観察しよう! 立山室堂で出会う野生動物「ライチョウ」(富山県立山自然保護センター)

中部山岳国立公園の「立山」は、日本で最も多くライチョウが生息する場所として知られています。標高2,450メートルの立山室堂では、バスターミナルから一歩外に出るだけで、ハイマツやチングルマなどの高山植生が出迎えてくれます。

室堂ターミナルに隣接する場所に、富山県が設立した「立山自然保護センター」はあります。ここでは、立山の山岳信仰や歴史、ライチョウをはじめとした貴重な動植物の展示と解説を行っています。

立山自然保護センターと立山(雄山)

また、当センターでは「ライチョウ見守りネット」というウェブサイトで、ライチョウの目撃情報、観察マナーや保護対策などの情報を発信しています。

ライチョウとは?

ライチョウは、もともと「らいの鳥」と表記されていたようですが、江戸時代のなか頃から「雷鳥」という漢字が使われるようになったようです。学名はLagopus mutaで、Lagopusは「ウサギの足」、mutaは「無声の」という意味を持ち、「指先まで羽毛が生えた足」、「頻繁には鳴かない」という特徴が表されています。

観察してみよう

立山でライチョウを観察するには、「自然解説ツアー」に参加することをおすすめします。

ライチョウは、1980年代には中部山岳地帯に約3,000羽生息していたとされますが、2000年頃には約1,700羽まで減少し、環境省レッドリストの絶滅危惧種ⅠB類に指定されました。立山周辺ではこれまで大きく減少することなく、約300羽が安定的に生息しているとされています。

立山室堂周辺には、いくつもの散策道が整備されており、ライチョウや高山植物などを観察できる絶好のポイントが多数あります。

立山室堂散策マップ

当センターには「富山県ナチュラリスト協会*¹」のナチュラリスト(富山県自然解説員)*²が常駐しており(4月末~6月:土日・休日、7月~10月上旬:毎日)、無料の自然解説ツアー*³を行っています。ライチョウに出会えるかもしれませんので、是非このツアーに参加してみてください。
*¹ 富山県ナチュラリスト協会:県や市町村などでの自然教育や環境保全活動を行う任意団体。会員数は約360名。国立公園や県立公園など県内4地区5箇所で、ボランティアでの常駐自然解説活動などを行っている。
*² ナチュラリスト(富山県自然解説員):自然公園などの来訪者に、自然への愛情と自然保護の重要性を認識してもらうことを目的に、富山県が昭和49年に創設した自然解説員制度。県がナチュラリスト養成講座を開講し、所定の知識・技能を身に付けた人を、『ナチュラリスト(富山県自然解説員)』として認定している。
*³ 自然解説ツアー:1時間または2時間、1日に2回または4回。詳細はホームページをご覧ください。

ナチュラリストによる自然解説

観察における注意点とマナー

まず、ライチョウを見かけても追い回したりせず、静かに見守ってください。
立山室堂の全域が国立公園内です。立ち入り禁止の立て札やロープが無くても、歩道以外への立ち入りは禁止されています。決められた道を歩き、道の脇の草原や花畑には入らないようにしてください。厳しい気象環境のもとで生育している植物は、少しの踏込みによって大きな影響を受け、ライチョウの生息地が荒廃していきます。

また、余った食料やゴミは、残さずに必ず持ち帰ってください。本来生息していないはずのカラスなどが飛来し、生態系に大きな影響を及ぼす可能性があります。

立山室堂へは交通機関が整備されており、老若男女が気軽に訪れることできる観光地となっていますが、標高が2,500メートルある高標地です。雨具や防寒具、靴などの装備は十分に準備してください。

観察におススメの時期やスポット

4月中旬~5月下旬

室堂平一帯は、数メートルの積雪に覆われていますが、雪上を散策することで、真っ白な冬羽から夏羽(オスは黒褐色、メスは黄褐色)に換羽しているライチョウを観察することができます。

夏羽に換羽中のオス(5月上旬)

この頃から、オス同士のナワバリ争いが始まります。侵入者に対して「ガガァー」という鳴き声での「威嚇」や、攻撃的に飛びかかる「ディスプレイフライト」を見ることができます。

6月上旬~下旬

オスは「ナワバリ」を形成し、メスを迎え入れる準備をすすめ、眺望のきく岩の上などで見張りをします。運が良ければ、メスへの求愛行動や交尾を見ることもできます。なお、メスは5月下旬~6月中旬に、ハイマツの下などに5~7個の卵を産みます。

ナワバリを見張るオス(6月上旬)

7月上旬~

高山植物の花畑が咲き乱れる7月上旬頃から、メスと孵化したばかりのヒナ達の採餌行動を観察できます。小さなヒナが一生懸命母鳥についていく様子は、とても可愛らしいです。また、オスは7月中旬頃から暗褐色の秋羽に換羽し始めます。

ライチョウの親子(7月下旬)

8月下旬~9月下旬

ナナカマドなどの紅葉が美しい室堂平にて、ガンコウランやクロマメノキなどの果実を採餌するライチョウを観察できます。この頃から、メスは暗褐色の秋羽に換羽し始め、母鳥と一緒に生活を続けているヒナも換羽し、幼鳥と呼ばれるまで成長します。

秋羽のメス(9月上旬)

10~11月

初冠雪となる10月中旬には、幼鳥は親鳥と同じ大きさまで成長し、若鳥と呼ばれるようになります。10月下旬頃から、越冬にむけてオス・メス・若鳥が混在する4~10個体の小集団を作りはじめます。
11月下旬頃からは、オス・メス・若鳥ともにまっ白な冬羽に換羽して、人が訪れない「ライチョウの聖域」となる厳冬期を迎えます。

家族群から集団化に移行する(10月下旬)

おわりに

ライチョウは、氷河期の時代から生息していると言われています。減少していくライチョウが、この先の日本でも暮らしていけるように、立山をはじめとする生息域の環境を守っていかなければなりません。観察を通じて、みなさまが同じ目線で生態系の保全を目指していけることを願っています。

【文・写真】
近堂 純(こんどう じゅん)
富山県庁 生活環境文化部 自然保護課 立山センター/立山自然保護センター所長、森林インストラクター、森林総合監理士。
国内外からの多くの観光客や自然愛好家に立山の自然の素晴らしさや大切さを普及し、ライチョウをはじめ貴重な動植物を後世に守り伝える活動をしている。

【立山自然保護センター】
https://tateyama-shizenhogo-c.raicho-mimamori.net/

【立山室堂ライチョウ見守りネット】
https://raicho-mimamori.net/