ペット用以外にも、動物園・水族館にいる動物用ミルクの製造・販売をしている森乳サンワールドの社員さんが、ミルクを使用している全国の動物園・水族館のスタッフにお話を聞く本企画。
今回は、桂浜水族館(高知県高知市)の館長の秋澤さんと飼育スタッフの菊池さんにお話を伺いました!

※情報は2025年6月時点のものです
「ドッグミルク」を300缶以上飲んでいるオットセイの「ナガックー」

―どのような経緯で当社のミルクを使用することになったのでしょうか?

いくつかのミルクを比べて、栄養価や使いやすさ、価格などを考えたうえで、一番良かった「ドッグミルク」を選んだという経緯です。


―ありがとうございます!

現在、メインでミルクを飲んでいるのはオットセイの「ナガックー」ですが、それ以前はアシカの人工哺育でも使用していました。

―ナガックーがたくさん飲んでくれていることは、SNSなどで拝見しています。

当館は人工哺育を推奨しているわけではありませんが、ナガックーのお母さんは目が見えないので、最初から人工哺育にしようと決めていました。

―そうだったのですね。

ナガックーが生まれる前にもう一度ミルクを見直してみましたが、今でもナガックーに「ドッグミルク」を使っています。



―ありがとうございます。ちなみに、どこで当社のミルクを知りましたか?

他の園館で使っていると聞いたことがきっかけです。

―口コミで広がっているんですね。嬉しい限りです。

他のミルクもペットショップやホームセンターで買って試しましたね。
今は通販サイトの欲しいものリストを活用していて、ありがたいことに当館のファンの方々からご支援をいただくこともあります。

―園館同士の横のつながりはあまりないと聞いたことがありますが、情報共有はどのように行われたのでしょうか?

もちろん、JAZA(日本動物園水族館協会)での情報交換はありますが、海外に比べると横のつながりは弱いかもしれません。協会でというよりは、園長同士や同じ学校出身のスタッフ同士のつながりが強い印象です。

―どのタイミングからミルクの準備をされるのでしょうか?

出産のサイクルは1年間である程度決まっているので、産まれる月の前までには準備しています。


「お母さんに育ててもらう」が当館の基本方針なので、準備するのは少量だけにしています。

―生後何か月くらいまでミルクを与えますか?

生後8か月~1年くらいまでです。個体差はありますが、7~8か月あたりで離乳の準備をはじめます。
ナガックーの場合は、2025年の5月末から離乳の準備を始めました。まだ完全に離乳できていませんが、今は魚とミルクの両方で育てています。

―生後何か月くらいまでミルクを与えますか?

基本は、そのままお湯で溶かして与えています。生まれてすぐのときは、栄養補給のために生理食塩水を加えていました。体調に合わせて整腸剤などを加える場合もあります。

―アザラシに与える際は油分を加えると聞いたことがあるのですが、オットセイの場合はいかがでしたか?

油分については、スタッフで調査しました。最終的には「ドッグミルク」に含まれている量で充分だと判断しました。
毎日与えるものだからこそ

―当社の「ドッグミルク」を使用して良かったことはありますか?

成分がちょうど良くて、かつ手に入りやすいという点は助かっています。

溶けやすくて、作り方もわかりやすくて、使いやすいよね?

はい。毎食作るものなので、使いやすくてとてもありがたいです!

―ありがとうございます! 当社のミルクは、造粒加工という溶けやすくする工夫をしていているので、そこを評価していただけてとても嬉しいです。

そうだったんですね! 与えるミルクの温度も飲みやすさに直結しているので、熱湯でなくても溶けてくれると冷ます工程が不要だったり、適温に合わせやすかったりするので、助かっています。

―ナガックー以外に当社のミルクを与えている動物はいますか?

神戸市立王子動物園に引っ越したカルフォルニアアシカの「コエル」も、「ドッグミルク」をナガックーに負けないくらい大量に飲んでいました。

―乳糖は気にされていましたか?

そこまで気にしていませんでした。

ペット業界では「乳糖=お腹を下してしまうもの」として扱われてしまうことがあるんです。

そういう情報もあって、整腸剤で調整したりはしていました。

実際には、乳糖はカルシウムの吸収率をあげたり、ビフィズス菌のエサになったり、整腸効果もある必要な成分です。

いろいろなメーカーさんが、しっかりと研究した結果として入っている成分だと信じていますので、神経質になるほどではないと思っています。


―ありがとうございます。ミルクを哺乳以外の体調管理や栄養補給に使うことはありますか?

実は、ちょうど今その件で議論をしているところです。魚だけでは足りないカロリーや栄養素があるので、濃度を決めて与えようと考えています。

それはナガックーだからでしょうか? たとえば、成獣の場合はどうですか?

以前は成獣の体調が悪いときなどに与えていました。

―ミルク以外の当社の製品で使用されているものはありますか?

