猫好き、読書好きにおすすめのスポット紹介。
第3弾は東京・世田谷の猫本専門店「Cat’s Meow Books(キャッツミャウブックス)」店主の安村正也さんに、開店の経緯や選書のこだわり、猫たちがのんびりと過ごす店づくりの秘訣などをお聞きしました。
猫と助け合える書店に
猫本専門店をつくったきっかけと、力を入れられている保護猫活動について教えてください。
出版業界にいたわけではなかったのですが、本が大好きでした。そして、町の書店がどんどん減っている状況に対し、「どうにか残せないだろうか」という思いを抱いていました。それがひとつのきっかけです。
もうひとつは、猫が大好きで、前々から保護猫活動を手伝いたいと考えていました。うちの猫店長だった三郎は、僕の家の前で母猫に育児放棄されていた3匹きょうだいの1匹なんです。目も開いていない状態の子猫を、夫婦で交代してミルクを与えて育てました。
このふたつのきっかけから考えたのが、自分が大好きな「猫」と「書店」をかけあわせた、「売上の10%を保護猫活動に寄付する猫本専門店」です。「お互いが助け合う」ことをコンセプトにしました。
オープン前にいろんな方に知っていただくため、クラウドファンディングで支援を募りました。反響がなくてもオープンできる準備は整えていたのですが、結果的には想定の倍のご支援をいただけました。クラファンが成功したおかげで「店のコンセプトに共感してくださるお客さんがたくさんいる!」という自信をもつことができました。
クラファンの最中に「自分も同じようなことがしたかったんです」という声をいくつかいただきました。僕がまごまごしていたら先に実現していた人がいたかもしれませんね。2017年8月にオープンしてから、今年で7年目になります。
売上の10%を保護猫団体に寄付するのは、経営的にかなり大変ではありませんか?
大変ではありますが、そのおかげでわざわざCat’s Meow Booksから購入してくださるお客さんも多いので、とんとんかなと思っています。10%だと計算しやすいので、お客さんにとっては寄付の実感が沸きやすいようです。慈善活動は連鎖しますので、「私も直接、保護団体に寄付したい」とお客さんから相談を受けることもあります。その際は、ご縁があった団体や近所の団体への寄付をおすすめしています。そのほうが実感が沸き、長く続きやすいですから。
Cat’s Meow Booksとしての寄付先は流動しています。最初は、猫を譲渡していただいた㈱ネコリパブリックに寄付をしていました。今は新しい子を譲渡してくださった保護団体や(公社)アニマル・ドネーションなどに寄付しています。アニマル・ドネーションは、猫の保護活動などを行っている団体に寄付金をつなげてくれる団体です。
猫店員たちはみんな元保護猫なのですか?
もともと飼っていた三郎店長を筆頭に全員が保護猫出身です。2017年に店をはじめるにあたって、ネコリパブリックから4匹を譲渡していただきました。名前は、鈴、読太、チョボ六、さつきといいます。4匹とも「りんご猫」でした(読太は譲渡直前に陰転)。りんご猫とは、保護猫団体のネコリパブリックさんがつくった造語で、猫エイズ(猫免疫不全ウイルス感染症)にかかってしまった猫のことです。
猫エイズは人間に感染しません。そして、りんご猫であっても幸せに一生を過ごせる子も多いんです。しかし、イメージが良くないため、りんご猫は保護団体などでの譲渡率が低いという問題をかかえています。さらに、「鈴&読太」「チョボ六&さつき」はそれぞれ、保護主さんが2匹ずつ一緒の譲渡を希望されていたので、譲渡先をみつけるハードルがさらに高い子たちでした。それを知って、4匹まとめて店に来てもらうことにしたんです。
店ですやすやと寝ていたり、仲間たちと遊んでいたりと、楽しそうに暮らしている猫たちをみて、「猫エイズの猫を飼うことへのネガティブなイメージが払しょくされた」と言っていただいたこともあります。もともと体が弱くて病気の子を引き取ったこともあり、そのときに迎えた3匹はすでに亡くなってしまったのですが、みんな最期まで幸せに暮らせたと思います。
店内の工夫を教えてください。
本棚は猫が通り抜けられるよう穴あきになっているほか、室内の壁面がぐるりとキャットウォークになっています。もちろん既製品ではなく、大工さんに依頼した造り付けです。
また、天井に穴が開いているのも注目ポイントです。2階が自宅になっているのですが、猫たちは穴を通じて1階の店舗と2階の自宅を自由に出入りできるんです。建築士さんに「猫だけが1階と2階を通り抜けできるようにできませんか」と冗談半分で提案してみたところ、本当に穴を開けてくれました。
タイミングによってはみえないところにいたり、キャットウォークの上で寝ていたり……といろいろですが、お客さんに会いたいときには寄ってきてくれますよ。
繁華街ではなく、住宅街の立地ですが、そこにもこだわりがあるのでしょうか?
