子犬の困った行動への対応法【第4回】誤飲

前回の記事では、子犬の困った行動として「いたずら(破壊行動)」への対応法を紹介しました。今回は、誤飲の問題について紹介します。

子犬が食べもの以外のものを食べたという理由で動物病院に来院されたり、電話相談を受けたりする機会は少なくありません。

色々なものを口に入れるのは子犬の自然な探索行動であり、正常な発達過程です。この際、まだ経験の浅い子犬は好奇心から口にしているものを間違って飲み込んでしまうことがあり、飲み込んだものの性状や大きさによっては処置が必要となることもあります。

ただし本来子犬は、口に入れて確認するものの、食べられないものであれば自ら吐き出します。飲み込んだ経緯を聞くと、飼い主さんが子犬が口にしているものを取り上げようとした際に、取られまいとして飲み込んでしまったというケースは少なくありません。あるいは食べものを見せて交換しようとしたために、口に入れていたものを無意識に飲み込んで食べものを受け取ろうとすることも多くあります。また、飼い主さんの対応とは関係なく好奇心から飲み込んでしまったり、異常行動として意識的に食べもの以外のものを食べてしまう場合もあります。

【ポイント! 誤飲の対処法】
◇  食べると危険なものは子犬の届く場所に置かない
◇  安全なもので噛む欲求を十分に満たす
◇  できるだけ身体的、精神的、社会的刺激のある環境で飼育する
◇「ちょうだい」、「リーブイット」の合図を教える

以下に誤飲の起こりやすい状況と、その対処法について紹介していきます。

自宅での誤飲の対処法

■環境整備

子犬が食べると危険なものは、子犬の届く場所に置かないことを徹底します。それが困難な状況であれば一時的にケージやクレートを活用することもできます。ただし、管理ができない時間帯のみとし、動物福祉の観点からも長時間ケージやクレートに入れたままにすべきではありません。また行動制限をする場合には、前後に十分なエネルギーを発散する機会を与える必要があることも忘れてはなりません。

■噛む欲求を満たす

安全な噛むもの(噛むおもちゃやデンタルガムなど)を与えて、子犬の噛む欲求を満たすことが重要です。環境整備により子犬が危険なものを口にする可能性を排除しても、その代わりになる安全なものを与えなければ、さらに別のものを探し出して口に入れるようになり、根本的な解決にはなりません。

特にクレートやケージなどに入れて行動を制限する場合には、出したときにその反動で、より色々なものを探して口にするようになるため、暇つぶしになる安全な噛むものを一緒に入れておくべきです。また、長時間の行動制限は常同行動や過剰咆哮など、別の困った行動の原因にもなりうるため、できるだけ身体的、精神的、社会的刺激のある環境で飼育することが望まれます。

■身体的刺激・精神的刺激・社会的刺激の提供

毎日の散歩や遊び、「もってこい」などの有酸素運動、食事は知育玩具に入れて与えるといった運動の機会を増やします。また、コマンドトレーニング、グルーミングやマッサージといった飼い主さんとの適切なかかわり合いの時間などの、楽しい日課をつくります。日課に加えて気分転換として、家族以外の人や犬との楽しいふれあいの時間をもつことは社会化の機会ともなり、望ましい社会的刺激となります。

■不適切なものを口にしているのを発見した際の対応

子犬の困った行動への対応法【第3回】いたずら(破壊行動)の、「子犬が口にしているものを無理やり取り上げることを繰り返さない」の項を参考にしてください。

散歩中の拾い食い対処法

子犬期は好奇心旺盛で、自分の周りの未知の世界を知ろうとして探索行動を繰り返します。特に散歩中に遭遇するものは目新しいものばかりですので、においを嗅ぎ、口に入れて確認しようとします。食べられるものは飲み込みますが、食べられないものは通常は吐き出します。一連の確認作業が終わると、そのうちににおいを嗅ぐだけで判断できるようになります。やがて日常的に遭遇する意味のないものはにおいも嗅がずに素通りするようになります。これらは正常な発達過程です。

ところが、多くの飼い主さんは子犬の行動に対して過敏な反応を繰り返すことで問題を悪化させています。子犬から無理やり取り上げようとすることで、子犬は口にしているものが価値あるものと考えるようになります。また道端に落ちているものであっても、犬のルールでは口に入れた時点で自分のものです。口に入れたものを取り上げるという行為は犬の世界ではルール違反であり、たとえ力の強い犬であっても、他の犬がいったん口に入れたものを取り上げることはしません。何かを口にするたびに取り上げれば、子犬は飼い主さんを警戒し、避けるようになります。

散歩中に無限にある葉っぱや木切れを口にするたびに取り上げることを繰り返せば、威嚇するようになったり、素早く飲み込むようになったりすることもあります。逆に食べものを見せて交換することで、路上に落ちたものを口に入れる行動は強化されて頻度が増えます。路上に落ちている食べられないものを口に入れると、飼い主さんが好物を差し出すのだから当然です。散歩中は口に入れるものが無限にあるため、口にしたものをご褒美と交換するのは得策ではありません。人が捨てたたばこの吸い殻やゴミなどがない場所を選んで散歩したり、リードでコントロールしたりして近づけないようにします。

