あなたの愛猫は大丈夫? 猫の肥満と健康管理

うちの猫は本当に太っているの?

日常の診療で「うちの子は太っていますか?」と聞かれることがよくあります。

ヒトでは体重と身長からBMIを計算したり、体重計などで体脂肪率を測定したり、いくつかの肥満度を表現する数値があります。これに対して猫では客観的な表現方法はなく、BCS(Body Condition Score)という評価方法が唯一となります。

肋骨や背骨がどの程度触れるか、お腹のくびれがどの程度あるかなどにより、1〜5あるいは1〜9段階にクラス分けをします。3または4が平均的な体格とされており、1になるほど痩せ、5または9になるほど肥満となります。BMIや体脂肪率と比較すると、主観的な要素が強くなってしまう傾向にあります。

BCSは、当サイトのこちらの記事を参考にしてみてください。
できていますか? 愛猫の体重管理

なんで太ってしまうの?

ヒトと同じように、猫が太ってしまう主な原因は「食べ過ぎ」です。
肥満猫の飼い主に「何をどれくらい食べているの?」と聞くと、「太っているからダイエットフードをあげています」などと言われることが多いです。
そもそも、「ダイエット」という単語は日本では「痩せる」という意味でよく使われますが、本来は「食事」という意味です。パッケージに”Diet”と書いてあっても、減量用の食事ではないことに注意してください。

また、猫は1日を通してダラダラと食べる食性を持つので、フードボウルに餌が少なくなると補充する、という与え方をする人も多いです。この餌の与え方を不断給与といいます。この方法では1日にどのくらい与えているか分かりづらくなり、実はオーバーカロリーだった、ということが起こりやすくなります。そして肥満になった猫において、不断給与の傾向がとても多いようです。また、多頭飼いをしている場合は、肥満になった猫が他の猫の餌もほとんど食べてしまうようです。

太るとどんな病気にかかりやすくなるの?

ヒトでは、肥満を「肥満症」という病気として捉えるようになっています。糖尿病や高血圧などの疾患を発症しやすくなるからです。肥満の猫も同じように、いろいろな疾患を発症しやすくなります。

糖尿病

糖尿病は、太ることでもっとも心配される疾患です。どの猫種でも発症しますが、遺伝的な素因があると、太ることによって発症のリスクはとても高くなります。多飲多尿や異常な過食、痩せてくるなどの症状がみられるので注意する必要があります。
糖尿病を放置していると、ケトン体が増加して身体が酸性に傾く「ケトアシドーシス」を発症します。元気・食欲の急激な低下から、重篤になると昏睡状態に陥り死亡することがあります。猫では、早期に適切な治療を行うことで糖尿病から離脱できることがあります。

脊椎疾患、変形性関節症

体重の増加により、脊椎や四肢の関節に負担がかかりやすくなります。このため、脊椎では椎間板ヘルニアや変形性脊椎症の発症、スコティッシュフォールド、メインクーン、ペルシャ、ヒマラヤン、アビシニアンでは、四肢の変形性関節症を発症しやすくなります。いずれも痛みや、跛行(はこう・びっこ)、運動低下が見られ、高いところへのジャンプを躊躇したり、できなくなったりします。

呼吸器疾患

太ることで喉や気管のまわりにもたくさんの脂肪が沈着し、気道を圧迫して呼吸しづらくなります。また、胸腔のまわりについた脂肪により、肺が膨らみづらくなって呼吸が浅く速くなるなど、呼吸機能の低下を招きます。これらによって運動もできなくなるため、さらに肥満が進行することになります。

尿路疾患

動きたくなくなるため、飲水や排尿を我慢するようになり、膀胱炎や膀胱結石などの尿路疾患を発症しやすくなります。

脂肪肝

肝臓にも脂肪が蓄積しやすくなり、重度になると肝不全を引き起こして死に至る危険性もあります。

どうやって痩せさせればいいの?

