愛玩動物看護師とは?【第12回】診療補助その2

愛玩動物看護師にとって、治療の補助は大切なお仕事です。前回は検査業務など、通院治療の補助業務についてご紹介しましたが、今回は入院動物に焦点を当てます。一日の業務の流れに沿って、愛玩動物看護師がどのような入院看護ケアを行っているのか、具体的な実例をお伝えします。

犬や猫の入院管理における看護師の役割と、それぞれの動物に合わせた専門的なケアについて、ある動物病院での実際の取り組みを交えながら解説していきます。これから動物看護の世界を目指す方はもちろん、大切なペットの入院に不安を抱える飼い主さんにとっても参考になる内容ですので、ぜひ読んでみてくださいね。

朝の見回り・身体チェック

夜勤のない病院施設では、夜中の間入院している動物たちを見てあげることができません。そのため、朝に出社したらまず動物たちの状態をチェックします。

朝の見回りのようす

具体的には、動物の状態反応や排泄物のチェック、点滴の異常、食欲・飲水状況等の確認を行います。前日と比べ目視での身体状態の変化があるのかなどを観察することは非常に重要で、このときに異常があればすぐに獣医師へ報告します。

見回りの後には重症度の高い動物から朝の検診や検査、処置を行っていきます。バイタルの変化等を見逃さないようチェックし、獣医師と愛玩動物看護師で情報共有をします。得た情報はカルテにもれなく記録して数値の変化を確認します。その結果から、その日1日にどのような管理をするのかを判断します。この時に、担当獣医師へ数値では表われないような体調の変化などを報告しながら進めていきます。獣医師は外来の診察や手術などの業務もあるため、入院動物を日中観察することができる愛玩動物看護師が動物の細かな変化を察知し、獣医師と連携して治療を行います。

獣医師と共に行う朝の検診

動物への投薬には工夫が必要

朝の検診が終わったら、経口薬や外用薬、点眼等の投薬を行います。投薬は治療として大変重要で、獣医師の処方内容に従い適切な時間や投薬方法で行います。ごはんの時間に合わせて行うことが多いのですが、動物は人間のように自主的にお薬を飲むことができません。動物病院では、ごはんと一緒に投薬の補助を行うことが多いのですが、食欲がない場合や、何らかの理由で食事が取れない動物には様々な工夫が必要です。

動物の食欲や性格に合わせた投薬

できるだけ動物にストレスを与えたくないので、動物の性格や食べ方のくせなどをよく観察し、動物ごとに投薬方法を変えています。ドライフードが食べられる子でも経口薬だけ上手に避け、吐き出すことがあります。そんなときは缶詰や投薬補助トリーツに包んだり、オブラートに包んでカモフラージュしたりすることで、動物が経口薬の苦味等に気づかず食事をしながら投薬を済ませることができます。しかし、中にはそれでも経口薬に警戒して気づかれてしまうことがあるため、オブラートに包んだうえでウェットフードと混ぜたり、おやつを先に何度か与えて、経口薬の入ったおやつを間に挟んで与えたりと工夫をしています。それでも難しい場合には、獣医師に粉薬にしてもらい溶かして口に入れてあげます。特に苦いお薬は、動物との戦いになることも少なくありません。

状態に合わせた食事の補助

食事による栄養管理も愛玩動物看護師の大事な仕事です。

動物の状態に合わせたフード作り

病気により食欲がなくなっているだけでなく、飼い主さんの元から離れたことによる緊張や警戒で、ごはんを口にしない動物も多くいます。手術後は傷口の回復を早めるためにも、ごはんをしっかり食べてもらいたいですし、食事を取らない様子を聞くと飼い主さんからも非常に心配だ、というお声をいただきます。

絶食の状態が続くときには、食道や胃の中にチューブを使用して直接栄養給餌を行う場合や、ペースト状のフードを注射器で動物の口に直接入れていく強制給餌を行います。

直接栄養給餌(経腸栄養)のようす

自力では受け付けない場合でも、口の中にフードが入ってくると飲み込んでくれますし、警戒している動物の場合は、一度ごはんがおいしいと認識できれば、それがきっかけで自分から食べ始める場合もあります。愛玩動物看護師は食欲の変化や、事前に飼い主さんから聞き取った情報をもとに、どのような給餌方法であればストレスが少なく給餌ができるかを考え実施しています。

見回り・バイタルチェック

朝の検診や投薬、給餌が落ち着くと、日中は獣医師に代わって、看護計画に沿った観察を行います。バイタルサインという心拍数や呼吸数、体温、血圧などを動物の状態を見て必要応じた観察、記録をしていきます。

定期的なバイタルチェックのようす

バイタルサインの他にも、痛みを感じていないか、また身体の活動性はどうか、などを動物の表情から読み取ります。愛玩動物看護師は瞬時にこれらの異常を察知するスキルが求められるため、基礎的な知識だけではなく、日頃から観察力を養っておく必要があります。そして、動物を観察する上では、飼い主さんからの聞き取りも重要な情報となります。例えば、痛みを感じている動物と警戒している動物は外見の様子の区別が難しい場合があります。しかし、飼い主さんから動物の性格を事前に聞いておくことで、入院して治療する原因に痛みが伴うものかどうかも踏まえて判断していくことができます。

