きらめく小さな魚たち【第11回】セレベス・レインボー Marosatherinal adigesi

セレベス=スラウェシ

古くから観賞魚として親しまれている魚は、「名前に時代を感じるなぁ」などと思うことがあります。金線ラスボラなどは名前に漢字が使われていますし、古い地名が使われている魚なども時代を感じるところです。かつて、スリランカがセイロンと呼ばれていたり、スラウェシ島(インドネシア)も昔はセレベス島と呼ばれていました。

写真:ポピュラーなレインボー・フィッシュのひとつ、セレベス・レインボー

今回紹介するセレベス・レインボーも、かつての地名が使われていることから、古くから親しまれている魚だということが想像できます。セレベス・レインボーは名前からもわかるとおり、スラウェシ島に生息する小型美魚です。

とてもポピュラーなレインボー・フィッシュの仲間ですが、フォルムの美しさは小型美魚のなかでも目を見張るものがあります。そして、そのフォルムの美しさは、伸長するヒレがポイントです。レインボー・フィッシュの仲間の特徴である第二背ビレと臀ビレが美しく伸長するのが最大の特徴で、透明感のある黄色を発色します。

写真:独特のシルエットが美しい

ヒレの棘条やその付近は黒色を呈するので、とてもメリハリがあって美しく見えます。メスはヒレが伸長しないので、ある程度のサイズに成長すると雌雄の判別は容易にできるでしょう。

写真:オスの第二背ビレと臀ビレは驚くほど伸長する。スリットの入り方も特徴的

写真:メスのヒレは伸長しない

体色は透明感があり、状態があがってくると明るい黄色を発色して美しくなります。体側中央のラインも特徴的で、明るいブルーを発色します。また、多くのレインボー・フィッシュと同じように眼が発色するのも美しさのポイントです。

水草水槽での飼育がおすすめ

現在輸入されている個体の多くは、東南アジアで養殖されたものです。養殖個体の多くは小型で、サイズも揃っているのですぐにわかるでしょう。まれに輸入される現地採集個体は、やや大きいサイズが多いので雌雄がわかりやすいといえます。また、すでにヒレが伸長している個体が多いので、レイアウト水槽では即戦力となってくれます。

飼育自体は難しくありませんが、現地採集個体は輸入状態が悪いこともあり、トリートメントにやや経験が必要となります。そのため入門者は、ショップで状態を落ち着かせた個体を購入するとよいでしょう。

写真:興奮状態で頭部が黒っぽくなっているオス

レインボー・フィッシュというと、「塩分が必要」「pHが高い」などと考えている方が多いのですが、ほとんどの魚が純淡水で飼育可能であり、pHも中性前後の水質で問題なく飼育できます。

本種のみであれば小型水槽でよいですが、60cm以上の水草を多く植えた水槽で飼育すると、ヒレが大きく成長するのでおすすめです。餌に関しては手間のかからない魚で、人工飼料を活発に食べてくれるため、初心者にも容易に飼育できる魚といえます。

マツモなどの水草を浮かせた水槽で数ペアを飼育していると、容易に卵を産んでくれます。ただし、スポンジフィルターを使用すると、なぜかスポンジに産卵してしまうことが多いため注意が必要です。

孵化した稚魚は小さいので、卵のうちに別の水槽に移しましょう。稚魚には、ブラインシュリンプの幼生を食べられるようになるまで、冷凍ワムシを与えるとよいでしょう。

本種を含めたレインボー・フィッシュの仲間は水草レイアウト水槽に適した魚なので、もっと注目されてもよいのではないでしょうか。

【文・写真】
佐々木浩之(ささき・ひろゆき)
1973年生まれ。水辺の生物をメインテーマとしている写真家。飼育下、野生下にかかわらず、好奇心の赴くままに生きものの面白さや美しさを探求している。なかでもアクアリウムの写真に定評があり、鑑賞魚や水草などを状態よく育て、生きものが最も美しい、躍動感あふれる一瞬をとらえる撮影法は高い評価を得ている。幼少期から熱帯魚などに親しんできたベテラン飼育者でもあり、実践に基づいた飼育情報や生態写真を雑誌・書籍等で発表している。『エアプランツ アレンジ&ティランジア図鑑』『苔ボトル 育てる楽しむ癒しのコケ図鑑』(電波社)、『育てる楽しむ癒しの苔ボトル』『苔ボトル楽しく育てる癒しのコケ図鑑』『珍奇植物 ビザールプランツ完全図鑑』『はじめてのアクアリウム 熱帯魚の育て方と水草のレイアウト』『屋外で強く育てる! メダカの飼い方&原色図鑑』『ベタの飼い方&原色図鑑』(コスミック出版)、『部屋で楽しむテラリウム』(緑書房)など著書多数。