愛玩動物看護師とは?【第4回】愛玩動物看護師に必要なコミュニケーション

愛玩動物看護師は、コミュニケーションの欠かせない職業です。

愛玩動物看護師の名称に含まれている「愛玩動物」とは、犬や猫をはじめとした、政令で定められた動物を指します。言葉を話せない動物ですが、人と同じように病気になり、怪我をします。

言葉を話せない動物が相手ですから、動物の様子から苦痛や感情を注意深く察知するだけでなく、飼い主さんから症状や生活環境の情報を得なければなりません。動物病院を受診した動物を診療したり、入院になった動物の看護をする際には「他の動物を怖がるか」「触られて嫌がる箇所」「普段の排泄方法」など必要なことを飼い主さんから事前に伺うことが、動物が診療で受けるストレスを最小限に抑えるために大切なのです。

より詳しい話を聞き出すためには、得た情報を整理しながら、飼い主さんの不安や要望を汲み取りつつ話をすることも求められます。

写真:動物の観察に加え、飼い主さんから情報を得ることが重要(上、下)

もちろん、チーム間での情報共有も欠かせません。

規模にもよりますが、動物病院では、獣医師や愛玩動物看護師など複数人のチームで業務を遂行しています。施設によっては受付スタッフ、トリマーとの連携も欠かせません。それぞれの動きや情報がずれてしまうと、動物の命や安全に危険がおよぶ可能性があります。

愛玩動物看護師が得た情報を獣医師や他のスタッフに共有することで治療や緩和などの処置を施せます。飼い主さんから受け取った情報を伝える際は、一方的に伝達するのではなく、相手に的確かつ正確に伝わるように話すことが大切です。

情報共有が不十分だと、飼い主さんと獣医師の間で認識のずれが生じ、飼い主さんの想定と違う結果となってしまいかねません。また、獣医師からの指示を飼い主さんへ伝える場面で、必要な説明を省略したり、ニュアンスの違う言葉に変えたりすると、本来の情報を伝えられなくなります。

写真:チーム間での情報の共有は欠かせない

情報交換の正確さだけではなく、相手への思いやりも、円滑なコミュニケーションを図るために必要です。普段からの正しい言葉使いや相手を尊重する態度が、スタッフ同士での信頼関係の構築の第一歩です。それがないままに業務を遂行すると歪みも生まれやすく、動物や飼い主さんへの不安につながりかねません。

このように愛玩動物看護師には、動物、飼い主さん、獣医師、そして他のスタッフとの適切なコミュニケーションが必要です。そして、コミュケーションを疎かにしたり、苦手だからと敬遠したりすると、動物や飼い主さんへ適切なケアを提供できないのです。

飼い主さんとのコミュニケーション

一般的にコミュニケーションとは、他者に問いかけたり、問いかけに応じたりといった、いわゆる言葉のキャッチボールのことです。自分が話すことばかりがコミュニケーションではなく、言葉に耳を傾けることがとても重要になります。

動物を別にすると、愛玩動物看護師がコミュニケーションを取らなければいけないいちばんの相手は飼い主さんです。ここでは、私自身が体験した2つの事例と、そこから学んだことをお話しします。

事例1:毛刈り措置の伝達漏れ

おもちゃを誤食してしまった犬と飼い主さんが来院した際の話です。

動物が異物を誤食した場合、動物病院ではよく催吐処置(薬剤を使用して嘔吐させる処置)をします。この処置では血管に薬剤を投与するため、投与する箇所の毛刈りで衛生管理をします。

毛刈りは動物病院では日常的ですが、飼い主さんにとっては非日常的なことです。普段であれば毛刈りの前に必ず飼い主さんの許可を取るのですが、その日は外来の診察が混んでいて通常より忙しく、また「毛刈りはよくある処置」という考えが念頭にあったため、飼い主さんに確認せずに毛刈りを進めてしまいました。

写真:治療のために毛刈りをされた犬

犬は催吐処置で無事におもちゃを吐き出して、不安でいっぱいのまま待っていた飼い主さんの元に戻りました。その際、飼い主さんが前足の毛刈りされた部分を見てたいへんびっくりされ、「毛を刈るのであれば、先に教えてほしかった」と涙ながらにおっしゃいました。毛刈りされたのは小さな範囲でしたが、事前の説明により心構えができなかった飼い主さんは、犬が傷つけられたように感じたのです。

確認不足のせいで、飼い主さんに必要のない悲しみを与えてしまった事例です。忙しい中でも、飼い主さん一人ひとりと丁寧にコミュニケーションをとることが必要だと、あらためて肝に銘じる機会となりました。

事例2:在宅での対応を望む飼い主さん

長年の間、愛犬とともに通院していた飼い主さんの事例です。

子犬の頃から当院に通っていたその犬は、10歳ごろに心臓の病気を患って体調を崩しがちになり、やがて一時的に入院となりました。酸素吸入が必要な状態だったため、酸素濃度を高くしてある入院ケージに入れる対応となりました。

写真:入院ゲージ

飼い主さんは「なるべく家で過ごさせてあげたい」と希望していたものの、「愛犬のためには今の処置を受け入れたほうが良いのだろう」という考えから、獣医師に対し飼い主さんの意思を伝えられないでいました。入院看護を担当していた私は、苦しそうに呼吸する愛犬と面会しながら思い悩んでいる様子の飼い主さんに、「気に病んでいることはありませんか」と普段以上にしっかりと伺ってみました。

すると飼い主さんは、「入院治療は大事ですよね……?」とご自身に言い聞かせるように確認したあとに、次第に心のうちを打ちあけてくださり、最終的には「本当は家で過ごさせてあげたいが、治療を放棄したくない。この子のために先生が最善を尽くしていることを理解しているため、悩んでいる」と本音を教えてくださいました。

私は、その飼い主さんの気持ちを獣医師と共有し、獣医師は飼い主さんと再び相談しました。そして、その犬は在宅酸素療法を利用して帰宅することになりました。そして帰宅の翌々日に、ご家族に見守られて、住み慣れた家で他界しました。

写真:在宅酸素療法に使われた装置

後日、飼い主さんから「あのときに話を聞いてくれてありがとう」とお声がけいただきました。治療とは直接のつながりがないかたちで飼い主さんに寄り添えた貴重な経験です。

動物や病気だけみていては不十分

愛玩動物看護師は、国家資格化により習得しなければならない技術が多様化してきています。これまで以上に活躍の場は増えるでしょう。

ただし、「技術を生かして飼い主さんから求められる愛玩動物看護師になる」「目の前で困っている動物や飼い主さんの状況を把握し、相手の気持ちを汲み取り、適切な対応を導き出す」「チームで解決すべき問題と判断した場合は、チームと協力していく」といった重要な対応の要は、すべてコミュニケーション能力なのです。

【執筆】
旭 あすか(あさひ・あすか)
1988年生まれ。IPC国際ペットカルチャー総合学院を2011年に卒業後、りんごの樹動物病院(愛知県安城市)にて動物看護師として勤務。2017年動物看護師長に就任。院内の働き方や動物看護師の業務の改善を進める。2023年に愛玩動物看護師免許を取得。その他、世界基準の心肺蘇生~獣医蘇生再評価運動(RECOVER)を2018年に修了。院内業務にとどまらず、おもに臨床病理学(糞便検査、尿検査、血液塗沫など)分野の愛玩動物看護師向けセミナーで講師を務めている。自身のインスタグラムでは「愛玩動物看護師のリアル」を発信し、知識・技術ならびに社会的認知度の向上のために尽力している。
Instagram:asahi_asuka_vnca