ただし植物や土など自然界に無限にあるものは避けて通ることは難しいため、私は子犬をよく観察して、積極的に飲み込む様子がなければ見守るようにしています。消化管に閉塞する危険性のある石などを飲み込む可能性がある場合には、飲み込めないサイズのものをわざと与えて、納得するまでにおいや味を確認させることもあります。この際も十分に観察を行い、嚙み砕いて飲み込むようであれば中止しなければなりません。

周辺に危険なものが頻繁に落ちている環境や、すでに飲み込み癖がついてしまっていてリードで管理することが難しい場合には、口輪やヘッドカラーを利用するのもいいでしょう(写真1)。ただしこれらの道具を使用する際には、最初に道具によいイメージをつけておくことが重要です。口輪を見せてご褒美を与えるといった古典的条件づけから始めて、スムーズに付けることができるようにするトレーニングが必要です。

写真1:口輪の利用

さらに散歩中の拾い食いについては「リーブイット(Leave it:そのままにして)」の合図を教えます。

【「リーブイット」のトレーニング】
① 食べもののにおいのついたビニール袋など、犬が興味を示しそうで、かつ飲み込めないサイズのものを床に置きます。
② 犬にリードを付けて、置いたものに近づけます。
③ 犬が近づいたときに、口が届かない位置でリードを止めて「リーブイット」と声をかけ、犬がこちらを見た瞬間に褒めて好物を与えます。

このトレーニングを行った後、実際に路上で落ちているものをみつけた際にも同様に声をかけてやめさせ、口にしなければ好物を与えます。犬が口に入れてから好物を与えると口に入れる頻度が上がりますが、口に入れていないときに褒めて好物を与えることで、口に入れずに飼い主さんを見るようになります(写真2)。

写真2:「リーブイット」のトレーニング

異嗜(いし)

わざわざ食べられないものを好んで食べる犬も少ないながら存在します。それは誤飲ではなく異嗜です。犬は飼い主さんが見ていない場所でも食べるため、飼い主さんが取り上げようとしたといった外的要因とは無関係です。

異嗜は食物以外のものを食べる異常行動で、明確な病因は分かっていません。身体的な疾患が原因となることは多くありませんが、貧血や消化器疾患(消化不良・吸収不良)による栄養素の欠乏、多食を呈する医学的な問題、また不適切な食事管理による栄養不良などに起因することもあります。さらに、特に子犬や若い犬では十分な探索行動の機会が与えられていない場合、身体的、精神的刺激や社会的刺激が不足している場合に起こりやすいと考えられています。

医学的な問題があれば、その治療を優先させることはいうまでもありません。異嗜においても行動学的な対処法の基本は誤飲と同様で、徹底した環境整備と口にしても問題のないものを積極的に与えることで、欲求を満たすことが重要です。また、その行動に固執することがないように、できるだけ日常生活において身体的、精神的刺激を十分与え、楽しみを増やすべきです。

さらに行動学的問題として、飼い主さんからの関心を求める行動や分離不安症、常同障害などの徴候として異嗜が認められることもあります。

関心を求める行動である場合は、飼い主さんの不在時に問題が起こることは通常ありません。逆に飼い主さんの不在時のみに行動が認められる場合には、分離不安症の可能性もあります。また異常な摂食行動の頻度が高く、そのことに固執している様子がある場合には常同障害の可能性も考えるべきです。常同障害や分離不安症など何らかのストレスや不安に関連した徴候である場合は、その要因の可能な限りの排除や、系統的脱感作や拮抗条件づけなどの行動修正を実施します。また、三環系抗うつ剤(TCA)や選択的セロトニン再取り込み阻害薬の使用が有効な場合もあります。

次回の第5回は「無駄吠え(過剰咆哮)」を取り上げます。

・連載記事

子犬の困った行動への対応法【第1回】甘咬み – いきもののわ (midori-ikimono.com).

子犬の困った行動への対応法【第2回】犬用トイレ以外での排泄 – いきもののわ (midori-ikimono.com).

子犬の困った行動への対応法【第3回】いたずら(破壊行動)– いきもののわ (midori-ikimono.com).

[参考文献]
・Horwitz DF, Neilson JC. 小動物臨床のための5分間コンサルト 犬と猫の問題行動診断・治療ガイド.武内ゆかり,森裕司 監訳.2012:pp.193-196.インターズー.

【執筆】
村田香織(むらた・かおり)
獣医師、博士(獣医学)、もみの木動物病院(神戸市)副院長。株式会社イン・クローバー代表取締役。日本獣医動物行動研究会 獣医行動診療科認定医。日本動物病院協会(JAHA)の「こいぬこねこの教育アドバイザー養成講座」などで講師も務める。獣医学と動物行動学に基づいて、人とペットが幸せに暮らすための知識を広めている。主な著書に『「困った行動」がなくなる犬のこころの処方箋』(青春出版)、『こころのワクチン』(パレード)、『パピークラス&こねこ塾スタートBOOK』(EDUWARD Press)。