「年齢を重ねたら、シニア用フードに切り替えたほうがいい?」
「療法食って、体にやさしそうだからはじめるべき?」
犬や猫の診療現場では、こうした質問を日常的に受けます。
実は、「シニア」という言葉だけで食事を決めてしまうことが、かえって体に負担をかけてしまうこともあります。
今回は、犬と猫に共通する栄養の基本からシニア期に起こる体の変化、後編では、療法食の正しい位置づけをわかりやすく解説します。

そもそも「シニアとは何か」から考えよう
日々飼い主さんとお話すると、5歳くらいでも「もう年だから」と言われることがあります。シニア期とはどのくらいのことなのでしょうか?
ヒトのライフサイクルには、乳幼児期(0~6歳ごろ)、学童期(6~12歳ごろ)、青年期(12~20歳ごろ)、成人期(20~40歳ごろ)、壮年期(40~65歳ごろ)、老年期(65歳以上)があります。これらのうち、シニア期は老年期として認識されることが多いです。
それでは、犬や猫のライフサイクルにおいて、老年期は何歳ごろなのでしょうか。
AVMA(The American Veterinary Medical Association:米国獣医学会)およびAKC(American Kennel Club:アメリカンケネルクラブ)の基準によると、犬や猫の老年期は、10~12歳以上といえます。
・小型犬(体重9 キログラム以下):12歳以上
・中型犬(体重9.5~22.7キログラム):11歳以上
・大型犬(体重23.1~40.8 キログラム):10歳以上
・猫:11歳以上
また、シニア期には筋力低下(サルコペニア)などの加齢性変化だけではなく、慢性疾患の発現もみられることがあるため注意が必要な時期といえます。

知っておきたい「五大栄養素+水」
犬や猫の体は、五大栄養素と水によって支えられています。これは年齢に関係なく変わらない、健康の土台です。
1.たんぱく質―体を作り守る材料
たんぱく質は、体を作り守る材料であり、筋肉や内臓、皮膚・被毛、免疫細胞のもとになります。
シニア期になると筋肉量は自然と減少しやすくなりますが、「腎臓が心配だからたんぱく質を制限したほうがいいって聞いた」などと安易に過度なたんぱく質制限をすることにより、筋力低下やフレイル(虚弱)につながって、状態がかえって悪くなることがあります(近年では、慢性腎臓病でも極端なたんぱく質制限は必要ないといわれています)。
犬や猫の食性も考えてみましょう。
・犬:雑食性に近く、ある程度の調整幅がある
・猫:完全肉食動物で、高品質なたんぱく質が不可欠
シニア期に限らず、犬と猫では食性が大きく違います。特に猫は完全肉食動物なので、高たんぱくフードが必要です。
【TOPIC!】犬と猫で特に重要な違い~必須アミノ酸のタウリン~
・犬:通常は体内で合成可能。ただし、特定の食事条件や犬種では不足することが報告されている
・猫:体内で合成できない。不足すると拡張型心筋症や網膜変性の原因になる

2.脂質―エネルギーと皮膚・被毛の要
脂質は、悪役となることも多いですが、エネルギーと皮膚・被毛の要であり、少量で効率よくエネルギーを供給して皮膚や被毛の健康を支えているため、必要な栄養素です。
一方で、とりすぎは問題です。運動量が減るシニア期には、過剰摂取が肥満や膵臓への負担につながることがあるので注意が必要です。
3.炭水化物―犬と猫で使い方に違いあり
炭水化物は、糖質や食物繊維であり、犬と猫で使い方に違いがある栄養素です。
・犬:雑食なので消化・利用が可能なエネルギー源
・猫:完全肉食動物なので必須ではないが、フード設計上利用されることが多い
4.ビタミン・ミネラル―少量でも重要
ビタミン・ミネラルは、犬と猫の代謝や免疫、骨、神経のはたらきに不可欠です。
不足だけではなく、過剰摂取も問題になる点がシニア期では特に重要です。
5.水―最も重要だが、最も不足しやすい
水分は最も重要なのですが、最も不足しやすいので注意が必要です。水分摂取量の低下により、腎臓や尿路トラブルのリスクを高めます。特に猫では、慢性的な水分不足が問題になりやすいことが知られています。
【TOPIC!】獣医師からの一言
シニア期の食事で大切なことは、「減らすこと」ではなく、「適切に満たすこと」です。
栄養不足は、老化を早める原因にもなります。

