美しい剣
ポピュラーな改良品種は、熱帯魚ショップで出会いやすい魚です。当然のこととして、ポピュラー種には元となった原種がいますが、稀に輸入されるその原種の魚を飼育してみるのもとても面白いものです。
卵胎生メダカでいえばグッピーやプラティ、そして今回紹介するソード・テールの原種はとても魅力的な魚なのですが、アクアリウムに馴染んでいても、そんな原種の魚たちを見たことがない人も多いのではないでしょうか。ぜひ、チェックしてほしいと思います。
シフォフォルス・ヘレリーはメキシコなどに生息する卵胎生メダカで、産地によって色彩変異が見られます。それら体色の違いや、もっている色彩のポテンシャルで多くの改良品種の元となった魚です。ただのポピュラーな改良品種のベースとなった魚と思われがちですが、実はとても面白い魚なのです。
最大の特徴は、ソード・テールと呼ばれる通り、オスの尾ビレ下部が剣のように伸長することです。大抵の個体は尾ビレの伸長した部分のエッジが黒く縁取られ、とても美しいコントラストを見せてくれます。一方、メスは成長してもラウンド・テールのままなので、すぐに見分けがつきます。
飼育と繁殖
飼育は難しくなく、中性の水質で問題なく元気に育ってくれます。ただし、酸性に傾くと状態が悪くなる傾向があるので、こまめに水換えをしてください。新しめの水であればペアで容易に飼育できます。人工飼料をよく食べるので、一般的な熱帯魚の餌やメダカの餌などを与えます。
繁殖も容易で、ペアで飼育していれば必ずといってよいほど仔魚を産んでくれます。稀に仔魚を食べてしまう癖のある親もいますが、大抵は一緒に飼育できます。仔魚の隠れ処となる水草を多く植えれば、混泳水槽でも繁殖が楽しめます。ただし、改良品種のソード・テールやほかのシフォフォルス属の魚とも交雑してしまうので、できれば単独種飼育をしてください
ソード・テールは性転換する魚として有名ですが、それほど頻繁に転換するものではないため、最初からペアで購入することをおすすめします。
悲しいことですが、沖縄では野生化してしまったソード・テールが問題になっています。言及するまでもないことですが、どんな理由があろうと、飼育魚は絶対に川などに放流してはいけません。
1年間にわたり、アクアリウムの魅力の一端を紹介してきたこの連載ですが、今回で最終回となります。ありがとうございました。
【文・写真】
佐々木浩之(ささき・ひろゆき)
1973年生まれ。水辺の生物をメインテーマとしている写真家。飼育下、野生下にかかわらず、好奇心の赴くままに生きものの面白さや美しさを探求している。なかでもアクアリウムの写真に定評があり、鑑賞魚や水草などを状態よく育て、生きものが最も美しい、躍動感あふれる一瞬をとらえる撮影法は高い評価を得ている。幼少期から熱帯魚などに親しんできたベテラン飼育者でもあり、実践に基づいた飼育情報や生態写真を雑誌・書籍等で発表している。『エアプランツ アレンジ&ティランジア図鑑』『苔ボトル 育てる楽しむ癒しのコケ図鑑』(電波社)、『育てる楽しむ癒しの苔ボトル』『苔ボトル楽しく育てる癒しのコケ図鑑』『珍奇植物 ビザールプランツ完全図鑑』『はじめてのアクアリウム 熱帯魚の育て方と水草のレイアウト』『屋外で強く育てる! メダカの飼い方&原色図鑑』『ベタの飼い方&原色図鑑』(コスミック出版)、『部屋で楽しむテラリウム』(緑書房)など著書多数。
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