哺乳器は使っているよね?

そうですね。それこそ、アシカに使っていました。握って注入できるタイプは、自力で飲むまでの練習としてすごく使いやすかったです。

不安でも愛情一つで乗り越えられる

―海獣の赤ちゃんを育てるときに苦労したことは何ですか?

僕はナガックーで初めて人工哺育を経験しましたが、一時も気が抜けませんでした。なかなか哺乳瓶から飲んでくれなかったり、思うように体重が増えなかったり……。安定期に入るまでは、とても不安でした。


―そうだったんですね。当時はつきっきりでお世話されたんですか?

毎晩ミルクを与えに来ていました。でも、僕のことを好いてくれていると感じていたので、全く苦ではなかったです! 他のスタッフを噛んだりします(笑)。


―さっきも寄って来ていましたね!

正直、今の離乳の時期も不安です。魚だけだと体重が落ちてしまっていて、ミルクは卒業しないといけないのですが、とても難しいです。

ナガックーの場合は、カテーテルで直接ミルクを与えていたという経緯もあって、離乳が難しくなっています。他の園館での同じようなケースを聞いたことがないので、魚だけに移行したときにどうなるのか不安です。
人の言葉を話せないので、少しの変化も見逃さないように観察は欠かせません。しっかりとごはんを食べていた次の日に体調不良になってしまうこともあるので、気が抜けません。

―今後、人工哺育は増えていくと思いますか?

当館のオットセイだけでいうと、母親だけでは育てられないので人工哺育が必然になると思います。そのほかの種だと、親と子次第だと思います。

―そうなんですね。

たとえば、生まれても泣かなかったら必然的に人の手が加えられます。救命処置は人間にしかできないので。
その後、親に戻したときにうまくいかない場合は人工哺育、というように進むと思います。

基本的には親に任せるのが自然ですので、それに越したことはありません。
業界的には、半々くらいではないでしょうか。救命処置などで一度人の手が加えられた後に育児を再開してくれないこともありますし、そうでなくても育児の途中でうまくいかなくなることもあるので、人工哺育がなくなることはないと思います。
マイナスをプラスにして、変わらない水族館の役割を大切に

―桂浜水族館ならではの取り組みについて教えてください。

動物との距離の近さには、お客さんも驚かれます。柵一枚の距離まで近づいて観察したり、エサやりを対面的に体験したりできるので、とても喜ばれます。

―先ほど体験しましたが、距離が近くて楽しかったです!

この建物ができたのが41年前になりますが、当時の動物園・水族館のほとんどは、この距離感で動物とのふれあいを楽しむというのがコンセプトでした。今でも当時のままなので汚れていたりもしますが、この距離感を活かした魅せ方をしています。



―「古き良き」ということですね。

良いかはわかりませんが(笑)。
動物特有の臭いも消さずに、ありのままの姿を見てもらっています。近い距離でのエサやりだからこそ、動物はこうしたら食べてくれるんだ、というように学べることがあると思います。

―SNSにも力を入れられていますよね。当社のミルクを使用していることを知ったきっかけがSNSでした。

あの後ご厚意で「ドッグミルク」をいただけて、本当に助かりました。


―社内でとても盛り上がりましたし、多くの方に動物用ミルクの存在を知っていただく機会になったので、とても嬉しかったです。

当館は、一般的な水族館というよりは、他の水族館ではやらないようなイベントも開催しています。近い距離でのエサやりもそうですが、他では味わえない水族館の一面を体験しに来てくれると嬉しいです。
おわりに
今回は、ドッグミルクを使用している桂浜水族館にお邪魔しました。動物との距離が近いだけではなく、スタッフ同士も家族のように仲が良く、活気に溢れた水族館でした。人工哺育で不安なことがあっても元気にナガックーが成長できているのは、きっとスタッフ同士の助け合いがあったからだと想像できます。私たちも、「ドッグミルク」を通してナガックーの成長を末永く見守っていけたら嬉しいです。
本企画では、全国の動物園・水族館へ足を運び、ミルクの使用の実情や飼育についてお話を伺っていきます。次回もお楽しみに!
【森乳サンワールド】
・ホームページ…https://www.morinyu-pet.com/useful/lifetime-milk/
・X…@morinyu_pet
・Instagram…@morinyu_pet
【桂浜水族館】
・公式サイト…https://katurahama-aq.jp/
・X…@katurahama_aq
・Instagram…@katurahama_aqua
・Facebook…桂浜水族館
・YouTube…桂浜水族館
「いきもののわ」では、ペットや動物園・水族館、野生動物、動物関連イベントなど、いきものにまつわる様々な情報をお届け中!
メールマガジンでは、特集記事の紹介や次月特集の一部をチョイ見せ!
登録はこちらのフォームから。ぜひご登録ください!