きらめく小さな魚たち【第3回】
オデッサ・バルブ Pethia padamya

美しさゆえの誤解

オデッサ・バルブは、かつて改良品種と思われていた魚です。「オデッサ」はウクライナの町の名前に由来しますが、東ヨーロッパで作出された魚と考えられていたのでしょう。

日本には東南アジアで養殖された個体が輸入されていますが、ミャンマーから採集個体が輸入されて種として存在する魚であることが判明しました。記載されたのは2008年と比較的最近です。それほど大きくならない魚ですが、6cm程度まで成長します。

体側中央を中心に鮮やかな赤を発色し、眼も真っ赤になるのが美しさのポイントです。状態よく飼育すると赤の発色が強くなるのはもちろんですが、鱗のエッジが真っ黒に発色してコントラストが強くなります。また、鱗の銀色の発色が強くなり、メタリック感が出てくるところも魅力です。

やや個体差がありますが、背ビレと腹ビレ、臀ビレに黄色を発色します。エラ蓋付近にメタリックなブルーを発色するのもポイントです。そんな発色のよさと美しさは、小型コイ科のなかでも有数といえます。体形は体高のある肉厚で、混泳水槽などでは存在感を発揮します。

写真:美しい赤に発色するオデッサ・バルブ。状態がよくなるとヒレの黄色が強くなり、さらに美しさが増す

写真:メスと思われる個体。成熟するとさらにふっくらした体形になる

写真:銀色でエッジが黒く発色する鱗が魅力

飼育

飼育はとても容易で、中性前後の水質で問題ありません。ただし、発色よく飼育するためには、弱酸性の軟水で飼育するのがベストです。混泳もできますが、発情したオスは気性が荒くなるので注意が必要です。たいていは同種間の争いであり、他種への攻撃はそれほど問題にはなりませんが、シェルターを多く作っておかないと美しいヒレのある魚には育ってくれません。

写真:同種間での小競り合いは日常茶飯事。しかし、美しさを見せる瞬間でもある

特に繁殖を狙ってペアで飼育していると、発情したオスはメスを殺してしまうほどに攻撃します。そのため、繁殖にはメスを十分に成熟させることが大切です。

餌は何でもよく食べてくれるので、赤の発色がよくなる人工飼料を中心に与えるとよいでしょう。ただし、栄養価の高い餌を多く与えすぎると、すぐに太ってしまうので要注意です。

改良品種と勘違いしてしまうほどであった美しい魚、それがオデッサ・バルブです。

【文・写真】
佐々木浩之(ささき・ひろゆき)
1973年生まれ。水辺の生物をメインテーマとしている写真家。飼育下、野生下にかかわらず、好奇心の赴くままに生きものの面白さや美しさを探求している。なかでもアクアリウムの写真に定評があり、鑑賞魚や水草などを状態よく育て、生きものが最も美しい、躍動感あふれる一瞬をとらえる撮影法は高い評価を得ている。幼少期から熱帯魚などに親しんできたベテラン飼育者でもあり、実践に基づいた飼育情報や生態写真を雑誌・書籍等で発表している。『エアプランツ アレンジ&ティランジア図鑑』『苔ボトル 育てる楽しむ癒しのコケ図鑑』(電波社)、『育てる楽しむ癒しの苔ボトル』『苔ボトル楽しく育てる癒しのコケ図鑑』『珍奇植物 ビザールプランツ完全図鑑』『はじめてのアクアリウム 熱帯魚の育て方と水草のレイアウト』『屋外で強く育てる! メダカの飼い方&原色図鑑』『ベタの飼い方&原色図鑑』(コスミック出版)、『部屋で楽しむテラリウム』(緑書房)など著書多数。