地域で比較的見られています。ここでは、特に日本全国で確認されるミヤマガラスについて紹介することにします。
ミヤマガラスは10月から3月にかけ日本に滞在します。このカラスは、ハシボソガラスと近縁になります。大きさもハシボソガラスくらいの大きさで、特徴的なところは嘴(くちばし)の付け根です。ハシボソガラスもハシブトガラスも嘴の付け根に鼻孔を覆うかのような立派な嘴毛があります。
ところが、ミヤマガラスにはそれがないので、鼻孔がよく見えます。
また、嘴の付け根周辺は毛根部のような小さな凹凸がみえ肌が若干白く見えます。
広がるミヤマガラスの渡り
このカラスは、渡りの数や場所にも不思議な変化がみられ、年々日本に渡ってくる範囲が広がっています。渡りの場所は1980年代前半までは九州地区に留まっていました。それが1980年後半には中国地方日本海側の北陸、新潟、1990年代にはいると秋田、青森などの地域に広がりました。2000年代にはいると北海道を含み全国で確認されるようになっています。渡りの出発地は中央・西アジア、中国、韓国と考えられています。
最近ではミヤマガラスの大群が街路樹や商店街の電線に大きな群れとして集まり、糞害と鳴き声騒音でニュースになることもあります。場合によってはハシボソガラスの群れに混じっていることもあります。
季節の風物詩としてはいささか困った話です。ただし、冬の渡り鳥ですから3月には大陸に帰るのがせめての救いなのかもしれません。
[参考文献]
・高木健太郎. Bird Research. 2010;6
・玉田克己. 北海道東部地域におけるワタリガラスの越冬状況. 日本鳥学会誌. 2010;57:11-19.
【執筆者】
杉田昭栄(すぎた・しょうえい)
1952年岩手県生まれ。宇都宮大学名誉教授、一般社団法人鳥獣管理技術協会理事。医学博士、農学博士、専門は動物形態学、神経解剖学。実験用に飼育していたニワトリがハシブトガラスに襲われたことなどをきっかけにカラスの脳研究を始める。解剖学にとどまらず、動物行動学にもまたがる研究を行い、「カラス博士」と呼ばれている。著書に『カラス学のすすめ』『カラス博士と学生たちのどうぶつ研究奮闘記』『もっとディープに! カラス学 体と心の不思議にせまる』『道具を使うカラスの物語 生物界随一の頭脳をもつ鳥 カレドニアガラス(監訳)』(いずれも緑書房)など。
【編集協力】
いわさきはるか
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