猫は関節の病気が多いの?
猫は、骨や関節といった運動器の病気が少ないと思われていましたが、実は中高齢の猫を中心に「変形性関節症」(Osteoarthritis:以下、OA)という関節の病気を発症していることが多いと判明しています。OAは、「関節症」や「骨関節炎」と言われることもありますが、これらは全て同じ病気です。

日本大学動物病院の調べでは、12歳齢以上の猫の70パーセント以上に、レントゲン検査で関節や背骨に異常が認められています。海外の報告では、12歳齢以上の90パーセントにOAが認められたという驚くべき報告*¹もあり、本疾患は猫で最も多い疾患といっても過言ではありません。このように、OAを発症した猫が多いのにもかかわらず、日本ではこれらの猫のたった2パーセントしか治療を受けていません*²。したがって、猫がいつまでも快活に暮らすことができるように、OAについての知識を持っておく必要があります。
変形性関節症ってなに?
OAは、加齢などによって関節の表面にある軟骨の性質が変化したり、外傷などで軟骨が傷ついたりすることによって生じます。また、靱帯損傷や関節内骨折、脱臼をしたことのある猫もOAになるリスクを抱えています。
OAになると関節の表面にある軟骨の構造が壊れていき、完全に元に戻ることはありません。そして、軟骨が減って消失してしまうと、その下にある骨(軟骨下骨)が露出し、骨同士がぶつかるようになってしまいます。

さらに、軟骨の破片などによる刺激で炎症を引き起こし、関節痛が生じます。関節周囲の骨が変化して骨棘(こつきょく)が形成されたり、関節が変形して機能障害が生じたりします。このように、OAは完治することがなく、猫の生活に大きな影響を与えるため、早期発見と発症予防が最大のポイントとなります。
こんな症状があったら動物病院に相談を
OAは関節の病気のため、歩き方がおかしくなると思っている人も多いでしょう。しかし、OAによって慢性痛を抱えている猫は歩くこと自体をしなくなり、歩行の変化を捉えることは困難です。そのため、歩行以外の変化に着目することで、OAの早期発見に役立つことがあります。
OAの猫で最もよく認められる症状は、「ジャンプができなくなる」です。高くジャンプできなくなることも同様です。その他には、「高い所から飛び下りられない」、「階段を勢いよく上ることができない」、「昼間に寝てばかりいる」、「あまり動かない」、「あまり遊ばない」、「トイレの使用が難しくなる」、「グルーミングをしなくなる」、「爪が伸びている」、「被毛の状態が悪い」、「人とのかかわりを避ける」、「怒りやすくなる」といった変化が生じます。これれの症状が認められたら、動物病院へ行って獣医師に相談してみましょう。

どうやって診断する?
OAは、視診や触診、画像検査で診断を行います。まずは、足の着き方、立っているときや座っているときの姿勢を観察します。
犬は動物病院で歩行検査を行うことができますが、猫は動物病院では歩いてくれないことが多いので工夫が必要です。最も良い方法は、家での様子を動画で撮影し、獣医師に確認してもらうことです。そのため、上記のような症状が認められたら、積極的に動画を撮っておくことをおすすめします。
次いで、体や足の触診を行って関節の動きや痛みの有無を確認します。最近では、尿検査でもOAの有無を推測できるようになりました。
これらの検査で異常が認められたら、レントゲン検査を行います。レントゲン検査を行うことで、OAの有無を確認することができます。