猫の減量方法は食事療法がメインとなります。

1.目標体重の設定

太る前の体重、あるいはBCSから理想の体重を設定するなどして、目標となる体重を決めます。もし理想の体重が現体重と1キログラム以上差がある場合は、現体重から500グラム減くらいに設定しましょう。目標体重に達成したらさらに500グラム減を目標とするなど、段階的に設定するようにします。

2.食事量の設定

食事量はカロリーをベースに必要量を求めます。
まず、RER(安静時要求カロリー)を目標体重から以下の計算式にて算出します。

式:RER=70×(目標体重)0.75

目標体重の0.75乗は、目標体重の3乗に2回平方根(√)をしたものです。
ルートのある計算機を使用して算出することができます。

例:目標体重が3キログラムの場合、以下のように入力
3×3×3=√√×70=159.56

次に、MER(またはDER:1日のカロリー要求量)を算出します。
RERに、運動量や体格などに合わせた係数(R)を掛けますが、猫では継続的な運動量によるカロリー消費はなかなか期待できないため、R=0.8~1.0としてMERを算出します。このMERが1日に必要な食事カロリーとなります。

例:MER=159.56の場合
159.56×0.8=127.64

3.食事内容の設定

できるだけ、満腹感を得られるような食事内容にしましょう。決まった食事しか摂らない猫が多いようですが、何でも食べてくれるようであればウェットフードを取り入れるようにしてください。
ドライフードの場合は、いわゆるダイエットフードが良いでしょう。通常のドライフードが100グラムあたりおよそ350〜400キロカロリーなのに対して、ダイエット用のドライフードは300〜350キロカロリーとなり、せいぜい1〜2割のカロリーダウンとなるくらいです。このため、ダイエットフードだからといってたくさん与えると、かえってカロリーオーバーとなるので注意してください。

一方で、ウェットフードのほとんどが100グラムあたり100キロカロリー前後と低カロリーですが、水分が多いので満腹感があります。問題点としてはコスト面や、ドライフードと比べると味が薄いため、食べない可能性があるということです。

タンパク質、炭水化物、脂質を三大栄養素といいますが、体内に吸収された炭水化物と脂質から肥満のもととなる脂肪が作られます。猫は、タンパク質と脂質を主なエネルギー源としていて、炭水化物は利用しにくい傾向にあります。そのため、栄養素としては高タンパク、低脂肪、低炭水化物の食事を与えるようにしましょう。ただし、腎障害などでタンパク質を制限しなければならない疾患では注意が必要です。そのような場合は、獣医師へ相談してください。

4.体重の管理

食事量および内容を変更したら、週1回あるいは月に2〜3回の定期的な体重測定と、BCSの評価をしてみましょう。
減量のペースとしては、1週間で体重の1パーセント、または1ヶ月で5パーセントの減量が目安です。これ以上の急激な体重減少は、体脂肪が肝臓へ急速に動員されて脂肪肝になる危険性があります。反対に、体重が減らない、あるいは増えてしまう場合は、摂取カロリーの再計算をし、可能であれば摂取カロリーを1割程度減量するようにします。それとともに、体重が減りづらい疾患があるか検査してください。猫で体重増加する疾患としては、副腎皮質機能亢進症、先端巨大症などがありますが、いずれも発症頻度はとても低く、糖尿病を併発することが多いため、多飲多尿などの症状が見られるようになります。

体重のほかに体格の評価も大切です。体重は減少したものの、脂肪は依然として残っていて筋肉だけ落ちてしまうことがないようにする必要があります。
もしこの傾向があるようなら、食事の内容を見直してできるだけ運動をさせるようにしましょう。猫に運動をさせるのはなかなか難しいですが、オモチャを利用したり、キャットタワーやキャットウォークを設置するなどして、運動を促すようにしてみてください。

おわりに

猫の肥満は、ヒトと同様にいろいろな病気の原因となります。また、犬と比べると、太ってしまってから減量させるのはとても大変なので、太らせないようにすることが大事です。そのためには、毎日の食事量をしっかりと管理するようにして、多頭飼いをしている場合には食事量に偏りが出ないように、注意するようにしましょう。

【執筆者】
長谷川 承(はせがわ・しのぐ)
獣医師、アルマ動物病院 糖尿病・内分泌病センター(東京都目黒区)院長。日本獣医畜産大学(現:日本獣医生命科学大学)大学院博士課程を修了後、東京都内の動物病院勤務、東京女子医大糖尿病センターでの研修などを経て、2002年にアルマ動物病院を開院。2010年、付属ハイドロセラピー施設「Club Alma」を開設。2015年、CCRP(テネシー大学公式認定リハビリテーションライセンス)を取得。大学院時代からライフワークとして糖尿病の研究・診療に取り組む。院内に糖尿病・内分泌センターを設置し、日々多くの動物の診療にあたっている。東京都獣医師会、日本糖尿病学会、動物臨床医学会、日本獣医再生医療学会、日本ペット栄養学会に所属。

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