うちの犬は本当に太っているの?
日常の診療で「うちの子は太っていますか?」と聞かれることがよくあります。
ヒトでは体重と身長からBMIを計算したり、体重計などで体脂肪率を測定したり、いくつかの肥満度を表現する数値があります。これに対して犬では客観的な表現方法は無く、BCS(Body Condition Score)という評価方法が唯一となります。

肋骨や背骨がどの程度触れるか、お腹のくびれがどの程度あるかなどにより、1〜5あるいは1〜9段階にクラス分けをします。3または4が平均的な体格とされており、1になるほど痩せ、5または9になるほど肥満となります。BMIや体脂肪率と比較すると、主観的な要素が強くなってしまう傾向にあります。この方法をお知らせすると、多くの飼い主から、愛犬の色々なところを見たり触ったりすることで、改めて愛犬が肥満気味だったことに気づくことができたと喜ばれます。
当サイトのこちらの記事を参考に、ぜひ試してみてください。
なんで太ってしまうの?
ヒトと同じように、犬でも太ってしまう主な原因は「食べ過ぎ」と「運動不足」です。
肥満犬の飼い主に「何をどれくらい食べているの?」と聞くと、「太っているからダイエットフードをあげています」などと言われることが多いです。
そもそも、「ダイエット」という単語は日本では「痩せる」という意味でよく使われますが、本来は「食事」という意味です。パッケージに”Diet”と書いてあっても、減量用の食事ではないことに注意してください。
また、排せつなどのご褒美や、散歩の休憩などにおやつを与えることが多いと思います。よく与えられるものに、ジャーキーがあります。これは小さくて一口サイズのものが多いようですが、カロリーが高く、食べ過ぎるとオーバーカロリーになるので注意が必要です。とはいえ、おやつはコミュニケーションのひとつですので、与えないではなく半分にすることから始めると良いと思います。
また「1回の散歩はどのくらいの時間ですか?」という質問に、ほとんどは30〜60分くらいと言われます。もう少し詳しく聞くと、そのうち半分はにおいを嗅いでいたり、お散歩仲間と話し込んでいたり、ダラダラとゆっくりとした散歩なことが多いです。
ヒトでも、運動開始後15〜20分以上経過してはじめて有酸素運動となって、カロリーが消費されるといわれています。犬で有酸素運動になるまでの時間は不明ですが、少なくともハアハアと呼吸を始めるくらいからではないかと考えています。なので、ダラダラとした散歩はカロリー消費の運動にはなりません。

