カラス博士の研究余話【第7回】カササギってどんな鳥

カササギは、日本では九州の佐賀地方でみられる、ハシボソガラスより一回り小さい鳥です。羽を閉じているときは、胸と腹部から翼の付け根にかけて白く、他は黒いので、パトカーのような配色です(写真1)。

写真1:パトカーのような配色のカササギ(佐賀市内にて撮影)

一方で、翼を大きく広げたときの背面の配色は実に鮮やかです。翼の先端、肩羽、胴回りが白。羽と尾羽の付け根の黒い部分は、光を浴びると濃紺・濃紫といった複雑で味わいのある光沢を放ちます(写真2)。

写真2:羽を大きく広げたときの背面(モンゴルにて撮影)

カラスの親戚筋の賢い鳥

カササギは、分類上ではカラスの親戚筋にあたりますが、カラスではありません。

カラスは「スズメ目カラス科カラス属」という分類で括られます。カササギは「スズメ目カラス科」までは一緒ですが、属から己が道「カササギ属」で独立します。

筆者はこれまで「賢い鳥」としてカラスを持ち上げ、ことあるごとにカラスの利発さを紹介してきました。それを訂正するわけではありませんが、カササギはこれまでに出会った中でもとりわけ賢い鳥です。

実はカササギは「自己認識検定」にも合格しています。自己認識ができるかを確認するには「ミラーテスト」という、鏡に映る自分を自分として判断できるかを試すテストをします。カササギはこのミラーテストにおいて、哺乳類の一部を除いて世界で初めて鏡の中の自分の像を認識できた動物なのです。残念なことに、カラスはまだテストに合格していません。

さまざまな場所に分布

カササギは北半球に広く分布し、ヨーロッパ、中央アジア、モンゴル、朝鮮半島などに生息しています。

実は、はじめて筆者がカササギを見たのは15年ほど前の、何度目かのモンゴル訪問時でした。そのときの感想は「尾羽が長くて体色が白黒の、セグロセキレイを大型化したような鳥がいるぞ」というものでした。

電柱や電線が好きらしく、電線に数珠つながりになって留まっていました(写真3)。カササギは日本のカラスのように群れで行動するのです。

写真3:電線に連なるカササギ(モンゴルにて撮影)

筆者は今でこそ「カラス博士」と呼ばれ、カラス類の専門家として扱われていますが、そのときはカラスの親戚筋まで頭が回っていませんでした。観察も意欲的にすることなく、自分にとって当時のカササギとの出会いはもったいなかったと後悔至極です。

カササギは鳴き声が「カチ、カチ」とも聞こえるため、「勝、勝」と縁起を担ぎ「カチガラス」と呼ばれます。豊臣秀吉が鳴き声の響きに縁起の良さを感じたことから朝鮮出兵のときに持ち帰ったのが定着したのだという言い伝えもあります。そんな歴史的な伝承や、縁起の良い鳴き声の力もあり、佐賀県の人々には親しまれていて、県の鳥にも指定されています。

「神の使い、太陽の使者」などと言われるカラスに劣らず、カササギは縁起の良い鳥のようです。その縁起の良さは中国に端を発しています。この漢字の辺「昔」には「遠くから」や「長きに渡って」などの意味があり、それに「鳥」がついた「鵲」は「遠くから長きにわたり良い知らせを運ぶ鳥」なのです。

また、七夕に織姫と彦星が天の川を渡って出会えるのは、カササギが群れをなして天の川に「鵲橋」をつくるためであるという言い伝えもあります。天の川に跨るハクチョウ座は、中国ではカササギに置き換わるようです。

実は困った一面も……

カササギについて良いことばかり書いてきましたが、残念ながらカラスに近いためか、カラスと似たような軋轢を人間と起こしています。そのひとつは営巣に関するものです。カササギは習性がハシボソガラスに似ていて、視界の開けた高木、電柱、鉄塔などに好んで営巣します(写真4)。カササギの巣は屋根付きで出入口のあるしっかりしたものです(写真5)。

写真4:電柱につくられたカササギの巣。直径90センチメートルほどの球形(佐賀市内にて撮影)

写真5:カササギの空の巣。出入口を除いて全体が覆われている(佐賀市内にて撮影)

この巣の素材が電線の短絡(ショート)をつくって停電を引き起こします。したがってこの営巣の習性には、電力会社もたいへん困っているようです。佐賀県の鳥という肩書きまで貰っておきながらもこんな問題行動を起こす側面を持っています。

とはいえ、とても賢いカササギではありますが、カササギとの共存の道は人間だけで考えるしかありません。言い伝えが本当であれば、恨むべきはカササギではなく、連れ帰った豊臣秀吉かもしれません。

【執筆】
杉田昭栄(すぎた・しょうえい)
1952年岩手県生まれ。宇都宮大学名誉教授、一般社団法人鳥獣管理技術協会理事。医学博士、農学博士、専門は動物形態学、神経解剖学。実験用に飼育していたニワトリがハシブトガラスに襲われたことなどをきっかけにカラスの脳研究を始める。解剖学にとどまらず、動物行動学にもまたがる研究を行い、「カラス博士」と呼ばれている。著書に『カラス学のすすめ』『カラス博士と学生たちのどうぶつ研究奮闘記』『もっとディープに! カラス学 体と心の不思議にせまる』『道具を使うカラスの物語 生物界随一の頭脳をもつ鳥 カレドニアガラス(監訳)』(いずれも緑書房)など。