本連載第11回の、診療補助業務で触れた「院内検査」ですが、血液検査や尿検査、超音波検査、レントゲン検査などがその目的に合わせて行われています。検査は獣医師が行うイメージがあるかもしれませんが、実はその検査を支える中心的な存在が愛玩動物看護師です。
今回は、院内検査の内容や愛玩動物看護師の業務、動物や飼い主さんに対してどのように貢献しているのかを詳しくお話ししていきます。
動物たちの健康のためにも是非知っておいていただきたい内容になっていますので、最後まで読んでいただけると嬉しいです。
院内検査って何があるの?
一般的な動物診療施設で行われている院内検査は、大きく画像検査と臨床病理検査に分けることができます。
画像検査
超音波検査やX線検査、CT検査など、動物の内臓や骨などを撮影し、画像や動画から体の状態を診断する検査です。体の外からの触診などだけではわからない体内の病気や、腫瘍や消化器官、心臓や肺などの状態を画像化することで異常を見つける手助けをしてくれます。
臨床病理検査
動物から採取した血液や尿、糞便、臓器やその組織細胞などを顕微鏡や解析装置で分析し、病気の診断や体調不良の原因を調べる検査です。
尿検査や糞便検査、血液検査が最も一般的に行われている検査で、画像の検査では知ることができない脱水状態や栄養状態、各臓器の機能を詳しく調べることができます。
どちらも動物の体の状態を把握するためには必要不可欠な検査で、目的に応じて多くの情報を得ることができます。
もちろん、体調不良の原因を調べる目的もありますし、治療の経過を追っていくために定期的に検査を行うことも珍しくありません。また、健康診断としても利用されており、病気の早期発見や怪我、誤飲などの不慮の事故が起きた時にも異物の確認をすることで迅速な応急処置を可能にします。
最近では、人の健康寿命を伸ばすことで様々なメリットがあるとされていますが、動物でも同じようなことが言えると考えられています。健康寿命というのは、医療や介護が必要のない期間のことであり、適度な運動やバランスの取れた食事、睡眠、健康診断を受けるなど、健康を維持する取り組みが大切です。ペットに置き換えてみたときに、その子にとって適切なフード選びや食事量の管理、適度な運動も大切ですし、健康診断を活用することも注目されています。
愛玩動物看護師が行う院内検査
院内検査のうち、血液検査や尿検査、糞便検査は愛玩動物看護師が中心となって行っており、獣医師の指示のもと検査機器を操作したり、顕微鏡を使用して検査結果を報告しています。獣医師は、動物を診療し診断することが大きな仕事ですので、獣医師に代わって愛玩動物看護師が検査を実施することは、多くの動物を診療する上で欠かせません。
また、検査の際には目的にあった検体が必要であり、採血や採尿、採便を愛玩動物看護師が行うこともあります。動物に掛かるストレスを考慮し、飼い主さんに自宅で行っていただくことも多く、うまくできない時には的確なアドバイスが求められます。
特に、採尿は動物や飼い主さんにとって困難なケースも少なくありません。トイレ環境や性格、採尿をする状況を飼い主さんから聞き取り、動物に無理なく協力してもらえるように努めなくてはなりません。自宅での採尿が難しい場合でも、それを無理強いすることなく他の代替案を提案することも必要です。場合によっては病院内で採尿することもありますが、ストレス軽減への配慮や飼い主さんの不安を少しでも取り除くための言葉選びも重要です。
検体を採取した後は、院内の検査機器を使用して検査を進めます。ただ機械の操作を行うだけではなく、どのような異常があるのかを考える必要があります。健康の確認として行う検査においては、検体の扱い方や観察すべき点は異なります。
血液検査
貧血や炎症、血糖値、感染症の有無、肝臓や腎臓の機能が正常かどうかを調べます。体調不良の場合には、これらの数値の変化をデータ化し、獣医師に迅速に報告する必要があります。そのため、異常値であるかを判断できる知識も必要です。
尿検査
尿検査や糞便検査では、視覚的な確認や顕微鏡を用いた検査が主になります。
