動物園の人気者! 樹上のモフモフ:コアラのひみつ
コアラはこんな生き物
コアラ(コアラ科コアラ属・学名Phascolarctos cinereus)は、カンガルーなどと同じ有袋類の仲間で、オーストラリア(クイーンズランド州南東部、ニューサウスウェールズ州東部、ビクトリア州、南オーストラリア州に分布しています。

野生の生息数は約10~50万頭で、森林の開発や交通事故などに加え、近年では森林火災が脅威となっており、IUCNのレッドリストでは危急(VU)環境省のレッドリストでは絶滅危惧Ⅱ類に指定されています。
国内では主に、クイーンズランド州とニューサウスウェールズ州のコアラを北方系、ビクトリア州と南オーストラリア州のコアラを南方系として2系統に分けて血統管理をしており、王子動物園では北方系コアラを飼育しています。
コアラはユーカリの葉しか食べません。ユーカリの葉は繊維質が多く、硬くて消化しにくいうえに、動物にとって毒になる成分があります。そのため、コアラは体長約60センチメートルの小さな体にもかかわらず、約3メートルの長い腸をもち、ユーカリを腸の中にいるバクテリアで消化させ、毒は肝臓で解毒しています。また、ユーカリは栄養価が少ないので、出来るだけエネルギーを使わないように1日20時間ほど寝ています。

ユーカリの種類をかぎ分けるために、嗅覚はかなり鋭いです。鼻には、ほとんど毛が生えておらず、さわるとひんやりとしています。一方で、視力はあまり良くないようです。
生活のほとんどを木の上で過ごすコアラの前肢は、木の枝や幹をしっかりとつかめるように親指と人さし指が他の指と離れていて、握力はとても強いです。後肢の人さし指は中指とくっついていて、まるで1本の指に爪が2本生えているように見えます。また、親指には爪がありません。
ほかの木に移るときに地上に下りることもあります。発情期になると、地上行動が頻繁にみられます。


当園では、オウカ(メス、8歳)、エマ(メス、6歳)、ハナ(メス、6歳)、イツキ(オス、5歳)、いぶき(オス、4歳)、シャイニー(メス、4歳)、オウキ(オス、1歳)の7頭を飼育・展示しています。
※情報は2025年7月時点のものです
神戸市立王子動物園のコアラの日常
9時の開園までに、飼育員が展示場に入ってコアラ全頭の様子を観察し、清掃を行います。その際、頭から足の先までいろいろな角度からじっくりと観察します。清掃し終えたら、ユーカリを仕入れているほ場からの荷受け作業を行い、保冷庫に納めます。その後、その日に給餌するユーカリを全頭分用意します。
13時ごろにユーカリの交換を行い、採食状況を観察・記録します。ブラッシングや爪切りなどを行い、ユーカリペーストを給餌します。これは、いざというときに投薬などをしやすくするために、普段から与えているものです。

夜間の行動観察は、録画した映像を翌日にチェックし、特に発情期に増える地上行動などを記録します。
また、週に1回のペースで全頭の体重測定を実施し、ローテーションで採血やレントゲン、エコーなどの検査を行います。
飼育員は園外でもコアラについての勉強をしています。年に1回「コアラ会議」と呼ばれる全国のコアラ飼育園館が集まる会があります。現在、日本でコアラを飼育している園館は7園館です。コアラ会議は、多種多様な課題に対して情報交換がなされる非常に大事な勉強会です。
ユーカリに関しても園外で勉強をしています。当園では鹿児島、宇和島、岡山のほ場からユーカリを供給してもらっています。生産者の方々と意見交換をしながら、コアラが食べてくれるユーカリを試行錯誤して研究しています。
飼育員さんの小話
コアラの赤ちゃんは、生まれたときは体重およそ1グラム、体長は約2センチメートルと、とても小さいです。毛のないピンク色の裸の状態で、目も口も開いておらず後肢も未発達ですが、母親の育児嚢(袋)まで這って乳首に吸い付きます。袋は温かくて安全な保育器代わりになります。そんな袋の中で赤ちゃんはスクスクと大きくなり、生後約6ヶ月で袋から顔を出すようになります。しかし、赤ちゃんはまだユーカリを食べられません。
では、離乳食として何を食べると思いますか?
それは、お母さんの「うんち」です。離乳食となる特別なお母さんのうんちは栄養価が高く、ユーカリを消化する微生物が含まれています。生後7ヶ月ごろになると、袋から出てきてお母さんの背中におんぶされ、お母さんと同じユーカリの葉を食べるようになります。このときに食べたユーカリが、そのコアラの好みにあったユーカリになるといわれています。つまり「おふくろの味」というわけです。
約10~12ヶ月で独立して単独行動をし、寿命は10~14年です。お母さんといる期間は短いけれど、お母さんのぬくもりとやさしさは決して忘れないでしょう。

飼育員さんが教えるコアラの見どころ
ユーカリを交換するタイミングが人気です。交換前からコアラたちはソワソワしていて、多彩な動きを見せてくれます。そして、交換が終わると用意した数種類のユーカリの中で一番好きなユーカリから美味しそうに食べ始めます。
食事以外は寝ていることが多いですが、その寝顔もコアラファンにとってはかわいくて、何とも言えない癒しになるでしょう。
グレーのふわふわした毛皮に大きな鼻、木の枝わかれした場所でうとうとして、丸くなってお昼寝……。ぬいぐるみのような姿がかわいらしいコアラは、動物園の人気者です。国内でコアラが見られる園館は限られているので、機会があればじっくりと観察してみてください。

【文・写真】
神戸市立王子動物園
動物飼育手(学芸員):佐藤公俊(さとう・きみとし)
〒657-0838 神戸市灘区王子町3ー1
TEL:078-861-5624(代表)
公式サイト:https://www.kobe-ojizoo.jp/
X:@kobeojizoo
YouTube:神戸市立王子動物園公式
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