雲洞庵は越後の名刹といわれるほど歴史ある寺のひとつで、いくつかの猫伝承が残されています。まず、基礎を築いたと言われる伝承から紹介します。
基礎を築いた雲洞庵の猫檀家
昔、本町の中町家の主人が、五智院の杉林で5~6匹の大猫が話しているのを聞きました。そのうちの1匹は主人が飼っている猫でした。
「今朝、台所の小サバを食った所を女中に見つかって、火吹き竹で背中を殴られた。今晩、仕返しだ。汁にカナギッチョ(トカゲ、カナヘビ)を入れてやる」
帰った主人が、猫の様子をうかがおうと台所をこっそりのぞくと、猫は腹の下からカナギッチョを取り出して鍋に投げ込みました。
しばらくして、主人が女中に鍋を畑へぶちまけるように言いつけると、猫は家を出ていき、二度と戻ってきませんでした。
その後、化け猫となった中町家の猫は死人に悪戯し、人々を怖がらせました。
その後、その猫は雲洞庵に流れ着き、和尚に大変かわいがられました。ある時、猫は恩返しすることを思い立ち、和尚へ良いことを教えると言って耳打ちしました。
しばらくの後、和尚は塩沢の葬式の伴僧として招かれました。葬式の終盤に、導師が最期の引導を渡そうとしたとき、棺桶がするすると舞い上がって宙に浮きあがってしまいました。僧たちが読経しても、全く効を成しません。しかし、雲洞庵の和尚が高らかに呪文を唱えると、棺桶はするすると降りてきて、火葬を終えることができました。
雲洞庵の和尚の法力はたちまち評判となり、檀家も大変増えたそうです。このようにして、雲洞庵の基礎が作られたのだということです。
雲洞庵
越後の名刹である雲洞庵は、717年(養老元年)に藤原鎌足の孫である藤原房前により建立されました。当時は、母親の菩提を弔う律宗の尼僧院でした。その後、藤原家は上杉に改姓します。1429年(永享元年)には上杉憲実によって曹洞宗雲洞護国禅庵が創設され、現在の基礎が作られました。
雲洞庵の本堂は新潟県指定文化財に認定されています。また、赤門~本堂へ続く石畳の裏には一字ずつ法華経が刻まれていると言い伝えられており、踏みしめて歩くとご利益が得られるとされていることから、「雲洞庵の土踏んだか」という言葉が生まれました。
[参考文献]
・小山直嗣著『新潟県伝説集成中越編』,1995年(恒文社)pp78-79.
雲洞庵
住所:新潟県南魚沼市雲洞660
【執筆】
岩崎永治(いわざき・えいじ)
1983年群馬県生まれ。博士(獣医学)、一般社団法人日本ペット栄養学会代議員。日本ペットフード株式会社研究開発第2部研究学術課所属。同社に就職後、イリノイ大学アニマルサイエンス学科へ2度にわたって留学、日本獣医生命科学大学大学院研究生を経て博士号を取得。専門は猫の栄養学。「かわいいだけじゃない猫」を伝えることを信条に掲げ、日本猫のルーツを探求している。〈和猫研究所〉を立ち上げ、SNSなどで各地の猫にまつわる情報を発信している。著書に『和猫のあしあと 東京の猫伝説をたどる』(緑書房)、『猫はなぜごはんに飽きるのか? 猫ごはん博士が教える「おいしさ」の秘密』(集英社)。2023年7月に「和猫研究所~獣医学博士による和猫の食・住・歴史の情報サイト~」(https://www.wanekolab.com/)を開設。
X(旧Twitter):@Jpn_Cat_Lab
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