皆さんは乗馬をしたことがありますか?
人が乗るために準備された馬を見ると、さまざまな装備を身につけていることに気づきます。「あの革紐はなんだろう?」など、疑問に思うことも多いかもしれません。馬の装備品、いわゆる「馬具」にはたくさんの種類があり、乗馬のスタイルによって大きく姿や機能性が変わる奥深い世界です。
今回は、日本の乗馬クラブなどに多いブリティッシュスタイルで使用される基本の馬具を中心に紹介します。その上で、ウエスタン、和式など他のスタイルの馬具や競馬で見られる特殊な馬具にもふれていきます。
※本記事では蹄鉄などの一部も「広義の馬具」として扱っています

馬の頭につける馬具
頭絡(とうらく)
頭絡は馬の頭に装着する革製の道具です。額、頬、鼻、顎、うなじなど、頭全体を細い革のベルトで包むようにして固定し、ハミという馬の口に入れる金属の棒を支える役割があります。
また、馬を引いて歩くときや、お手入れなどで馬をつないでおく場合にはハミのない「無口頭絡」を使用します。

ハミ
ハミは馬の口にくわえさせる棒状の金具です。馬の口には下図のように歯のない部分(歯槽間縁)があり、ちょうどこの部分にハミが収まります。


一般的な水勒銜(すいろくはみ)はジョイント付きで、両側の輪の部分に手綱がつながります。手綱を引くと、ハミが舌と歯槽に圧力をかけ、口角にも作用します。輪の形状も丸いもののほかに、卵のような形、Dの字などの種類があります。ハミは馬とコミュニケーションを取るための、とても大切な道具です。
イヤーネット
馬は驚きやすいいきものです。イヤーネットで馬の耳を覆うことで外部の騒音を遮断したり、ハエなどの虫から耳周りを保護したりすることができます。肝の据わった馬などは、使用しないこともあります。

馬の胴体につける馬具
鞍(くら)
鞍は、人が馬の背中に座るために使われる革製の道具です。馬の負担を和らげ、人が安定して乗れるようにする役割を担っています。鞍にはいくつかの種類があります。
障害鞍は、障害物を飛ぶ際に前かがみの姿勢がとりやすい形です。馬場鞍は座る部分が深く平らで、人が脚を長く使いやすい作りになっています。総合鞍は障害鞍と馬場鞍の中間的な設計がされた汎用性の高い鞍です。

鞍の下には、馬の体を傷つけないようにボアやゼッケンを敷いて使用します。

鐙(あぶみ)
鐙は鞍の両側に吊り下げて、ライダーが足を乗せてバランスを取るための馬具です。ライダーの体重を支え、立ち上がったり前傾姿勢を取ったりする際の支点となります。適切な長さに調整することで、安定した姿勢を保つことができます。

腹帯
鞍がずれないように、馬のお腹に回して締める帯です。腹帯を締めすぎると馬に不快感を持たれますが、緩すぎると鞍が回転してしまい危険です。そのため、適度な調整がとても重要になります。

馬の脚(足)につける馬具
蹄鉄
馬の蹄(ひづめ)を保護する、人間でいう靴のようなものです。英語では「Horseshoe」といいます。乗馬では主に鉄でできた蹄鉄が使われます。装蹄師によって定期的に交換され、馬の健康維持に欠かせない道具です。

プロテクター類
馬の脚は細く、腱や靭帯を傷めやすいため、運動内容に応じてプロテクターなどを使用します。プロテクターは、特に腱部や球節などを保護します。バンテージは布で脚を巻いてサポートする道具です。
運動中には前肢と後肢がぶつかったり、後肢で前肢を踏んでしまったりすることもあります。ベルブーツはこのような踏み込みから蹄を保護します。

人が扱う馬具
手綱
手綱はライダーが手で持つロープのようなもので、頭絡についたハミの両端につながっています。手綱からハミを通じて、馬に進む方向やスピード、停止などの指示を出すことができます。

鞭(ムチ)
鞭は馬への合図を補助する道具です。乗馬では基本的にふくらはぎ(脚)で馬のお腹を圧迫して指示を出しますが、指示を強調したり、注意を促したりする際に使用します。「馬を叩く道具」「馬を叱るための道具」とよく誤解されますが、適切な使い方を学ぶことが大切です。