賑やかな場所だと猫がストレスを感じてしまうので、静かな場所であることは外せません。そして、猫を迎えるので自宅兼店舗にできる物件であることも重要なポイントでした。
10年以上住んでいて馴染みのあった世田谷で、そのような要件に合致した物件を予算内で探しているときに、この物件がみつかりました。東急世田谷線の西太子堂駅から歩いてすぐとアクセスが良いわりに、住宅地の片隅の落ち着いた場所です。ふらっと立ち寄るというよりも、わざわざ来てくださるお客さんを想定してここを選びました。
そのため、遠方からのお客さんの割合が高いですね。それこそカートなどを引いて来られます。滞在時間も長めで、1~2時間ほど楽しんでいかれる方もいますよ。熱心に本にふれて、たくさんの本を買っていかれる方が多いですね。
おすすめの(隠れ)猫本が並ぶ本棚
選書のポイントはありますか。
オープン時にはすでに、神保町の「にゃんこ堂」さんや当時はオンラインショップのみだった「書肆 吾輩堂」さんという先輩がいました。しかし、ひとくちに「猫本専門店」といっても、品揃えもコンセプトもまったく違いますし、それぞれオリジナリティがあるんです。
うちでは現在3800タイトルほど本を揃えていますが、一見しただけでは「猫本」と気づかないものが多いのが特徴です。「猫と関係なさそうなのに、猫がいないと物語が展開しない」小説など、意外性のある本を実際に読んで探しています。最近ではSNSなどに「これは猫本です」と投稿すると、著者や編集者さんに「認定されました!」と喜んでいただけたりもします。
そういった本を集めることで、お客さんに「どこに猫が出てくるんだろう?」「本当に出てきた!」と興味をもって読んでいただけるんです。「猫本だけしかない」ことをネガティブな意味で捉えている人であっても、店に来てみたら「読みたい本がたくさんある!」と心が躍るような空間にしたいと思っています。
もともと僕は本が大好きで、ビブリオバトルにもよく参加していました。ビブリオ(書籍)バトル(戦い)とは、出場者がお薦めの1冊をもちより、それぞれがプレゼンテーションして質疑応答し、聴衆にどの本がいちばん読みたくなったかを投票してもらう書評合戦です。ビブリオバトルでは1冊だけの紹介ですが、この書店ではたくさんの猫本でそれを行っているようなものです。
開店当初から変わったことはありますか?
僕の嗜好から開店当初はビールを積極的に提供していました。しかし、コロナ禍の影響で提供を控えているうちに本がどんどんと増えてしまい、テーブル上にも置くようになったため、飲みものを提供できる雰囲気ではなくなってしまいました。グッズについても、原画展や作家さんのイベント期間中に置くかたちにしています。限りあるスペースにできるだけ本を優先して置きたいからです。また、最初は仕入れ値の関係で古本が多かったのですが、次第に新本の割合が高くなっていきました。今ではほとんどが新本です。
今後の展開として考えていることはありますか。
本の出版を計画しています。2018年に、ノンフィクションライターの井上理津子さんに執筆いただいて、『夢の猫本屋ができるまで』という本をホーム社から出していますが、今度は自分で企画したいですね。ありがたいことにX(旧Twitter)のフォロワーさんも2万を超え、情報を届けられる範囲がかなり広がりました。SNSを通していろいろな本を紹介していくうちに、Cat’s Meow Booksから独自に発信できるものをつくりたくなったんです。企画自体はたくさんあるので、ひとつずつ動かしていきたいですね。
実は長いあいだ会社員との兼業でお店を運営していたのですが、2023年3月からは専業になりました。これからも妻とふたりで、お客さんに楽しんでいただける書店を営みつつ、新しいことにどんどんチャレンジしていきたいと考えています。
今後の挑戦も楽しみです。本日はありがとうございました!
Cat’s Meow Books(キャッツミャウブックス)
東京都世田谷区若林1-6-15
https://twitter.com/CatsMeowBooks