猫好きさんにおすすめスポット【第3回】新潟:南部神社「新田家ゆかりの猫又権現」

猫又の祀られる社

ひっそりとした木陰の石段を登っていくと、森厳とした社が姿を現しました。

その隣では、1匹の狛猫がこちらの様子を伺っておりました。

写真:南部神社の狛猫と社

写真:狛猫

南部神社も養蚕の神様として信仰され、地元では「猫又権現」とも呼ばれています。

猫又とは、飼い猫が長い年月を経て妖力を得た妖怪で、尾が2本に分かれている特徴があります。江戸時代には人を襲うことで恐れられる存在でしたが、新潟県長岡市の森上(もりあげ)では猫又の妖力にあやかり、ネズミから蚕を守る養蚕の神様として祀っていました。

境内の狛猫は、養蚕の盛んだった1920年(大正9年)4月8日に建立されたもの。

ただし、この猫像の尾は1本。猫又ではないようです。

この社は新田義貞ともつながりが深いことで知られています。 1333年(元弘3年)に上野国(現在の群馬県)で、倒幕のために新田義貞が挙兵した際、南部神社の山伏である鬼小島弥太郎が、新田義貞に加勢すべしと触れまわりました。その結果、越後の妻有郷(つまりごう:十日町市や中魚沼地方一帯)をはじめ、越後各地から新田一族の兵が集まりました。その結果、挙兵時に150騎ほどだった兵は、約1万の大軍となりました。

現在、足利尊氏に敗れた新田義貞の供養祭として、挙兵日にあたる5月8日に「百八灯」という万灯供養祭が挙行されています。百八灯では南部神社を信仰する家々が、1軒当たり108本のろうそくを社の石段に奉納します。

ネズミ除けの猫札

この祭日には、猫の描かれたネズミ除けの札が販売されます。実は、札に描かれている猫も新田家ゆかりの猫様。そのモデルとなったのは「新田猫」で、新田義貞直系の子孫、新田岩松家のお殿様が4代にわたって描いた猫絵です。霊験あらたかなネズミ除けとして大変ご利益があるとされていました。

画像:ネズミ除けの猫札(筆者所有)

写真:新田猫(筆者所有)

筆者の知る限り、新潟県で猫絵の描かれたネズミ除け札を購入できるのは、南部神社と南魚沼市の八海山尊神社のみです。

社の背後の山頂には南部神社の本体である「奥の院」と呼ばれる祠があります。祠付近の洞穴には、ネズミ除けのご利益が得られる猫の石像も祭られています。現在は訪れる人はほとんどいませんが、栃尾市の観光関係者や住民は新たな観光資源として活用しようと動きはじめています。2016年の夏には見学ツアーも行われており、筆者は今後の継続を期待しています。

社の屋根にムササビが開けたと思われる巣穴が複数見られるなど、野生動物と人の共存が感じられる地域です。ノネズミのようなネズミへの効力が期待されている神社ですが、ムササビのような人に害を成さないげっ歯類には効かない様子。筆者も、ハムスターを飼育している猫好きにネズミ除け札を贈りましたが、ハムスターに嫌われてはいない様子です。げっ歯類を飼育している猫好きの方も安心して参拝してください。

南部神社

新潟県長岡市森上1062

引用文献:
・新潟日報. 2016年8月11日.
・嶋田進. 2004年. 栃尾地名考. 新潟県長岡市: ㈲栃尾印刷, p48.
・長岡市. 発行年不明. 森上・南部神社の伝説(長岡市の印刷物コピー).

【執筆】
岩崎永治(いわざき・えいじ)
1983年群馬県生まれ。博士(獣医学)、一般社団法人日本ペット栄養学会代議員。日本ペットフード株式会社研究開発第2部研究学術課所属。同社に就職後、イリノイ大学アニマルサイエンス学科へ2度にわたって留学、日本獣医生命科学大学大学院研究生を経て博士号を取得。専門は猫の栄養学。「かわいいだけじゃない猫」を伝えることを信条に掲げ、日本猫のルーツを探求している。〈和猫研究所〉を立ち上げ、ツイッターなどで各地の猫にまつわる情報を発信している。著書に『和猫のあしあと 東京の猫伝説をたどる』(緑書房)、『猫はなぜごはんに飽きるのか? 猫ごはん博士が教える「おいしさ」の秘密』(集英社)。2023年7月に「和猫研究所~獣医学博士による和猫の食・住・歴史の情報サイト~」(https://www.wanekolab.com/)を開設。