高い知能のスーパーネズミ:デグー【後編】デグーの意思表示(ボディランゲージ)

デグーは鳴き声と並んで、行動による意思表示も明確です。ある程度の意味は理解されているため、ここではその一部を解説します。

行動(ボディランゲージ)

■挨拶や接触行動

デグー同士の挨拶は鼻を使い、相手の鼻に軽く触れるような行動をします(Nose touch:ノーズタッチ、図1)。この行動は幼体よりも成体でみられます。また、「ピピピ」「ピロピロ」と甲高い声を上げます(チッターリング)。

図1:ノーズタッチ。鼻先を合わせて挨拶を交わす。群れでは最もよくみられる行動

■後肢で高く立つ

後肢で立ち上がって高い姿勢を保つのは、好奇心旺盛で周囲に興味があるとき、または危険や脅威を感じて警戒しているときです(図2)。野生では捕食者が多いためこの姿勢をとる時間が長く、グランティングなどのアラームコールを発しています。

図2:後肢で高く立つ。好奇心あるいは警戒しているときにみられる

■尾を上げる(振る)

尾を高く上げるのは警戒あるいは興奮を意味します(図3)。また、尾を低くして横に振る(Tail wagging:テールワギング、図4)のは発情行動以外にも、「ピピピ」という鳴き声(チッターリング)とともに、嬉しいときや何かに興味を示した際にもみられます。

図3:尾を上げる。尾を上げて振る行動は、威嚇あるいは興奮時にみられる

図4:尾を振る。嬉しいときや興味あるものに遭遇したときに尾を低くして横に振る

■膨毛

恐怖や攻撃の際に、被毛を逆立てて体を誇張してみせます(図5)。何らかの疾病に罹患することでも膨毛し、活動性や食欲が低下するので注意します。

図5:膨毛。被毛を逆立てる行動は、攻撃の際の誇示目的でもみられる

■飛び跳ねる/ポップコーンジャンプ

興奮した際の飛び跳ねるような動きを、Popcornjump(ポップコーンジャンプ)と呼びます(図6)。地面から跳び上がり、ポップコーンのように空中回転をします。

図6:ポップコーンジャンプ。興奮した際の飛び跳ねるような動き。ポップコーンのように空中回転をする

■毛繕い

一般的に親しみの意味や家族の絆の強化のための相互作用で、非常に好んで互いの毛繕い(Grooming:グルーミング)をします(図7)。相互の毛繕いは数分間続くことがあり、その後、寄り添って昼寝をすることがあります。

図7:毛繕い。親愛をこめ時間をかけて相手の毛繕いをする

■尿のまき散らし(マーキング)

デグーは餌容器や玩具など、自分の所有物だと感じるものであれば何でも尿によるMarking(マーキング)を行います。デグーにとって嗅覚によるコミュニケーションは重要で、特に尿によるマーキングは、野生では砂浴び場で行われます。家族の認識に使われ、雄は特に尿によるマーキングを頻繁に行います。

■殴り合い(ボクシング/キックボクシング)

後肢で立ち上がり、前肢で相手を叩いて攻撃する行動がみられます(図8)。ときに後肢で蹴ることもあります。エスカレートしすぎない限り、本当の喧嘩になることはまれです。Boxing(ボクシング)やKickboxing(キックボクシング)の行動は、社会階層の優越を明確にするための平和的な手段です。

図8:殴り合い。立ち上がり両前肢を使って相手を叩くので、ボクシングのようにみえる

■喧嘩

「プギー」とうめき声を上げ(グローニング)、後肢で立ち上がり、鳴き声(バーキング)やティースチャタリングを発しながら、ボクシングやキックボクシングの行動をとり、噛んだりして攻撃を行います。社会階層の優越を示す行動と喧嘩との違いは、鳴き声や噛む行動などから判断するしかありません。

■寄り添い

デグーは非常に社交的であるため、同居個体と絆を結び快適に過ごすために、互いの身体に寄り添う行動を好みます(図9)。複数の個体が山積みで寝ている姿は、よくみられる光景です。

図9:寄り添い。体を重ねあって仲間に寄り添う。5~6頭以上の群れ全体で行うこともある

■マウンティング

Mounting(マウンティング)とは、自分の方が相手よりも立場が上であること(優位性)を示すために、他の個体の上に乗る行為です(図10)。繁殖の際に雄が雌の上に覆いかぶさるように乗ることもありますが(求愛行動)、同性同士でマウンティングをする場合は、上に乗った個体が下のものよりも上位の存在であることを示します。

図10:マウンティング。自分の優位性を示すために、他の個体の上に乗る

■手を優しくかじる

デグーが飼い主の手を軽くかじった場合、それは攻撃して傷つけようとしているわけではなく、グルーミングあるいは愛情を示す行動です(図11)。気に入った人にのみこの行動をします。

図11:手を優しくかじる。攻撃ではなく、飼い主への愛情を示す行動

■咬む

優位性を示すため、下位の個体に対して、あるいは威嚇や攻撃の際に相手を咬む行動がみられます。保定を嫌がって咬むケースは非常に多くみられます。

■常同行動(反復行動)

常同行動とは、意味なく無意識に繰り返される行動であり、多くの場合、不安やストレスを感じたときなどに落ち着くために行われます。ケージの中では、宙返りや縦横に反復した動きがみられます。

