愛玩動物看護師とは?【第7回】予防医療の説明・啓発

今年は全国的に桜の開花が遅く、4月初旬の入学式や入社式にあわせて満開を迎えた地域もありました。そのような中、国家試験に合格して、4月より働きはじめた愛玩動物看護師さんもいたことと思います。

愛玩動物看護師が4月に動物病院に入社すると、早々に1年で最も忙しい「春の予防シーズン」を経験することとなります。愛玩動物看護師が予防医療の説明・啓発でどのような役割を担っているのか、すこし覗いてみましょう。

愛玩動物看護師が伝える予防の大切さ

「春の予防シーズン」ってなに?

春の予防シーズンとは、狂犬病予防接種、フィラリア・ノミ・マダニなどの寄生虫の駆除・予防のために犬の受診が多くなる、毎年4~6月ごろの時期を指します。

ペットショップや保護施設などから犬や猫を迎えるときに「予防接種をしてください」と説明があるように、予防接種は飼い主さんの義務とされています。

なかでも狂犬病予防接種は法律によって、飼い犬に接種させることが飼い主さんに義務づけられています。

1918年に初めて実施された犬の集団接種は、今も全国の自治体で行われており、飼い主さんには居住している自治体から「犬の集団接種」のお知らせが届きます。しかし近年では、自治体ではなく動物病院で狂犬病予防接種を受ける方も多くいます。また、虫が活発になる春にあわせて、蚊に刺されることで感染するフィラリア症やノミ・マダニの予防接種を狂犬病予防接種と一緒に受ける方も増えてきています。

予防医療の大切さ

動物病院が予防医療を推奨する理由は、「病気は予防が第一」だからです。

予防接種だけでなく、定期的な健康診断の受診も病気の予防につながります。人は健康診断を受けることで、病気に備えたり、早期に発見したりします。動物病院に来院する犬や猫でも同様に、定期的な健康診断の受診が病気の予防や早期発見につながるのです。

飼い主さんに伝える工夫

愛玩動物看護師は、窓口や事前問診などにおいて、予防薬などの説明を担うことがあります。

病気によっては、地域によって推奨される予防期間に違いがあったり、剤形や投薬方法などが多様だったりするため、飼い主さんも迷ってしまいがちです。そこで愛玩動物看護師が「どのような病気があるのか」「どのような予防方法があるのか」を専門的な知識に基づいて分かりやすく説明し、飼い主さんの家族構成や飼育環境などにも合わせた予防方法を提案しています。

動物を飼う上で飼い主さんが知るべきことはたくさんあります。飼い主さんがインターネットなどで調べることもできますが、プロの動物医療従事者の適切な説明だからこそ飼い主さんに伝わることも多くあります。「伝えたいことを伝える」だけではなく、理解していただける説明が重要なのです。

写真:予防接種の大切さを説明する愛玩動物看護師

動物病院の獣医師や愛玩動物看護師は、予防医療の重要性を飼い主さんに伝えるために、他にもさまざまな工夫をしています。

例えば、予防シーズンを飼い主さんが逃さないようにハガキを送付したり、インターネットで情報を発信したりすることがあります。動物病院が運営しているSNSは、動物病院ごとの工夫が盛りだくさんで、見ていて飽きませんよ。

また、それぞれの動物病院の待合室にも、飼い主さんが安心して予防接種を受けられるような工夫が見られます。

待ち時間に飼い主さんが読めるように、待合室にわかりやすい予防啓発のポスターなどが貼られているのを目にしたことがある方もいるかもしれません。私の勤める動物病院の待合室では、ポスターのほかにも、飼い主さんの緊張が和らぐように「春の写真展」を展示しています。写真の動物たちの笑顔により、飼い主さんの緊張を軽減させる狙いです。

写真:待合室に設置されたフォトブース。待ち時間も退屈しないための工夫

写真:待合室の「春の写真展」

猫の健康診断を促進したい!

ここまで説明してきたように、春の予防シーズンは、犬の予防接種のための受診が多くなります。犬の飼い主さんには、予防接種に合わせて健康診断をする方も多くいます。

一方で、猫には狂犬病予防接種の義務がないため、来院にあわせて健康診断を受ける方も圧倒的に少なくなっています。数回のワクチン接種をしたあとは、病気や怪我などで症状が出たときのみ動物病院を受診する方が多いのです。

しかし、先ほど説明したように、健康診断は病気を予防するために重要です。

猫は、幅広い年齢において膀胱炎や尿石症などの泌尿器疾患になりやすく、またシニア期では慢性腎不全が多いとされています。これらの疾患にかかった後に「尿を出しにくそう」「最近食欲がなく、体重が減ってきている」と来院いただくことが多いのですが、定期的な健康診断で、尿検査をしたり、腎臓の機能を調べておくことで、事前に対策を立てられるのです。

私の勤める動物病院で、愛玩動物看護師が主体となって、猫の健康診断をすすめた事例を紹介します。

愛玩動物看護師主体の「健康診断トライアルコース」

写真:春の予防パックの掲示物

私の勤める動物病院では、獣医師から協力を受けつつ、愛玩動物看護師が主体となり「猫の健康診断トライアルコース」という啓発活動を立案しました。「1頭でも多くの猫に健康な生活をしてほしい」という思いから生まれた活動です。

「猫の健康診断トライアルコース」は、もともと犬と猫向けに用意されていた健康診断の項目から、泌尿器疾患と腎臓病に焦点を当てた検査項目を抜粋した健康診断プランです。トライアルいただくことで、猫の健康診断への不安を取りのぞくことが狙いです。

トライアルコースを実施する前に、猫の健康診断に対する意識調査として、猫の飼い主さんにアンケートをとりました。アンケートには、「動物病院へ移動するときにストレスをかけてしまう」「動物病院は犬が多い」「健康診断の検査項目が多い印象から猫に検査のストレスを与えてしまうかも」という心配が寄せられましたが、「健康診断は受けさせたい」という意見もありました。

私たちはトライアルコースを開始するとともに、アンケート結果を参考にして健康診断の重要性を丁寧に伝え、猫のストレスに配慮した健康診断を実施しました。すると「猫の健康診断の予約を取りたい」という声が増えてきたのです。猫の飼い主さんから意見を伺い、丁寧な説明により心配を解消したことが、猫の健康的な暮らしと猫の飼い主さんの安心につながった事例となりました。

写真:猫の健康診断トライアルコースの案内とアンケート

愛玩動物看護師は、「動物のためになりたい」という思いから、人と動物が安心して暮らせる社会をつくるために努力をしています。その努力と、専門知識や技術、そして経験によって、動物と飼い主さんを支えられる存在となっているのです。

【執筆】
旭 あすか(あさひ・あすか)
1988年生まれ。IPC国際ペットカルチャー総合学院を2011年に卒業後、りんごの樹動物病院(愛知県安城市)にて動物看護師として勤務。2017年動物看護師長に就任。院内の働き方や動物看護師の業務の改善を進める。2023年に愛玩動物看護師免許を取得。その他、世界基準の心肺蘇生~獣医蘇生再評価運動(RECOVER)を2018年に修了。院内業務にとどまらず、おもに臨床病理学(糞便検査、尿検査、血液塗沫など)分野の愛玩動物看護師向けセミナーで講師を務めている。自身のインスタグラムでは「愛玩動物看護師のリアル」を発信し、知識・技術ならびに社会的認知度の向上のために尽力している。
Instagram:asahi_asuka_vnca