愛玩動物看護師とは?【第14回】愛玩動物看護師の仕事:「訪問看護・往診補助」の役割とは?

ペットの医療は年々進化し、それに伴って動物看護の現場も多様化しています。動物の治療やケアといえば動物病院での診療が一般的でしたが、近年は訪問看護や往診のニーズも高まりつつあるように感じます。
「動物病院まで連れて行くのが難しい」、「高齢のペットに負担をかけたくない」、「長年暮らした自宅で最期まで穏やかに過ごさせてあげたい」といった飼い主さんの思いに応えるため、愛玩動物看護師が訪問看護の場で活躍する機会が増えています。本記事では、訪問看護や往診とは何か、愛玩動物看護師がどのように関わるのかをご紹介します。

訪問看護とは

愛玩動物看護師が獣医師の指示のもと飼い主さんの自宅に訪問し、適切なケアを提供するサービスです。訪問看護での主なケアとして、内服薬の投与や皮下点滴、栄養指導などを含む食事管理、高齢ペットの介護や終末期ケア(ターミナルケア)などがあります。また、老齢や病気・怪我によって運動器の障害や衰えに対するリハビリテーションなども在宅で受けることができます。ペットが病院に通うことが難しい場合でも、訪問看護を利用することで自宅で適切なケアを受けることができます。

身体検査をして体調に問題がないかを確認する

往診とは

獣医師が飼い主さんの自宅へ訪れ、診察や治療を行うことを往診といいます。訪問看護との違いは、獣医師が診断や治療を行う点にあります。
往診での主な診療は、診察(体調不良、慢性疾患の管理など)、ワクチン接種、処置(爪切り、耳掃除、軽い皮膚疾患の治療、在宅での点滴や投薬など)が挙げられます。訪問看護と往診は連携して行われることが多く、獣医師と愛玩動物看護師が協力しながらペットの健康管理をサポートしています。

定期的な爪切り
猫の体調について飼い主さんから問診を行う

訪問看護・往診が求められる理由

ペットの高齢化

近年はペットの平均寿命が延びており、シニア期を迎える犬や猫が増えています。関節疾患や認知症などの慢性疾患を抱えるペットも多く、動物病院への通院が大きな負担になるケースも少なくありません。また、ペットは家族であるという考え方も広まり、動物へのストレスに配慮したいという飼い主さんも増加しているように感じています。
飼い主さんの事情(通院が困難なケース)として以下のことが挙げられます。

・高齢の飼い主さんがペットを連れて病院へ行くのが難しい
・多頭飼いで全員を一度に連れて行けない
・車がない、近くに病院がない

終末期ケアのニーズの高まり

ペットを家族の一員として迎える飼い主さんが増え、「住み慣れた自宅で最期を迎えさせてあげたい」と考える人も多くなっています。訪問看護では、ペットができるだけ穏やかに過ごせるように、痛みの管理や快適な環境づくりをサポートすることが大きな役割となっています。

訪問看護の事例紹介

実際の訪問看護のケースとしていくつか挙げてみます。

ケース1

16歳のシニア犬、慢性腎不全の治療・管理
・週に1回の病院での点滴が負担になり、自宅での点滴を希望。
・愛玩動物看護師が訪問し、皮下点滴を実施。
・自宅ケアのアドバイスを行い、体調の変化を記録し獣医師と共有。

ケース2

末期ガンの猫、終末期ケアの支援
・飼い主さんが「最期まで一緒にいたい」と希望。
・痛み管理の方法を指導し、環境調整をアドバイス。
・獣医師と連携しながら、必要に応じて訪問診療を実施。

ケース3

猫多頭飼育、定期ケア、相談
・高齢で来院が困難なため自宅での定期ケアを希望。
・毎月問診、爪切りを実施。
・健康相談など踏まえ生活のアドバイス、獣医師と共有。

多頭飼育により自宅での定期ケアを実施

このように、さまざまな理由により通院が困難なケースや、飼い主さんの希望によりそった訪問看護は、ペットと飼い主さんの大きな支えとなっています。また、愛玩動物看護師と獣医師が密な連携をとっているからこそ、飼い主さんも安心して動物との生活を送ることができています。

体調がすぐれないペットはそのまま動物病院で預かることも

私自身も獣医師による往診に同行する機会がありましたが、ペットが自宅でゆったりと過ごしている中で飼い主さんとお話ししていると、院内とは違う穏やかで特別な空気を感じることができました。
しかし、往診や訪問看護では、動物病院の施設とは違った課題や制約も存在します。病院内のような機材や清潔な環境が整わないので、処置や検査には限界があります。また、獣医療における訪問看護に関わる制度の整備がまた進んでいないという現状もあります。

訪問先での採血の準備

訪問看護での愛玩動物看護師の役割とは?

訪問看護や往診の現場では、愛玩動物看護師が獣医師と連携しながらペットと飼い主さんを支える重要な役割を担います。飼い主さんへのサポート訪問看護では、飼い主さんと直接コミュニケーションを取る機会が多いため、ペットのケア方法や日常生活での注意点をアドバイスすることも大切です。また、獣医師との細かな連携や情報共有も最重要となります。

飼い主さんから近況を伺うコミュニケーションが大切

訪問看護や往診はまだ発展途上の分野ですが、ペットの高齢化や飼い主さんのニーズの変化に伴い、今後ますます重要な仕事になっていくと感じています。ペットが最期まで安心して過ごせるように、愛玩動物看護師としてできることはたくさんあります。この分野に興味がある人は、ぜひ訪問看護について学んでみてくださいね。

【執筆者】
旭 あすか(あさひ・あすか)
1988年生まれ。IPC国際ペットカルチャー総合学院を2011年に卒業後、りんごの樹動物病院(愛知県安城市)にて動物看護師として勤務。2017年動物看護師長に就任。院内の働き方や動物看護師の業務の改善を進める。2023年に愛玩動物看護師免許を取得。その他、世界基準の心肺蘇生~獣医蘇生再評価運動(RECOVER)を2018年に修了。院内業務にとどまらず、おもに臨床病理学(糞便検査、尿検査、血液塗沫など)分野の愛玩動物看護師向けセミナーで講師を務めている。自身のインスタグラムでは「愛玩動物看護師のリアル」を発信し、知識・技術ならびに社会的認知度の向上のために尽力している。
Instagram:@asahi_asuka_vnca