動物園は出逢いの場【第4回】
コウモリをめぐるさかしまな話

私たちのイメージとは違うコウモリ

コウモリと言えば、闇を飛び、さかさまになって留まる動物というイメージが一般的でしょう。

コウモリは、羽ばたいて飛ぶ唯一の哺乳類です。そして、日本のほとんどの地域における身近なコウモリとは、夕刻に現れ、超音波を発して虫などを狩る小型種です。

しかし、琉球列島や小笠原諸島の大型種は主に果実食です。大阪市の天王寺動物園で飼育されているエジプトルーセットオオコウモリなども主に果実食です(写真1)。ただし、ルーセットオオコウモリの仲間はしばしば洞窟などをねぐらにすることもあってか、超音波で周辺の様子を探るエコーロケーションの能力を持っています。

写真1:バナナに群がるエジプトルーセットオオコウモリ

天王寺動物園では約50個体を展示しています(2023年10月1日現在)。これだけの大所帯なので、あちこちに餌を分散させて、争いが起きないように工夫しているそうです。床面に撒かれた餌にも、ご覧のとおりコウモリが(写真2)。このような姿を見ると、コウモリもまた四肢動物なのだと納得します。

写真2:床面の餌を食べるエジプトルーセットオオコウモリ

床に餌をまくのは、お年寄りだったり足が悪かったりといったコウモリのためでもあるようです(写真3)。

写真3:天王寺動物園の掲示

さて、ここでコウモリをイメージづけている姿について考えてみましょう(写真4)。この姿は「さかさま」なのでしょうか。

写真4:止まり木のコウモリ

ヒトは直立二足歩行をするので混乱がありますが、四肢動物のベーシックな体のつくりを考えれば「前=頭・顔、後ろ=尻、上=背中、下=腹」と見なせます。そう考えると、木から「さかさま」にぶら下がっている動物はナマケモノなどで、コウモリは「頭を下にしている」と言うべきでしょう。

遠いようで身近にもいる動物、しかし、イメージがはっきりしているようでいて、実は意外な認識をも呼び起こす存在。

今回はコウモリをモチーフに、少しばかり私たちの常識を揺さぶる「さかしま」なお話をしてみました。こうした見聞が広がるのも、動物園の楽しみですね。

動物園で、精神を豊かに羽ばたかせましょう。

※写真はすべて天王寺動物園 https://www.tennojizoo.jp/(撮影・森由民)

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【文・写真】
森 由民(もり・ゆうみん)
動物園ライター。1963年神奈川県生まれ。千葉大学理学部生物学科卒業。各地の動物園・水族館を取材し、書籍などを執筆するとともに、主に映画・小説を対象に動物観に関する批評も行っている。専門学校などで動物園論の講師も務める。著書に『ウソをつく生きものたち』(緑書房)、『動物園のひみつ』(PHP研究所)、『約束しよう、キリンのリンリン いのちを守るハズバンダリー・トレーニング』(フレーベル館)、『春・夏・秋・冬 どうぶつえん』(共著/東洋館出版社)など。
動物園エッセイ http://kosodatecafe.jp/zoo/