シニア期に体の中で起こっていること
見た目では元気そうでも、シニア期の犬や猫の体の中では、少しずつ変化が進んでいます。その小さな変化を見逃さないようにしましょう。
変化その1:消化器
・消化、吸収の力がゆっくりと低下する
・胃腸の動きが緩やかになる
・消化酵素の分泌が減少する
これらの変化の結果、若い頃と同じフードだと「消化しきれない」「栄養を吸収しにくい」状態になることがあります。
対策としては、消化性の高いフード(状態により種類の違いあり)への切り替えや、1回の食事量の負担を軽減させるために、食事を少量頻回にするなどを検討すると良いでしょう。
変化その2:エネルギー消費量と活動量が減る
活動量が落ち、エネルギー要求量は必然的に減ります。よってシニア期は、筋肉量が落ち、多くは痩せていきます。場合によって、若い頃と同じ量を食べていて逆に太ってしまった、という変化がみられるかもしれません。
対策として、活動量(運動量)と食事量(エネルギー量)のバランスを確認しましょう。活動量に対して食事量が多い場合は、活動量を上げるか食事量を減らす、または低カロリーの食事に変更するなど、検討してください。
しかし、シニア期になったからといって、急に食事量を減らしたり、低カロリーのシニア用フードにしたりしてはいけません。シニア期に入っても元気で食欲もあり、活動量も多い場合は、シニア期より前の時期と同じ食事量で良いこともあります。
ただし、活動量が落ちた場合、シニア期では特に多い病気として、運動器疾患、心臓疾患、腎臓疾患に注意が必要です。それぞれの代表的なサインは、以下の通りです。
■運動器疾患
・寝起きにもたつく、足腰の動きがおかしい、散歩中すぐ休憩したがる、など
■心臓疾患
・疲れやすい、すぐにハアハアする、咳が出る、など
■腎臓疾患
・喉がかわく、尿が多い、尿のにおいがあまりしない、など
これら慢性疾患のサインは、普段とは違う変化です。これらの異変が兆候のすべてではありませんが、「病気かもしれない」と頭の隅に置きながら日々観察してください。注意点として、1回だけの変化の場合はその理由となる前後関係を考えましょう。一緒に暮らしている人間や住居環境内などに変化があった、食事やおやつなどでいつもと違うものを与えた、その他何らかのストレスがあったなど、まずは原因を考えてみてください。このような変化がなく、異変が何回も続く、だんだんひどくなる、となった場合はすぐに動物病院を受診しましょう。もちろん、悪くなってはいないけど不安ということであれば、健康診断を検討するのもよいでしょう。
とにかく、いつも一緒にいる飼い主さんが、これらの小さな変化を見逃さないことが重要です。逆にいえば、いつも一緒にいれば、これらのようなちょっとした変化も見逃さないでしょう。
後編では、療法食の正しい位置づけを解説します(2026年3月公開予定)。
【TOPIC!】獣医師からの一言
「シニアだから全部控えめに」という考え方は危険です。何を減らし、何を維持・補うべきかを見極めることが重要です。

[参考文献]
・The American Veterinary Medical Association:Caring for senior cats and dogs.
https://www.avma.org/resources-tools/pet-owners/petcare/senior-pets
・American Kennel Club:How to Calculate Dog Years to Human Years.
https://www.akc.org/expert-advice/health/how-to-calculate-dog-years-to-human-years/
・Case LP et al. “Basic Nutrition, In: Canine and Feline Nutrition, 3rd ed”, pp1-53. Mosby, 2011.
https://books.google.com.cu/books?id=hd4CRyaDkKoC&printsec=frontcover&utm_source=chatgpt.com#v=onepage&q&f=false
・“Nutrient Requirements of Dogs and Cats”, National Research Council. National Academies Press, Chapter 3ENERGY-9WATER, pp28-251, 2006.
https://www.nationalacademies.org/read/10668/chapter/1
・Fascetti AJ, Delaney SJ et al. “Applied Veterinary Clinical Nutrition”, Wiley-Blackwell, 2012.
https://www.wiley-vch.de/de?isbn=9781119375142&option=com_eshop&view=product&utm_source=chatgpt.com
・Peng Li & Guoyao Wu. “Amino acid nutrition and metabolism in domestic cats and dogs”, Journal of Animal Science and Biotechnology, 14, 19, 2023.
https://link.springer.com/article/10.1186/s40104-022-00827-8?utm_source=chatgpt.com
・IRIS, IRIS Guidelines on Kidney Disease
https://todaysveterinarypractice.com/wp-content/uploads/sites/4/2017/01/TVP-2017-0102_FEATURE_CE_IRIS-CKD_AUTHORPDF.pdf
【執筆者】
小沼 守(おぬま・まもる)
獣医師、博士(獣医学)。千葉科学大学特担教授、大相模動物クリニック名誉院長。日本サプリメント協会ペット栄養部会長、日本ペット栄養学会動物用サプリメント研究推進委員会委員、獣医アトピー・アレルギー・免疫学会編集委員、日本機能性香料医学会理事・編集委員他。20年以上にわたりペットサプリメントを含む機能性食品の研究と開発に携わっている。
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