発症予防にできることは?
中高齢の猫はOAにかかっていることが多いと述べましたが、実際に症状が認められるのは、本疾患にかかっている猫の40パーセント以下であると考えられています。そのため、本疾患はなるべく早く発見してあげて、発症させないように心がけることが重要です。まず、中高齢になったら運動器検診を受けることをおすすめします。それによって、症状が出る前に発見できる場合があります。また、上記のような行動の変化がないか、常に観察を怠らないようにしましょう。
OAは、体重過多または、肥満の猫で症状が生じることが多い傾向があります。そのため、体重管理は最も重要な発症予防となります。その他にも、運動の仕方や環境の改善も同時に行うことが有効です。運動機能を維持するためのエクササイズも考案されています。
変形性関節症の治療は?
OAの治療は、体重管理や生活環境の改善、疼痛管理といった保存療法が主体となります。体重管理は、前述したように発症予防にも重要ですが、治療の鍵にもなります。その際には、獣医師と協力して減量プログラムを考えましょう。
OAの猫は、ジャンプや高い所、階段の上り下りなどの衝撃性の高い動作を避けることが望ましいため、そのような動作を行う玩具や家具などを取り除く努力をしましょう。ボックス型のトイレを使用している場合には、一辺が平らになっているトイレに変更するだけで、排尿や排便時の失敗が少なくなります。前肢にOAが存在する場合には、食器の位置を高くしてあげることで前肢への負荷が減るため、食欲が改善することがあります。

OAの猫で、慢性痛による行動の変化が認められる場合には、疼痛管理をすることで生活の質が改善します。現在、日本では、非ステロイド性消炎鎮痛薬や抗神経成長因子(NGF)モノクローナル抗体薬といった痛みを抑える薬が使用されています。非ステロイド性消炎鎮痛薬は、錠剤や液状剤で経口投与を毎日行う必要があります(使用限度の国内承認:5〜6日間)。抗NGFモノクローナル抗体薬は皮下への注射剤で、月に1回の投与となり、より長期間使用することができます。
関節の健康を管理するために、サプリメントの給与も行われています。そのようなサプリメントには、グルコサミンやコンドロイチン硫酸、緑イ貝、オメガ3脂肪酸などが含まれているものが多いです。これらのサプリメントは、疼痛緩和や関節機能の改善に役立つことがあります。
最近では、OAの症状が認められた猫の運動機能を改善させる目的で理学療法が行われています。その他に、電気刺激療法や低反応レベルレーザー療法、超音波療法などの物理療法を行っている施設もあります。
これらの保存療法で治療効果が得られないときには、外科療法が考慮されます。その際には、切除関節形成術や関節固定術、人工関節置換術などといった手術が報告されています。日本においても、股関節形成不全による重度なOAを発症した猫に対して、人工関節置換術が行われるようになってきました。しかし、このような高度な手術は実施できる施設が限られているため、あまり普及していないのが現状です。
そのため、猫ではOAの治療として保存療法を行うのが現実的であり、十分に生活の質を保つことができます。
まとめ
猫の寿命が長くなり、OAを発症した猫は増加傾向にあります。猫はOAによる慢性痛を抱えながら生活をしているため、様々な行動に変化が生じます。このような行動の変化に早く気づいてあげることが重要であり、早期から対策をしてあげることで、生活の質を良好に維持することができます。いつまでも、元気で飛び跳ねて遊んでいる姿を見たいという願いを叶えるために、本疾患についての知識を持っておきましょう。愛猫の健康寿命を延ばすために、本記事を参考にしていただけると幸いです。
[参考文献]
*¹ Hardie EM et al. “Radiographic evidence of degenerative joint disease in geriatric cats: 100 cases (1994–1997)”, J Am Vet Med Assoc 220, 5, 628-632, 2002
*² 動物病院に勤務する獣医師を対象としたオンライン調査、n=200名、2021年7月、ゾエティス・ジャパン調べ、Zpeer実施
【執筆者】
枝村一弥(えだむら・かずや)
獣医師。日本大学動物病院(神奈川県藤沢市)病院長、日本大学獣医外科学研究室教授。1999年日本大学農獣医学部獣医学科卒業、2003年東京大学大学院農学生命科学研究科獣医学専攻修了。日本小動物外科専門医およびアジア獣医外科設立専門医を取得。現在、日本獣医麻酔外科学会副会長、日本動物リハビリテーション学会副会長、動物のいたみ研究会委員長などを務める。
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