かわいげに猫の手をあげて「福を招く」招き猫。まっすぐにこちらを見ている顔、笑った表情、小判を持っているものなど、さまざまな種類があり、今では国内だけではなく海外でも人気です。
そんな招き猫は、いつどこで誕生したのでしょうか。
今回は、招き猫を愛し、招き猫に招かれて集まった愛好家グループ・日本招猫倶楽部に、招き猫の起源や魅力、ご利益や海外の招き猫事情などを伺いました。

今も昔も、日本全国津々浦々で福を招き続ける
―まずは、日本招猫倶楽部がどのような団体なのか教えてください。
日本招猫倶楽部は、1993年に設立された招き猫愛好家団体で、会員は全国に約500人います。招き猫が好きな人なら誰でも入れます。
愛知県瀬戸市には、「日本招猫倶楽部 招き猫ミュージアム」があり、招き猫を日本の伝統文化の1つと捉え、収集情報の交換、古い招き猫の研究や保存・復刻、情報発信などをしています。

ここでは、古今東西の招き猫が約5,000点展示しています。
―5,000点もあるんですね!
―そんな種類がとても多い招き猫ですが、いつどこで作られ始めたのでしょうか?
招き猫は、今から約180年前の江戸末期に、江戸で誕生した日本独特の縁起物です。浅草寺の裏で、丸に〆と刻まれた今戸焼の猫が売られて大流行したのがはじまりだとされています。また、嘉永5年(1852年)に刊行された歌川広重の浮世絵に、丸〆猫が描かれています。

江戸生まれの招き猫は、明治・大正・昭和・平成・令和と、6つの時代を超えて福を招き続けてきました。伝統的なものから、キティちゃんやドラえもん、ポケモンなど、人気のキャラクターとコラボしたものなど、自由自在に変化する柔軟性が招き猫の魅力の1つです。
有名な産地は、二頭身の愛嬌たっぷりな常滑焼(愛知県常滑市)、日本初の量産を開始した瀬戸焼(愛知県瀬戸市)、華やかな色絵が特徴の九谷焼(石川県小松市周辺)などで、このほか日本各地に伝統的な郷土玩具の招き猫が存在します。また、昭和後期からさまざまなジャンルのアーティストが自由な発想でつくる「創作招き猫」が人気を集めています。
豪徳寺(東京都世田谷区)、今戸神社(東京都台東区)、住吉大社(大阪市住吉区)、お松権現(徳島阿南)など、猫にまつわる伝説や由来から招き猫を授与する寺社もあります。

あげている手や色、形でご利益が違う?
―招き猫には、右手をあげているものと左手をあげているものがありますが、何か違いがあるのでしょうか?
右手あげの招き猫は「かね招き」、左手あげは「ひと招き」といわれています。「金も人も」と一挙両得を狙う両手あげもありますが、「お手上げ」を連想するといわれることもあります。
挙げた手が耳を越すものを「手長」と呼び、大きな福、遠くの福を招き寄せるといいます。

白、または白地に三毛柄の猫はスタンダードな「開運招福」、黒い猫は「厄災消除」「盗難除け」「金運招来」、赤い猫は「健康長寿」、ピンクは「恋愛成就」などさまざまな御利益が期待されています。黄色や青、緑などのカラフルな色は、近年、風水と結びついて生まれたものです。
招き猫を置く場所は商店なら入り口、家庭なら玄関など、人を迎える場所でやや高い所が良いとされます。寺社などでいただいて特別な願をかけた猫は、願いが叶ったら元の寺社に納めます。倍返しで、招き猫を2つにして返す習わしがあるところもあります。
―特徴のある招き猫を教えてください!
かつては、日本各地で土人形や張子(はりこ)、練物(ねりもの)などの風土や慣習を活かした郷土玩具の招き猫が作られていました。残念ながら、新しい素材の玩具に取って代わられ、後継者不足もあって廃絶した産地が多くあります。現在も製作が続いているものをいくつかご紹介します。
花巻人形(岩手)
日本三大土人形のひとつです。赤や紫で描かれた梅の花模様が特徴で、雪深い東北の春を待つ心を伝えてくれるような見た目です。口の周りが黒く縁取られた猫は「ドロボウ猫」「カマド猫」などと呼ばれ、親しまれています。