発情行動

雄の発情期は攻撃性が増し、尿によるマーキングが頻出する他、雌のにおいを嗅いだり、尾を振る(テールワギング)といった求愛行動をとります。雌は雄ほど目立った行動はないものの、外陰部が赤く腫脹し、よく鳴き声を発するようになります。

雌も尾を振って発情を示すことがあります。さらに雌は、人が背部に手を置くか、あるいは雄が乗駕すると、背を弓なりに曲げるいわゆるLordosis(ロードシス)反応を示し、雄を受け入れる姿勢をとります。

優勢行動

雄を中心とした群れの中で、2頭以上の雄が存在した場合、各雄には優劣がつけられます。アルファメイル(α-male)とは群れを支配する雄で、ベータメイル(β-male)は従属的な階層に位置する雄を指します。

階層を確立するために、アルファメイルは遅くとも3カ月齢でリーダーになります。リーダーの雄は、弱いベータメイルに継続的に敵対することで、グループ内での優位性を示します。アルファメイルは、他の雄をマウンティングすることで優位性を示し、縄張りに尿でマーキングをします。ベータメイルはときおり、アルファメイル(リーダー)に喧嘩を挑んで地位を奪おうとします。なお、雌は他の雌に対して攻撃的になることはまれです。

人馴れ

飼い主がコミュニケーションを適切にとることで、デグーは人に馴れ、とても愛くるしいペットになります。特に幼体時からに頻繁に扱われると馴れやすく、精神的な結び付きが生まれます。

デグーは知能が非常に高いことから、飼い主を認知するだけでなく、飼い主の行動パターンまでも覚えます。ケージから出たい、餌がほしいなどの要求もしてきます。多彩な鳴き声で意識を伝えてくるため、デグーが今どんな気持ちなのかも分かるようになります。人馴れしたデグーは、飼い主の頭や肩に乗って遊んだりもします(写真1、2)。

写真1:人慣れしたデグーは取り扱いが容易

写真2:飼い主の頭や肩に乗って遊んだりもする

さて、今回の「デグー」の前・中・後編、そして関連記事の「モルモット」と「チンチラ」の前・後編をとおし、それぞれの動物のユニークな特徴を紹介してきました。

モルモット、チンチラ、デグーはこれまで、ウサギほどの人気はなく、ハムスターほど有名ではありませんでした。しかし、ここ数年で存在感が一気に増し、今やわが国でも人気ペットとしてすっかり定着しています。モルモットは、テレビアニメ作品『PUI PUI モルカー』の大ヒットにより人気沸騰中です。また、長寿の場合20年以上生きるチンチラは、その愛くるしさから永遠のアイドルといえるでしょう。さらに、人の2~3歳児と同等の知能をもつとされるデグーは、スーパーネズミとして有名です。奥深い魅力をもつこれら3種は、ペットとして飼育されるエキゾチックアニマルの幅広い選択肢において,ウサギやハムスターと肩を並べ,さらに筆頭に躍り出るのも時間の問題です。

これらの動物の飼育を考える際は、それぞれの特徴をよく調べ、しっかりと検討されることを願います。

・連載記事

高い知能のスーパーネズミ:デグー【前編】デグーの知能とストレス – いきもののわ (midori-ikimono.com).
高い知能のスーパーネズミ:デグー【中編】デグーの意思表示(発声と行動) – いきもののわ (midori-ikimono.com).

・関連記事

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“永遠のアイドル”チンチラの基礎知識【後編】チンチラの意思表示– いきもののわ (midori-ikimono.com).

*本稿は『モルモット・チンチラ・デグーの医学』(著:霍野晋吉、緑書房)の一部を改変し、まとめたものです。

【執筆】
霍野晋吉(つるの・しんきち)
日本獣医畜産大学(現 日本獣医生命科学大学)獣医畜産学部卒業。獣医師、博士(獣医学)。1996年古河アニマルクリニック開業(茨城県)。1997年エキゾチックペットクリニック開業(神奈川県)。現在は株式会社EIC(https://exo.co.jp)の代表を務め、エキゾチックアニマルの獣医学の啓発や教育に関わる活動を行っている。その他、日本獣医生命科学大学非常勤講師、ヤマザキ動物看護大学特任教授、(一社)日本コンパニオンラビット協会代表理事、(一社)日本獣医エキゾチック動物学会顧問なども務める。著書に『カラーアトラス エキゾチックアニマル 哺乳類編 第3版』『同 爬虫類・両生類編 第2版』『同 鳥類編』『ウサギの医学』『モルモット・チンチラ・デグーの医学』(いずれも緑書房)。

[参考文献]
・Wilson SC. Contact-promoting behavior, social development, and relationship with parents in sibling juvenile degus(Octodon degus). Dev Psychobiol. 1982; 15(3): 257-268.
・Fischer RB, Meunier GF. Responses to conspecifics’ urine by the degu(Octodon degus). Physiol Behav. 1985; 34(6): 999-1001.
・Ebensperger LA, Caiozzi A. Male degus, Octodon degus, modify their dustbathing behavior in response to social familiarity of previous dustbathing marks. Rev chil hist nat. 2002; 75(1): 157-163.
・Kleiman DG. The effects of exposure to conspecific urine on urine-marking in male and female degus(Octodon degus). Behav Biol. 1975; 14(4): 519-526.