はっけん!日本の爬虫類・両生類【第27回】ナゴヤダルマガエル Pelophylax porosus brevipodus (Ito, 1941)

中部地方の一部や近畿地方の一部、瀬戸内地方の一部の低地にある水田には、「だるまさん」が暮らしています。だるまさんとはカエルのことで、小さな頭にぽっちゃりとした体、そして特徴的な短い脚が達磨(だるま)を想像させます。正式な名称は「ナゴヤダルマガエル」といい、愛知県北名古屋市が模式産地(新種記載の際に根拠として用いた生体が採取された場所)のため、名古屋を冠します。

黒い斑紋が綺麗なナゴヤダルマガエル

名古屋が付くのだから、東京が付く種もいるのではと思われる方も多いでしょう。まさにその通りで、トウキョウダルマガエルとは亜種の関係にあります。この2種は分布が重ならないため、分布域でも亜種の区別ができます。

見分け方が難しい種は、同所的に暮らしているトノサマガエルです。年に数回写真が送られてきて「これはナゴヤダルマガエル? トノサマガエル?」と聞かれることがあります。個体が小さいうちは特に似ていて、見分けることが難しいです。トノサマガエルとは、雌雄での体色の違いや模様の違いなどがあります。

上半身が黄緑色のナゴヤダルマガエル

また、トノサマガエルと比べると、ナゴヤダルマガエルは脚が短く、ジャンプ力がかなり劣ります。側溝に落ちてしまうと、トノサマガエルはジャンプして一気に這い上がれますが、ナゴヤダルマガエルは短い脚で必死にもがいても逃げ出せません。側溝で乾燥死してしまった個体すら見かけたことがあります。
これは、ほ場整備や乾田化がナゴヤダルマガエルの減少の一因であることを示し、各地のレッドリストの上位に入っている理由にもつながるのではないでしょうか。私が暮らす滋賀県では、条例で希少野生動植物種に指定されており、捕獲などは禁止されています。

琵琶湖周辺にはナゴヤダルマガエルが多いのですが、琵琶湖を取り囲む大きな道路より山側にはトノサマガエルが比較的多く見られます。うまくすみ分けているようです。
一方で、トノサマガエルとの交雑個体が見つかったり、場所によっては数か所でしか姿を見ない地域もあります。

黄緑色のナゴヤダルマガエル

両生類は、環境変化の影響を受けやすいいきものです。その中でも、レッドリストの上位に位置するナゴヤダルマガエルにとっては、近年の激しい気候変動や自然災害はとても厳しいです。身近ないきものである彼らの動向をしっかりと見守っていきたいです。と言っても、このような機会で存在を知ってもらうこと以外は何もできませんが……。春になって、あの低い鳴き声を聴くのが楽しみです。

メスを呼ぶナゴヤダルマガエル

【文・写真】
関 慎太郎(せき・しんたろう) 1972年兵庫県生まれ。自然写真家、びわこベース代表、日本両棲類研究所展示飼育部長。身近な生きものの生態写真撮影がライフワーク。滋賀県や京都府内の水族館立ち上げに関わる。『日本のいきものビジュアルガイド はっけん!』シリーズ(田んぼのいきもの、カナヘビ、小型サンショウウオ、ニホンイシガメ、ニホンヤモリ、トカゲ、イモリ、ニホンアマガエル、オタマジャクシ、オオサンショウウオ)、『野外観察のための日本産両生類図鑑 第3版』『同 爬虫類図鑑 第3版』、『世界 温帯域の淡水魚図鑑』、『日本産 淡水性・汽水性エビ・カニ図鑑』(いずれも緑書房)、『うまれたよ! イモリ』(岩崎書店)、『日本サンショウウオ探検記 減り続ければいなくなる!?』(少年写真新聞社)など著書多数。

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