飼い主さんはペットの健康を守るために動物病院を訪れます。その動物病院で獣医師とともに活躍しているのが愛玩動物看護師です。
これまでに紹介した「ペットの健康管理」や「治療のサポート」でも重要な役割を担っていた愛玩動物看護師ですが、今回の「手術での役割」を担うためには特に高い技術が必要です。
動物病院では、病気、怪我、分娩、避妊・去勢手術までさまざまな手術をします。歯周病の治療や歯石取りも、かかりつけの動物病院では多い処置です。それらの処置において愛玩動物看護師が担う役割を見てみましょう。
受け入れの段階
手術の経験のない人は多く、そのような人は特に、家族であるペットの手術を不安に感じがちです。骨折などの大怪我や、命に危険が及ぶような病気の治療のための手術となると、さらに不安な気持ちになります。獣医師からきちんと説明を受けても「麻酔から覚めないのでは」「痛そう」などという漠然とした不安は残ります。
手術を受けるペットや飼い主さんの不安を少しでも取り除くために、私たち愛玩動物看護師は飼い主さんから不安を聞き取って、獣医師と情報共有しつつケアをしています。また、詳しいインフォームドコンセントは獣医師がしますが、手術前の過ごし方、絶食したり流動食を与えるときの期間や量などを、愛玩動物看護師から具体的に飼い主さんへ説明することもあります。また、術後の過ごし方や傷口保護に関する指導、自宅での投薬指導なども担います。
手術前の準備
手術前に、愛玩動物看護師はさまざまな準備をします。
健康状態の確認
麻酔が必要な手術が決定した場合は、術前検査をします。術前の検査では、体重、体温、心拍数、呼吸数などを測定し、血液検査やレントゲン撮影、超音波検査をします。麻酔をかけると心拍数や体温の低下がみられることがあるため、ここでのバイタルの確認は重要です。若くて健康なほど麻酔のリスクも少なく、高齢期の個体、肥満だったり既往歴がある個体、短頭種などでは麻酔のリスクも上がります。その他の健康状態も把握することで、術中や術後のトラブルを予期して準備ができます。また、動物病院の動物は緊張のためいつもより飲水量が減って血圧に影響が出ることがあるため、術前から静脈点滴をして手術に備えます。
これらの検査において、ノラネコの扱いには細心の注意を払います。ほとんどの場合はスタッフに非協力的で、ふとした隙が動物と医療者の怪我につながりかねません。
手術器具や麻酔吸入器の準備
手術の器具は、無菌的に使用して安全な医療を提供するために、事前に滅菌します。滅菌とは、細菌などの目に見えない微生物を死滅させて除去することです。手術にあわせて器具を準備し、使用順に並べて揃っているかを確認します。また、麻酔吸入器で麻酔することがあるため、日頃のメンテナンスや直前の動作確認が重要です。
手術中のサポート
手術中の愛玩動物看護師のサポートとして、麻酔補助、手術助手、外回りなどがあります。
麻酔の補助・導入
動物の体重や状態に応じて獣医師が麻酔薬を準備し、麻酔導入をします。麻酔導入は集中したまま迅速かつ正確にする必要があります。愛玩動物看護師は獣医師の指示・監督のもと、心拍数や血圧などのバイタルの変化を把握し記録します。麻酔の監視には生理学や薬理学、専門知観察力(動物の健康状態を注意深く監視する能力)が必要です。バイタルの異常があった場合はすぐに麻酔担当獣医師や担当術者に報告します。
手術の助手
手術の助手は、止血のサポートや、術者の視野の確保などをします。ペットでも腹腔鏡手術(一般的な開腹手術より傷口が小さく済む)を受けられる施設も増えたため、場合によっては専門機器を扱って補助します。
外回り
手術においては、感染を起こさず無菌的に処置をするために、「手術器具やそれを載せる台は無菌状態で、それ以外の場所には病原菌が付着している」という想定をします。つまり、無菌的に器具を扱う担当とそうでない担当が必要です。台に手術器具を出す、動物の体を動かす、獣医師の指示のもと点滴の量を調整するなどの役割をするのが外回りです。
術後のケアとフォローアップ
手術のあとは術後ケアに移ります。
術後のケア
術後は常に状態をチェックし、動物が苦痛を感じないように鎮痛剤を使用したり、回復を早めるための食事と飲水の管理をします。
手術後にすぐに退院できない動物は入院します。入院中は飼い主さんと離れて過ごすストレスのほか、術後の痛みなどのストレスもあるため、個体によっては食欲の低下や攻撃的な行動がみられます。入院中の動物にできる限り快適な環境を提供し、健康状態を継続的に監視することは、愛玩動物看護師の大切な務めです。日帰り手術でも、しっかりと麻酔から醒めるまで院内で過ごします。
フォローアップ
手術が終わると飼い主さんは安心感を覚える一方、ペットの普段と違う様子を見て不安を抱えがちなので、預かり中の様子を報告して安心していただきます。また、退院後に傷口を清潔に保つ方法や、異常が見られた場合などの指導をします。
次の処置のための準備
手術が終わると、使用した器具の洗浄や手術室の清掃をします。器具には繊細なものもあるため、丁寧に洗浄して保管します。また、緊急の手術に対応できるように、使用頻度の低い器具や医療機器を含めて、滅菌やメンテナンスも怠りません。
このように、愛玩動物看護師は手術室でたくさんの業務を担っています。今後、愛玩動物看護師の専門的知識と技術がさらに向上することで、さらに質の高い動物医療サービスが提供できるようになるでしょう。愛玩動物看護師の知識と動物への愛情は、動物医療の質を高める重要な要素であると言えます。
【執筆】
旭 あすか(あさひ・あすか)
1988年生まれ。IPC国際ペットカルチャー総合学院を2011年に卒業後、りんごの樹動物病院(愛知県安城市)にて動物看護師として勤務。2017年動物看護師長に就任。院内の働き方や動物看護師の業務の改善を進める。2023年に愛玩動物看護師免許を取得。その他、世界基準の心肺蘇生~獣医蘇生再評価運動(RECOVER)を2018年に修了。院内業務にとどまらず、おもに臨床病理学(糞便検査、尿検査、血液塗沫など)分野の愛玩動物看護師向けセミナーで講師を務めている。自身のインスタグラムでは「愛玩動物看護師のリアル」を発信し、知識・技術ならびに社会的認知度の向上のために尽力している。
Instagram:asahi_asuka_vnca
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