動物看護師の主な業務として診療の補助があります。一口に診療の補助といってもその業務内容も広く、動物が安全に診察や処置を受けるためには必要な役割です。
愛玩動物看護師が国家資格となったことで、これまで獣医師のみが実施していた検査などの一部も担当できるようになりました。愛玩動物看護師は検査補助のプロとしても、動物たちの健康を守るための重要な役割を果たしています。
今回は愛玩動物看護師が最も携わることが多い仕事である『診療補助業務』についてお話してきましょう。
高度な技術を要する診療補助業務
診療補助業務には、獣医師の指示のもと、動物たちの診療をサポートするために専門性の高い処置も含まれます。具体的には、採血、経口投薬、マイクロチップの挿入、カテーテルによる採尿などが該当します。これらの業務は、愛玩動物看護師の資格を持つ者のみが行える独占業務となっており、動物病院の全スタッフが実施できるわけではありません。
特に採血、マイクロチップ挿入、カテーテル挿入には高度な技術が要求されます。また、投薬においても、自ら服用できない動物に代わって直接経口投与するため、大きな責任が伴います。
近年、ペットの飼育環境や価値観が変化し、多くの飼い主がペットを家族同然に扱うようになりました。そのため、怪我や病気の治療だけでなく、健康診断を積極的に受けさせる飼い主も増え、結果的にペットの寿命が延び、高齢化も進んでいます。
このような状況下で、獣医師だけでは対応しきれない動物たちの診療に、大きく貢献しているのが愛玩動物看護師です。多忙な獣医師に代わって採血や検体採取を行うことで、動物と飼い主の病院滞在時間を短縮できます。さらに、愛玩動物看護師が獣医師の業務の一部を担うことで、獣医師は飼い主への説明により多くの時間を割くことができるようになりました。
診療の円滑化と動物への配慮
診療補助業務には、先ほど説明した採血などの他にも、診察をスムーズに進めるための準備作業があります。点滴や定期処置、検査の器具をあらかじめ準備しておくなどして、受診する動物と飼い主さんが円滑に診療を受けられるようにしています。
まずは診療記録簿(カルテ)を確認し、体調の変化や動物、飼い主さんの情報を把握します。同じ処置をする予定であっても、動物の性格や状況に応じて器具を変更することがあるため、獣医師との情報共有や連携が欠かせません。
診察室では、獣医師がスムーズに診察を行えるよう、動物たちが動かないように保定を行います。その際には、動物ができる限りストレスを感じないように声をかけるなど、リラックスさせる工夫をしながら対応します。
診療が終わった後には、診察台の清掃や消毒をし、次の診療に備えます。これらの作業も、安全で効率的な診療を行うための重要な役割です。
動物病院での日常的な検査業務
診療では検査も日常的に行われます。一般的に多いものは糞便検査、耳垢検査、血液検査などです。
糞便検査は頻繁に行われる検査で、消化管に寄生する虫や下痢をしている動物の糞便の状態を観察するために実施します。耳垢検査は耳の感染症や寄生虫の有無を確認するために行われます。
特に犬は外耳炎になりやすく、動物病院で適切な治療を受けないと日常生活にかゆみや痛みなどの苦痛が伴うため、定期的な検査が望まれます。これらの検査は電子顕微鏡を使用し、直接目で見て行います。ここでも獣医師に代わって愛玩動物看護師の活躍の場が多くあります。
血液検査のための採血は、動物にとってストレスになる場合が多いため、愛玩動物看護師の保定技術と採血技術、さらに動物への配慮が求められます。X線検査やエコー検査などの画像検査をする際も、動物に仰向けや横向きの姿勢をとってもらう必要があります。
しかし、動物が検査を受ける時には必ずしも協力的であるとは限りません。安全かつ迅速に検査をするためには、日頃の経験と知識、技術のバランスが必要です。
検査結果が出たら迅速に獣医師への報告が必要です。特に、異常な検査結果はいち早く伝えなければなりません。
命をあずかる責任とやりがい
動物病院を訪れる動物たちや飼い主さんは、不安を抱えて来院されます。特に動物自身は診療行為に対して恐怖を感じることが多く、急に噛み付いたり暴れたりすることもあります。診療補助をする私たちは、動物の恐怖心や抱える不安を軽減させるために、性格や行動パターンを瞬時に把握し、適切な対応をとる必要があります。
この業務は体力的にも精神的にも負担が大きいものです。体格が大きい動物を扱う際は力も必要です。立ちっぱなしの業務になることも多く、緊急時には咄嗟の判断も求められます。国家資格を取得しても、経験は実際に積まなければなりません。命をあずかる現場であるため、大きな責任とプレッシャーを感じる場面も少なくありません。
しかし、たくさんの経験から得られた知識や技術が発揮された際にやりがいを感じ、動物たちが元気に家に帰っていく姿を見ると仕事をしている意義を実感できます。命を守り、健康を支える仕事の尊さがここにあります。
今回紹介した診療補助業務ですが、ここに記したもの以外にも書ききれないほど多くの内容があります。業務として覚えなければならないことが数多くあり、日々学び、経験を積むことで、動物の健康的な生活を支えることに繋がります。
こうした補助業務を通じて看護技術はどんどん向上していくでしょう。将来的には専門性に特化した動物看護専門職も生まれるかもしれません。常に進化し続ける分野で動物たちの命と向き合い続けることが、愛玩動物看護師の醍醐味です。
【執筆者】
旭 あすか(あさひ・あすか)
1988年生まれ。IPC国際ペットカルチャー総合学院を2011年に卒業後、りんごの樹動物病院(愛知県安城市)にて動物看護師として勤務。2017年動物看護師長に就任。院内の働き方や動物看護師の業務の改善を進める。2023年に愛玩動物看護師免許を取得。その他、世界基準の心肺蘇生~獣医蘇生再評価運動(RECOVER)を2018年に修了。院内業務にとどまらず、おもに臨床病理学(糞便検査、尿検査、血液塗沫など)分野の愛玩動物看護師向けセミナーで講師を務めている。自身のインスタグラムでは「愛玩動物看護師のリアル」を発信し、知識・技術ならびに社会的認知度の向上のために尽力している。
Instagram:asahi_asuka_vnca
【編集協力】
いわさきはるか
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