フォトエッセイ犬と人が織りなす文化の香り【第24回】ラトビア

10年以上前にラトビアをはじめて訪れたとき、私は思わずその静かな魅力に引き込まれました。バルト三国の中心に位置し、自然豊かな森に囲まれたこの小さな国には、どこか懐かしい空気が漂っています。エストニアやリトアニア、そしてロシアと隣接し、海を越えればスウェーデンがあるこの場所は、大自然の緑に包まれた土地です。ラトビアの森は、都会の喧騒を忘れさせてくれるような穏やかさに満ちています。

首都リガの旧市街の石畳を踏みしめるたびに、まるで時を遡るような感覚になります。建物は華やかではないけれど、その美しさには力強さと静けさが宿っているように思えました。

何度か訪れるうちに、ラトビアの風景や人々に慣れ親しんでいきましたが、一つ気になったことがあります。それは、街中で野良犬を見かけないことです。
野良猫にはよく出会いますが、犬は公園や広場、路地裏にもいません。ラトビアでは、犬が「家族の一員」として大切に扱われているのだろうかと、ふと思いました。

6月最初の週末、ラトビアは白夜の季節を迎え、昼間の時間がどんどん長くなっていきます。そんな頃に、「森の民芸市」というお祭りが開かれます。

会場はラトビア民族野外博物館で、森の中に点在する木造の家々に囲まれた広大な敷地で開催されます。各地から職人たちが集まり、手作りの織物や木工品、陶器などが並び、地元の蜂蜜や黒パンも売られます。民族衣装を着た人々が踊り、音楽と歌声が広がるその場にいると、おとぎ話の世界に足を踏み入れたような気分になりました。そこに集まる人々は、年齢に関係なく笑顔で輪になって踊り、時間がゆっくりと流れていきます。

その市で、何頭かの犬に出会いました。彼らは主人が働く様子を静かに見守ったり、販売ブースで家族の手伝いをしたりしていました。犬たちは決して目立とうとはせず、家族とともに時間を共有し、自然な形で生活に溶け込んでいました。

この風景は、ラトビアの人々がどれほど自然と歴史、そして周りの命に対して敬意を払ってきたのかを物語っているように感じました。

ラトビアは、戦争や占領の歴史を持ちながらも、その文化を大切に守り続けてきた国です。その中で、犬たちはただのペットではなく、家族として、あるいは地域の一部として大切にされているのではないでしょうか。彼らは、野に放たれる存在ではなく、人々と共に暮らす一員なのです。

ラトビアを思い出すとき、私は石畳の街並みとともに、その森の中で出会った犬たちの穏やかなまなざしを思い出します。彼らの目は静かで、控えめで、それでいて確かな温もりを感じさせてくれました。まるで、ラトビアそのものが持つ穏やかで温かい心をそのまま体現しているかのように。

【写真・文】
蜂巣文香(はちす・あやこ)
写真家。犬、猫、コンパニオンバードなどのペット写真をはじめ、手仕事やライフスタイルなどさまざまな分野で“伝わる”写真を日々撮影している。広告や雑誌、書籍、WEBなど幅広く活躍中。欧米を中心とした海外での撮影経験も豊富。愛犬雑誌「Wan」(緑書房)でもおなじみのカメラマンで、柴犬をモチーフにしたカレンダーシリーズ「しばいぬ(卓上)」「日本の柴犬(壁掛け)」「黒柴(壁掛け)」(緑書房)も毎年好評を博している。
Instagram:dogtionary_hachi

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