猫と一緒に暮らしたことがない人でも、「猫は食事へのこだわりが強い」「猫は食べ物の好き嫌いが激しい」といったことを、一度は耳にしたことがあるのではないでしょうか?
実際に猫と一緒に暮らしていると、「せっかく買ってきた新製品のキャットフードを食べてくれない」「好きなものしか食べない」あるいは「昨日まで食べていたのに今日は食べない」といったようなことを、多かれ少なかれ経験すると思います。
しかし、猫の食事に関するこだわりは、人と比べるととてもシンプルです。このこだわりを理解してあげることで、猫の食生活はより豊かなものになります。

こだわり一つ目:香り
肉食動物の猫は、肉に含まれるアミノ酸や核酸、脂分などの成分の香りを好みます。「猫にかつお節」ということわざがあるように、猫がかつお節を好むことは古くから多くの人が共有している経験則です。かつお節には、アミノ酸の一つであるグルタミン酸や、核酸由来のイノシン酸などの猫が好む成分が豊富に含まれていて、猫がかつお節を好むことは科学的にも裏付けられています。これらの成分が多く含まれる食事は猫に好まれる可能性が高いです。逆にいえば、新しいペットフードに変えたときに食べなくなったり、もっと美味しいものが出てくるのを待ったりする原因になることもあります。
香り成分は、温めることによって揮発して嗅覚を刺激します。電子レンジでウェットフードやペースト状のものを温めるときは、外側だけ温まって中は冷たいという状態は避けるようにしましょう。温めたら混ぜて、全体が均一に体温と同じくらいの温度になるように調節してあげてください。
ただし、香りに関しては一つ注意点があります。猫を惹きつけるこれらの香り成分は、時間が経つと変化します。核酸や脂分由来の成分は、時間が経つと「古くなったもの」「酸化したもの」として避けられてしまいます。こちらが気づいていなくても、食事に含まれる成分は変化していることがあるので気をつけましょう。特に、生の魚ではこのことは顕著です。
こだわり二つ目:食感
猫が好む食感として特徴的な点は、ペースト状であることと、硬いことです。
ペースト状の物を好むのは、香り成分が揮発しやすいということもありますが、獲物の骨についている肉や脂分を舌でこそぎ取るという習性も関係しているのかもしれません。
一方で、猫は「硬い」ドライフードを好む傾向があります。そのため、多くのペットフード会社から販売されているキャットフードに含まれている水分は、5パーセントほどと少なく、「カリっ」とした食感に作られています。犬はもう少し水分含有率が高く、キャットフードよりも柔らかい硬さを好むようです。
食感について一つ覚えておいていただきたいことは、猫は歯の痛みに敏感であるということです。特に、硬いドライフードを噛む時に痛みを感じると食べなくなってしまうので、歯の健康には日頃から気を配ってあげましょう。

こだわり三つ目:食事をする環境
これは、猫の気持ちになって、どのような環境だと気持ちよく食事ができるかを推し量ってあげることに尽きます。食器は静かな場所かつトイレの近くには置かない、猫用フェロモン製品を拡散するなど、様々なことがあげられます。
中には、良かれと思ってやっていることでも実は猫にとっては有害であることもあります。たとえば、自分が好むアロマオイルを猫も好むだろうと考えて焚く、などということはやってはいけません。猫にアロマオイルは有害です。
おわりに
最後にお伝えしたいことは、「猫の個性を見つけて、それを尊重する」ということです。一般的とされている猫の好みとは異なる好みを持つ猫もいます。
たとえば、食器の素材として好まれるのはガラスよりも陶器とされていますが、中にはガラスの食器を好んで使う猫もいます。トイレの砂は、小さい(細かい)砂を好むといわれていますが、中には大きめのものを好む猫もいます。食事や飲水の場所は、静かで猫が落ち着く場所が良いと前述しましたが、振動している洗濯機の上で水を飲むことを好む猫がいると聞いたこともあります(食事は洗濯機の上では食べないそうです)。
ただし、いくら猫が好んでいても、あるいは好んでいるように見えても、猫の健康を損なう事態は避けなければなりません。代表的なものは、甘い物を与えることです。猫は、人や犬のように甘さを感じることはできません。しかし、生クリームやあんこを好む猫はいます。これは、甘いから好んでいるのではなく、脂分やアミノ酸の香り・味、ペースト状の食感を好んでいるためだと考えられます。見方を変えると、甘いものに含まれる糖質を、知らずに食べてしまっているということです。猫にとって食事に含まれていなくてもよい糖質は、食べ過ぎると体に害を与えかねません。
正しい知識で猫を守りつつ、許容できる範囲でいろいろな選択肢を与えてあげて猫に選んでもらうスタイルは、猫の食生活を豊かにするための一つの方法であると思います。
本記事が、みなさんと猫の関係において何かの参考となれば幸いです。
【執筆者】
北中卓(きたなか・たく)
獣医師。博士(獣医学)。日本大学生物資源科学部獣医学科卒業。動物病院での診療やペットフードメーカーでの学術職を経て、現在はVCA Japan 合同会社 学術教育部長を務めながら、北海道大学、日本大学、日本獣医生命科学大学で非常勤講師を兼任。獣医師でもありペットオーナーでもある立場から、動物にとって最善なことは何なのかという目線で、15年以上に渡り適切な栄養管理の啓発活動を行っている。
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