太るとどんな病気にかかりやすくなるの?
ヒトでは、肥満を「肥満症」という病気として捉えるようになっています。糖尿病や高血圧などの疾患を発症しやすくなるからです。肥満の犬も同じように、いろいろな疾患を発症しやすくなります。
糖尿病
糖尿病は、太ることで最も心配される疾患です。糖尿病の好発犬種はトイ・プードルやミニチュア・シュナウザーなどですが、どの犬種でも発症します。いずれにしても、遺伝的な素因があると、肥満による発症のリスクはとても高くなります。多飲多尿や異常な過食、痩せてくるなどの症状がみられるので注意する必要があります。
糖尿病を放置していると、ケトン体が増加して身体が酸性に傾く「ケトアシドーシス」を発症します。元気・食欲の急激な低下から、重篤になると昏睡状態に陥り死亡することがあります。また、白内障や腎障害を引き起こすことがあるので、体重をコントロールして糖尿病にならないように注意しましょう。
脊椎疾患、変形性関節症
体重の増加により、脊椎や四肢の関節に負担がかかりやすくなります。肥満により運動をしなくなると、筋肉量が低下して負担はさらに大きくなり、一層動きたくなくなるという負のスパイラルになってしまいます。
さらに、膝関節の十字靭帯損傷や膝蓋骨内方脱臼などが併発すると、後肢に体重をかけられなくなることで前肢への荷重が強くなり、肩関節や肘関節、頸椎に負荷がかかって関節炎を助長しやすくなるなど、全身の関節が損傷を受けやすくなります。
脊椎疾患で最も多い腰椎の損傷の症状として、どこを触っても痛みを訴えるようになったり、抱き上げるときに鳴いたり、段差を登る際にためらうようになります。
また、四肢の関節炎の初期では、動き始めの数歩にしびれているような跛行(はこう、びっこ)が見られます。犬がしびれることはないと思っておいたほうが良いと思います。そして、病期の進行とともに散歩中に跛行を示すようになります。
呼吸器疾患
太ることで喉や気管のまわりにもたくさんの脂肪が沈着し、気道を圧迫して呼吸しづらくなります。また、胸腔のまわりについた脂肪により、肺が膨らみづらくなって呼吸が浅く速くなるなど、呼吸機能の低下を招きます。これらによって運動もできなくなるため、さらに肥満が進行することになります。
尿路疾患
動きたくなくなるため、飲水や排尿を我慢するようになり、膀胱炎や膀胱結石などの尿路疾患を発症しやすくなります。
脂肪肝
肝臓にも脂肪が蓄積しやすくなり、重度になると肝不全を引き起こして死に至る危険性もあります。
どうやって痩せさせればいいの?
犬の減量方法は、食事療法と運動療法が主になります。適切な食事量の設定方法について解説します。
1.目標体重の設定
太る前の体重、あるいはBCSから理想の体重を設定するなどして、目標となる体重を決めます。もし理想の体重が現体重と大きく差がある場合は、現体重の5〜10パーセント減くらいに設定しましょう。目標体重に達成したらさらに5〜10パーセント減を目標とするなど、段階的に設定するようにします。
2.食事量の設定
食事量はカロリーをベースに必要量を求めます。
まず、RER(安静時要求カロリー)を目標体重から以下の計算式にて算出します。
式:RER=70×(目標体重)0.75
目標体重の0.75乗は、目標体重の3乗に2回平方根(√)をしたものです。
ルートのある計算機を使用して算出することができます。
例:目標体重が10キログラムの場合、以下のように入力
10×10×10=√√×70=393.63
次に、MER(またはDER:1日のカロリー要求量)を算出します。
RERに、運動量や体格などに合わせた係数(R)を掛けますが、肥満傾向にある成犬では、R=1.2~1.4としてMERを算出します。このMERが1日に必要な食事カロリーとなります。
例:RER=393.63の場合
393.63×1.2=472.35
3.食事内容の設定
できるだけ、満腹感を得られるような食事内容にしましょう。
ドライフードの場合は、いわゆるダイエット用のフードが良いでしょう。通常のドライフードが100グラムあたりおよそ350〜400キロカロリーなのに対して、ダイエット用のドライフードは300〜350キロカロリーとなり、せいぜい1〜2割のカロリーダウンとなるくらいです。このため、ダイエット用のフードだからといってたくさん与えると、かえってカロリーオーバーとなるので注意してください。動物病院でしか販売されない療法食にも、肥満症例用のもがあります。こちらのほうが、一般で販売されているダイエットフードよりカロリーが低いので、かかりつけの獣医師へ相談してみてください。
一方で、ウェットフードのほとんどが100グラムあたり100キロカロリー前後と低カロリーで、水分が多く満腹感を得られます。問題点としてはコスト面があげられます。
タンパク質、炭水化物、脂質を三大栄養素といいますが、体内に吸収された炭水化物と脂質から肥満のもととなる脂肪が作られます。そのため、栄養素としては高タンパク、低脂肪、低炭水化物の食事を与えるようにしましょう。また、食物繊維を添加すると腸全体で栄養を吸収をするようになり、血糖上昇を抑えてインスリンの分泌も抑えられるので、脂肪への蓄積を抑えることができます。ただし、腎障害などでタンパク質を制限しなければならない疾患では注意が必要です。そのような場合は、獣医師へ相談してください。
4.体重の管理
食事量および内容を変更したら、週1回あるいは月に2〜3回の定期的な体重測定と、BCSの評価をしてみましょう。
減量のペースとしては、1週間で体重の1パーセント、または1ヶ月で5パーセントの減量が目安です。これ以上の急激な体重減少は、体脂肪が肝臓へ急速に動員されて脂肪肝になる危険性があります。反対に、体重が減らない、あるいは増えてしまう場合は、摂取カロリーの再計算をし、可能であれば摂取カロリーを1割程度減量するようにします。それとともに、体重が減りづらい疾患があるか検査してください。犬で体重増加する疾患としては、副腎皮質機能亢進症、甲状腺機能低下症などがあります。いずれも高齢犬に発症が見られる内分泌疾患であり、診断は血液検査が必要になります。
体重のほかに体格の評価も大切です。体重は減少したものの、脂肪は依然として残っていて筋肉だけ落ちてしまうことがないようにする必要があります。
もしこの傾向があるようなら、食事の内容を見直してできるだけ運動をさせるようにしましょう。筋力アップの運動では、坂や公園などにあるストロークの長い階段の上り下りや、砂浜や土などでの運動などで筋肉へ負荷をかけるようにします。この際には、呼吸数、歯肉の色などを確認して休みを入れながら、やり過ぎないようにすることが大切です。
水泳療法は効果の高い運動療法となります。関節に負担をかけずに筋力アップをすることができ、短時間で陸上の数倍となる運動量となります。ただし、いきなり泳がせることはトラウマとなる可能性があることと、水圧により呼吸に負荷がかかるので注意が必要です。

おわりに
犬の肥満は、ヒトと同様にいろいろな病気の原因となります。また、太ってしまってから減量させるのはとても大変なので、太らせないようにすることが大事です。そのためには、毎日の食事量をしっかりと管理するようにして、多頭飼いをしている場合には食事量に偏りが出ないように注意し、できるだけ散歩でカロリー消費を意識した運動を取り入れるようにしてみてください。
【執筆者】
長谷川 承(はせがわ・しのぐ)
獣医師、アルマ動物病院 糖尿病・内分泌病センター(東京都目黒区)院長。日本獣医畜産大学(現:日本獣医生命科学大学)大学院博士課程を修了後、東京都内の動物病院勤務、東京女子医大糖尿病センターでの研修などを経て、2002年にアルマ動物病院を開院。2010年、付属ハイドロセラピー施設“Club Alma”を開設。2015年、CCRP(テネシー大学公式認定リハビリテーションライセンス)を取得。大学院時代からライフワークとして糖尿病の研究・診療に取り組む。院内に糖尿病・内分泌センターを設置し、日々多くの動物の診療にあたっている。東京都獣医師会、日本糖尿病学会、動物臨床医学会、日本獣医再生医療学会、日本ペット栄養学会に所属。
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