このように、バイタルサインのほかにも得られる情報はたくさんあり、動物が安心して過ごせるためのケアにつながります。

輸液のチェック

入院治療において多いのが点滴治療です。

入院動物への点滴処置

人と同じように、血管に管を繋ぎ輸液剤を投与します。状態や疾患により点滴の種類や流す点滴の量も異なるため、獣医師と連携して動物に安全かつ適切に輸液が行えるように管理します。

獣医師の指示のもとに輸液管理を行う

動物は自身に繋がれた点滴チューブをかじってしまったり、誤って食べてしまったりすることがあります。安全に治療を行うことは大前提ですが、些細な気の緩みが大事故につながりかねません。また、動物は点滴中に動いてしまい、点滴が血管から漏れることも少なくないため、1日に何度も足を触って確認します。

点滴がずれていないか、むくみが出ていないか直接触れて確認する

ご家族との面会

入院中の動物の元には、たびたびご家族が面会に来られます。面会時は獣医師からも治療経過や今後の治療プランの説明がありますが、愛玩動物看護師にとってはご家族に寄り添ったケアを実践する場でもあります。動物病院へ預けて不安でいっぱいの飼い主さんも多いため、動物の様子の変化や、その日に起こった些細なことをご家族に報告しています。「食事を取れていなかったのですが、今日はやっと食べてくれました!」そんな報告をすると飼い主さんの不安も少し和らぎ安心した表情になってくれます。ケアしてきてよかったと思える瞬間です。

適度な運動や快適な環境づくり

お昼から夕方までに必要な処置やリハビリ等を行うこともあります。また獣医師の許可が出た場合には、散歩などの運動を行うのも愛玩動物看護師の業務です。入院中は居住スペースに制限があり、ケージレストといって運動を制限して安静にさせることが多いのですが、そのせいで筋力の低下やストレスを抱えてしまう子もいます。また、自力で起き上がれない動物には、介助をしながら筋肉を動かし、寝たきりの動物には定期的に体位変換を行って褥瘡(床ずれ)を予防します。

また、排泄物の管理も大切な業務のひとつです。入院ケージを清潔に保つのはもちろん、排泄物のチェックを行い、尿や便の色や形状、においを観察します。動物病院の入院ケージは十分な広さが確保できないことも多く、動物が排泄物を踏んだりしてテーピングや手術痕が汚染されることもあります。動物が可能な限り清潔で快適に過ごせるように、こまめなトイレチェックは欠かすことはできません。

超音波装置を使用して膀胱内を確認

カルテ記録の整理と引き継ぎ

夜の投薬や給餌を行なった後は、その日の入院記録を整理します。翌日へ管理の引き継ぎや獣医師への報告なども欠かせません。看護記録は担当者以外が見てもわかりやすいように、細かく情報を記載してスタッフ間で共有します。

今回ご紹介した内容は入院看護業務の一部ですが、愛玩動物看護師が日々どのようなケアを行っているかイメージがついたでしょうか?動物病院では動物の状態が急変したり、治療がうまく進まなかったりすることも少なくありません。病気の種類や高齢期の動物では、回復が難しいケースもあります。その中で冷静で素早い判断が求められることや、飼い主の気持ちに寄り添い最善のケアを行う力が求められます。
ペットが入院するときにはたくさんの不安を抱えることとなります。しかし、動物病院には獣医師や愛玩動物看護師というプロフェッショナルたちが、大切な家族である動物たちに最善のケアを行っています。不安なことはなんでもお話しいただけると嬉しいです。

愛玩動物看護師は、動物に対して深い愛情と、専門的な知識、技術が求められ、決して楽な仕事ではありません。しかし、動物たちのために日々勉強して経験を積んできた分だけ貢献できることも増え、やりがいも大きいものとなっていきます。これからの愛玩動物看護師の役割は、さらに重要になっていくことでしょう。

【執筆者】
旭 あすか(あさひ・あすか)
1988年生まれ。IPC国際ペットカルチャー総合学院を2011年に卒業後、りんごの樹動物病院(愛知県安城市)にて動物看護師として勤務。2017年動物看護師長に就任。院内の働き方や動物看護師の業務の改善を進める。2023年に愛玩動物看護師免許を取得。その他、世界基準の心肺蘇生~獣医蘇生再評価運動(RECOVER)を2018年に修了。院内業務にとどまらず、おもに臨床病理学(糞便検査、尿検査、血液塗沫など)分野の愛玩動物看護師向けセミナーで講師を務めている。自身のインスタグラムでは「愛玩動物看護師のリアル」を発信し、知識・技術ならびに社会的認知度の向上のために尽力している。Instagram:asahi_asuka_vnca

【編集協力】
いわさきはるか