尿検査では、腎臓や膀胱、尿路系の異常を見つけることができます。膀胱結石や膀胱炎などの疾患も多く、特に雄猫では、何らかの理由で尿道が詰まってしまう尿道閉塞も珍しい病気ではありません。水を飲む量が減る冬に発症しやすいと言われており、閉塞の原因で多い膀胱結石ができていないかを定期的にチェックしておくことは、病気を予防する上で重要です。
このような病気の啓発や飼い主さんへの案内も愛玩動物看護師が行うことも多く、院内のポスター掲示や、今ではSNSを利用しているケースもよく見かけます。
糞便検査
寄生虫の感染や消化能力の確認、腸内細菌の状態を見て下痢の原因を調べることができます。
屋内外を行き来する猫や散歩中に拾い食いをする犬は、消化管寄生虫に感染してしまうこともあり、注意が必要です。動物病院で処方されているノミやマダニ、フィラリアの駆除薬には消化管寄生虫の駆除に効果があるものもあるので、1度投薬しているお薬を確認してみても良いかもしれません。愛玩動物看護師が、こうした予防薬や駆除薬の説明を飼い主さんへすることもあり、病気を未然に防ぐためにも必要不可欠な業務となります。
実際の業務を覗いてみましょう
糞便検査は、下痢や消化管の病気の診断の際や、健康診断でも行う検査です。尿検査でも言えることですが、新鮮な検体を必要とします。半日以上経過した便や、前日のものとなると腸内細菌が弱っていることや、腐敗が進んでいることもあります。また、新鮮な便にしか確認できない寄生虫も存在するため、飼い主さんには新鮮な便を持参いただくよう説明しておく必要があります。
検査の項目として、色や形、においを確認します。これは、下痢の種類によってこれらの状態が変わるからです。例えば、血便にしても、血液が便の外に付着しているのか、便の中や全体に混ざっているのか、また血液の色によっても出血の理由が異なります。
糞便検査は、スライドガラスにほんの少量の便をのせて顕微鏡で確認します。また、特殊な液体に糞便を混ぜて、寄生虫をより多く集めて行う「浮遊糞便検査」という方法もあります。
細菌を注意深く観察することで、異常な細菌が増えていないか、腸内の細菌バランスが崩れていないかを判断します。
検査結果が出た後は、その結果を記録し獣医師へ報告します。愛玩動物看護師が検査結果から病気を診断することはありませんが、獣医師が診断するための情報を伝える重要な役割です。
さいごに
日々獣医療水準は高まってきており、院内検査で使われる検査機器や、検査方法も新しいものが登場しています。愛玩動物看護師は、常に学び続ける必要がありますし、資格取得後も知識を深め、技術を磨き続けることが大切です。
しかし、技術を磨くだけでは愛玩動物看護師の仕事は務まりません。名前の通り、看護を行う者として動物や飼い主さんのケアも忘れてはいけません。動物が少しでもストレス無く検査を受けられるような細やかな配慮が、動物と飼い主さんの安心につながります。
これから愛玩動物看護師を目指す方に、この仕事の大きな役割とやりがいを知っていただけると嬉しいです。獣医療に求められる役割が増える分責任も伴いますが、私たち愛玩動物看護師は困っている動物たちを救うお手伝いができる仕事ですので、やりがいもその分たくさん存在します。
獣医療に貢献したいという方は、ぜひ目指してみてください。愛玩動物看護師として、動物の未来を支えるための一員となれることを心から応援しています。
【執筆者】
旭 あすか(あさひ・あすか)
1988年生まれ。IPC国際ペットカルチャー総合学院を2011年に卒業後、りんごの樹動物病院(愛知県安城市)にて動物看護師として勤務。2017年動物看護師長に就任。院内の働き方や動物看護師の業務の改善を進める。2023年に愛玩動物看護師免許を取得。その他、世界基準の心肺蘇生~獣医蘇生再評価運動(RECOVER)を2018年に修了。院内業務にとどまらず、おもに臨床病理学(糞便検査、尿検査、血液塗沫など)分野の愛玩動物看護師向けセミナーで講師を務めている。自身のインスタグラムでは「愛玩動物看護師のリアル」を発信し、知識・技術ならびに社会的認知度の向上のために尽力している。
Instagram:asahi_asuka_vnca
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