高崎張子(群馬)
世界遺産「富岡製糸場」がある群馬では古くから養蚕が盛んで、鼠害から蚕を守る猫が重用されていました。張子のだるまや招き猫は養蚕の守護神として信仰を集め、元旦に開かれる「高崎だるま市」には招き猫も並びます。

鴻巣練物(埼玉)
桐箪笥の生産で出るおがくずに、生麩糊(しょうふのり)を混ぜて乾燥させた「練物」です。鴻巣は、特に疱瘡(ほうそう:天然痘)除けの「赤もの」で知られています。疱瘡神は赤色を嫌うといわれており、子どもに持たせる習わしがありました。

伏見人形(京都)
五穀豊穣の伏見稲荷信仰とも結びついている伏見人形は、「すべての土人形の祖」といわれており、日本各地に広まりました。親猫に沢山の子猫が付いた「子持ち猫」は、安産や子孫繁栄のシンボルです。

津屋崎人形(福岡)
博多人形の流れをくむ土人形で、古い型はほっそりとした細面の稲荷狐を思わせる造形です。近年の型は、ふっくらと丸みを帯びてかわいらしく、色遣いも華やかです。すべて左手挙げの「ひと招き」な点が特徴です。
―海外ではどのような扱いなのでしょうか?
海外でも招き猫は良く知られています。北米圏では「Lucky cat」と呼ばれ、主に日本料理店や中華料理店に置かれています。輸出用の招き猫は、手の甲をこちらに向けて”Come on”と招くスタイルです。これは、文化的なジェスチャーの違いを反映したものです。小判をコインに替えた通称「ドル猫」なんてものもあります。

独特な進化を遂げたものの1つに、お金にまつわる縁起担ぎが好まれる中華圏で、派手な金色にゴージャスな装飾を施した「招財貓」が人気を集めています。
―そんな招き猫をこよなく愛している「日本招猫倶楽部」が制定した、「招き猫の記念日」があるとお聞きしました。
人間のために福を招いてくれている招き猫に感謝する日として、9月29日を「来(9)る福(29)招き猫の日」に制定しました。
また、毎年9月29日に、三重県伊勢市「おかげ横丁」周辺と愛知県瀬戸市尾張瀬戸駅周辺、長崎県島原市「しまばら水屋敷」などで、猫づくしの「来る福招き猫まつり」が開催されています。

江戸の流行り神として生まれた招き猫が、商家の千客万来・商売繁盛の縁起物となり、さらに現在では一般家庭で身近に置いて愛されるマスコットになりました。これは、ひとえに、モデルとなった猫の愛らしさと野生味、時に謎めいた雰囲気といった魅力が大きいといえるのかもしれません。
これからも、国内外で人間に幸福と平和を招く「ラッキーゴッド」として進化を続けていく招き猫から、目が離せません。
おわりに
誰もが一度は見たことのある招き猫ですが、あげている手でご利益が変わったり、伝統工芸品としての一面があったりと、知らなかった魅力をたくさん教えていただきました。
みなさんも、おうちの玄関や店先で福を招いてもらってみてはいかがでしょうか?
[写真協力]
郷土玩具などの写真:板東寛司
日本招猫倶楽部
1993年設立。招き猫が好きであれば誰でも自由に参加できる、全国的な招き猫の愛好家サークル。招き猫を通じて、日々の生活が少しでも楽しく愉快なものになるよう活動を続ける。
ホームページ:https://www.manekinekoclub.org/
招き猫ミュージアム:https://www.luckycat.ne.jp/
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