拍車(はくしゃ)
ライダーのブーツのかかと部分に取り付ける金属器具で、鞭と同様に脚の指示を補助する道具です。また、公式な馬場馬術の試合では鞭の使用が禁止されているため、拍車が補助具として用いられます。誤用すると馬を傷つけるため、経験者向けの馬具です。ちなみに拍車は前進や加速を促す性質から「拍車をかける」の語源にもなっています。

ブリティッシュ以外の乗馬スタイルの馬具
ウエスタン
ウエスタン馬術では、長時間の牧場作業に由来した馬具が使われています。
鞍は座面が広く、前方にホーンがついているのが特徴で、長時間乗っても疲れにくく、安定した姿勢を保てます。鐙も革でできています。
頭絡はシンプルな作りで、ハミはカーブビット(湾曲しており、馬の口にフィットする形)など、軽いタッチで馬に指示が伝わるタイプが多く使われます。
手綱は片手で操作することを前提としており、わずかな手の動きで馬に意図を伝えることができます。

和式馬術
和式馬術では、伝統に根ざした独特の馬具が使われています。用途や時代背景によっては、実用性に加えて繊細な装飾が施されることもあります。
鞍は高い前輪・後輪が特徴で、ライダーを包み込むように支え、馬上での安定性を高める構造になっています。
鐙はブリティッシュのものとは形状や向きが異なり、つま先ではなく足の裏全体を乗せる使い方を前提としています。頭絡やハミも、和式馬術の様式や目的に合わせたものが用いられます。
写真の和鞍や和鐙は、現在も福島県の相双地方で毎年行われている「相馬野馬追(そうまのまおい)」という神事で実際に使用されている馬具です。

競馬で使われる特有の馬具
競馬ではスピードが出やすいように馬具も軽いものが多く使われます。レース鞍や調教鞍も非常に軽量で、短い鐙を使う前提の形をしています。
馬が履く蹄鉄も、鉄ではなく軽さを重視してアルミが使われています。同じ「馬具」でも、乗馬と競馬では用途に合わせて大きく変わります。

その他、レースで馬が集中力を発揮するための馬具も多くあります。
ブリンカー(遮眼革)
ブリンカーは馬の目を後ろから覆う道具です。横や後方の視界を遮り、馬を前方に集中させることができます。馬が周囲の動きに気を取られることなく、レースに集中できるよう助けます。

シャドーロール/チークピーシーズ
シャドーロールは鼻の上に装着するモコモコした円筒形の道具で、馬が下方を見にくくする効果があります。地面の影などに驚きやすい馬によく使用されます。チークピーシーズは頬につけるもので、視界を軽く制限して馬の集中力を高めます。
写真では両方使っていますが、どちらか片方を使うこともあります。これ以外にもさまざまな馬具がありますので、ぜひ競馬場のパドックなどで観察してみてください。

おわりに
乗馬で使用される馬具は、馬と人が安全かつ快適にコミュニケーションを取るために発展してきた道具です。それぞれの馬具が連携して、馬と人の調和を支えています。
ブリティッシュ、ウエスタン、和式、競馬など、用途やスタイルによって馬具の姿も大きく異なります。その違いを知ることで、馬への理解が深まり、乗馬や競馬の楽しみ方も広がるでしょう。観察するときは「どこに何が付いているか」「なぜ必要なのか」を考えてみると、おもしろいかもしれませんよ。
[協力]
サンヨーガーデン
日本クオーターホース協会
【執筆】
鑓 由希子(やり・ゆきこ)
編集者・ライター。「庶民の乗馬」をテーマにブログなどを執筆。その後、初心者向け競馬コンテンツや乗馬コンテンツの制作、馬産地取材などに携わる。現在は馬文化について調べること、取材すること、伝えることをライフワークに活動中。乗馬は永遠の初心者。
Instagram:@balogram.tokyo
「いきもののわ」では、ペットや動物園・水族館、野生動物、動物関連イベントなど、いきものにまつわる様々な情報をお届け中!
メールマガジンでは、特集記事の紹介や次月特集の一部をチョイ見せ!
登録はこちらのフォームから。ぜひご登録ください!
