虫の目線で季節を見る【第11回】集団で越冬するヨコヅナサシガメ

環境の変化で急速に広がる外来種

近年、日本各地の住宅地や公園、街路樹などで目にふれる機会が増えている昆虫の一つに、ヨコヅナサシガメがあります。特に真冬のこの季節、桜の木の幹のくぼみで集団越冬するサシガメの姿は印象深く、昆虫に関心の薄い人々にも強い印象を与えるようです。

ヨコヅナサシガメの成虫(右)と幼虫(左)

ヨコヅナサシガメは、カメムシ目サシガメ科に属する大型の昆虫です。原産地は中国やインドシナ半島、インドとされています。侵入経路は不明ですが、1928年にはじめて九州で記録されています。
その後徐々に分布を広げ、1970年代後半から中部地方に進出、1990年代以降は関東地方にも定着し、近年では東北地方でも記録されるようになっています。

このような分布拡大の背景には、いくつかの要因が重なっていると考えられます。一つは、物流の高速化と広域化により、個体が意図せず長距離を移動する機会が増えたこと。そしてもう一つは、地球温暖化の影響です。南方系の昆虫である本種にとって、日本の冬は厳しいものでしたが、気温上昇が越冬成功率を高め、定着を容易にしたのかもしれません。

体格・パワフルさ、共にヨコヅナ級

本種の和名の「ヨコヅナ(横綱)」は、その大きな体格と特徴的な形態・色彩に由来しています。成虫の体長は16~24ミリメートルにも達し、日本に分布するサシガメ類の中でも最大級のサイズを誇ります。全身は光沢のある黒色を基調としていますが、腹部の縁(結合板)が平たく葉状に張り出しており、そこに白と黒の鮮やかな斑紋が交互に並んでいます。この模様が、相撲の最高位である横綱が締める「注連縄(しめなわ)」のように見えることから、この名前が付けられました。
また、脚の付け根部分や前胸背の一部には鮮やかな赤色が見られ、黒・白・赤のコントラストが非常に強い視覚的インパクトを与えます。

腹部の白と黒の斑紋が横綱が腰につける注連縄を想起させる

口器は、サシガメ類特有の太く鋭い刺針状をしています。普段は胸の下側に折りたたんでいますが、獲物となる他の昆虫を捕らえる際には前方へと突き出し、注射針のように獲物の体内に突き刺してその体液を吸います。
捕食対象は多岐にわたり、樹上に生息するケムシやイモムシといった蛾の幼虫、コガネムシ、ハエ、さらには自分よりも体格の大きなセミを襲うこともあります。

口器を突き刺し、体液を吸う

特徴的な集団越冬

日本の環境下では基本的に「年に1世代(一年一化)」です。初夏から夏にかけて樹皮の隙間などに卵塊として産み付けられた卵は、夏から秋にかけて孵化します。孵化した幼虫は、そのまま樹上で生活し、秋が深まると越冬の準備に入ります。

ヨコヅナサシガメの幼虫

本種が最も目立つ時期の一つが、この冬の時期です。ヨコヅナサシガメの幼虫には強い集団性があり、サクラ、エノキ、ケヤキなどの樹皮のくぼみに数十~数百匹単位で固まって越冬します。集団でいることで微気象(びきしょう:地表面や建物などの影響で変化する地表付近の気象)を安定させ、冬の寒さや乾燥から身を守っていると考えられています。春になり気温が上がると、幼虫たちは再び活発に動き出し、脱皮を繰り返して5月ごろに成虫へと羽化します。

木の幹のくぼみや割れ目に集まって越冬する

変化し続ける人と自然環境の関係を考える

ここで、ヨコヅナサシガメの外来種としての法的な立ち位置についても整理しておきましょう。日本には「外来生物法(特定外来生物による生態系等に係る被害の防止に関する法律)」があり、生態系や人体に重大な影響を及ぼす種を「特定外来生物」として指定し、飼育や運搬を厳しく制限しています。ヨコヅナサシガメは現時点(2026年1月)において、特定外来生物には指定されていません。また、農林水産業に甚大な被害を及ぼす「重要病害虫」としても扱われてはいません。
しかし、強力な捕食者であるヨコヅナサシガメは、日本在来のサシガメ類の多くより大型で個体数も多いことから、侵入・定着した先では、在来の昆虫たちに対して長期に渡り高い捕食圧がかかります。また在来のサシガメとの餌資源をめぐる競合を起こすなど、様々な影響を与える可能性が否定できません。昆虫の世界における影響は目に見えにくく、特定の種が減少した原因がヨコヅナサシガメの侵入によるものなのか、あるいは環境改変そのものに起因しているのかを切り分けるには、継続的な調査が不可欠です。

その一方で、人との関わりにおいては、ヨコヅナサシガメは多面的な評価を受ける昆虫です。
ネガティブな面では「刺咬被害」があげられます。本種は積極的に人を襲うことはありません。しかし、不用意に掴んだり、服の中に入り込んだ個体を圧迫したりすると、自己防衛のために鋭い口器を突き立てます。するとその瞬間、注入される消化酵素の影響で電撃が走るような痛みを感じ、その後、患部が腫れて炎症が数日続くこともあります。住宅地や小学校の校庭など、子どもが触れやすい場所では注意が必要な虫といえるでしょう。
反対に、園芸や農業の視点からは「益虫」としての評価も受けています。街路樹や果樹園などでは、葉を食い荒らすチョウやガの幼虫を大量に捕食するため、薬剤散布に頼らない天然の防除力としての役割を果たしている側面があります。

このように、本種は農業被害を直接引き起こすわけでもなく、派手な大量発生を起こす種でもありませんが、人の生活圏に入り込みやすい性質を持っており、人と外来昆虫との距離感を考える材料になるでしょう。外来種という言葉だけで一括りに駆除対象とするのではなく、その由来や生態、影響を丁寧に調べ、理解する姿勢が問われています。ヨコヅナサシガメの存在は、日本の自然環境が人間活動と密接に結びつき、変化し続けていることを静かに物語っているのかもしれません。

【写真・文】
尾園 暁(おぞの・あきら)
昆虫写真家。1976年大阪府生まれ。近畿大学農学部、琉球大学大学院で昆虫学を学んだのち、昆虫写真家に。日本自然科学写真協会(SSP)、日本トンボ学会に所属。著書に『くらべてわかる トンボ』(山と渓谷社)『ぜんぶわかる! トンボ』(ポプラ社)『ハムシハンドブック』(文一総合出版)『ネイチャーガイド 日本のトンボ』(同上・共著)など。
X:@PhotomboOzono
Instagram:@akiraozono_photography
ブログ:湘南むし日記

「いきもののわ」では、ペットや動物園・水族館、野生動物、動物関連イベントなど、いきものにまつわる様々な情報をお届け中!
メールマガジンでは、特集記事の紹介や次月特集の一部をチョイ見せ!
登録はこちらのフォームから。ぜひご登録ください!

各種SNSも随時更新中! ぜひフォローしてください!