愛玩動物看護師とは?【第8回】パピー期・シニア期の教室での飼い主さんとの繋がり

愛玩動物看護師は、動物の健康と生活を支えるために重要な役割を担っており、日々のケアから緊急の対応に至るまで、飼い主さんの心強いサポート役となれるように業務に取り組んでいます。

飼い主さんへの指導やアドバイスも愛玩動物看護師の業務のひとつです。その内容は、予防接種の重要性の説明、食事や運動の指導、飼育の指導、噛み癖などの問題行動の相談など多岐にわたります。

そのような指導業務の一環として、子犬を家族として迎え入れた飼い主さんのための教室が、たくさんの動物病院で実施されています。また、ペットの高齢化に伴ってシニア期のケアの教室も需要が高まり、さまざまな病院で実施されています。

今回は、パピー期やシニア期のための教室と、そこでの愛玩動物看護師の役割を紹介します。

パピー期ってなに?

社会化に大切な時期

パピー期とは、子犬が成犬になるまでの全期間(生まれてから約1歳未満くらいまで)を指します。

この期間のうち、飼い犬として迎え入れられることの多い幼犬期(生後4週間~5か月程度)は他の犬や人間社会とのかかわりを理解しはじめる重要な時期(社会化期)です。

また、犬は1年ほどで成犬へ成長しますので、パピー期は日ごとに体の変化があります。例えば生後5か月前後から乳歯から永久歯に生え変わります。生え変わることを知らないで「歯がポロッと取れてしまった」と動物病院に駆け込む飼い主さんも意外といます。

このような、パピー期の社会化や体の変化などの情報は、飼い主さんが身につけるべき知識です。そして前回の記事でも触れた通り、インターネットでの独学だけではなく「専門家から直接に教わる」ことで、質問を交えつつ適切な知識を得られます。

このような時期に子犬や飼い主さんの役に立つのが、動物病院の「パピークラス」と呼ばれる教室です。「パピーパーティー」と呼ばれることもあります。

パピークラスでは何をするの?

一般的なパピークラスでは、同じ月齢の子犬が集まり、愛玩動物看護師が見守るなかで子犬同士がふれあうことで、遊び方や関わり方を学び、社交性を身に着けられます。

また、パピークラスでは飼い主さん向けの教育も行われます。例えば、問題行動を防ぐために知るべきことや、トイレトレーニング、犬とのコミュニケーション、信頼関係を築くためのしつけ方などを学びます。疑問や困りごとがあればその場で相談できます。

写真:パピークラスの様子

継続的にパピークラスに参加することで、犬が動物病院という環境に慣れ、動物病院へ通うストレスが減るため、今後通院することになったときの備えになります。飼い主さんもスタッフとの絆を築けるため、いざというときに動物病院を頼りにしやすくなります。

写真:パピー期のトレーニングの様子

パピークラスを卒業したあとでも、ライフステージにあわせた教室があります。そのうちのひとつがシニアケア教室です。

シニア期ってなに?

ペットも高齢化社会?

犬のシニア期は、一般的に7歳ごろからとされています。シニア期には、関節痛、心臓病、視力や聴力の低下などの健康問題が発生します。

これらの健康問題は、生活に大きな影響を及ぼします。例えば関節の衰えにより、長時間の散歩や運動が負担になることがあります。認知機能の衰えによる夜鳴きや徘徊に悩む飼い主さんも多くいます。

愛玩動物看護師はこれらの変化を早期に見つけ、適切な飼育管理の計画を立てて飼い主さんと共有することができます。飼い主さんは、シニア期に訪れる変化や、行うべき健康管理をあらかじめ知ることで、13歳以上のハイシニア期(高齢期)を迎える準備ができます。

このような時期に役立つのが、動物病院で実施されているシニアケア教室です。

シニアケア教室では何をするの?

シニアケア教室では、飼い主さんがすでに犬との生活において悩みを抱えている場合も多いため、不安をもつ飼い主さん同士で悩みを共有できます。情報交換の場にもなるので、他の飼い主さんが実際にしているケアや生活の工夫などを学ぶこともできます。また、愛玩動物看護師から、適切なケアについて指導を受けることもできます。

写真:シニアケア教室で飼い主さんと交流を深める愛玩動物看護師

写真:シニアケア教室で飼い主さんに指導している様子

また飼い主さんは犬たちと一緒に、愛玩動物看護師の指導のもと、犬用の知育玩具を使用したノーズワークや、小さな障害物を飛び越えるなどの筋力の低下を予防するための軽い運動を実施しています。嗅覚を刺激するノーズワークでは、体力が衰えて普段の遊びが減ってしまうなかでも、飼い主さんと一緒に絆を築けます。

写真:シニアケア教室のノーズワークで遊ぶ犬

シニアケア教室を通して伝えたいこと

「別れの時」は、動物との生活の先に必ず訪れます。「そんなことはまだ考えたことがないし、考えたくもない」と思うのは当然ですが、相手が生き物である以上は、避けて通れない道です。

犬がシニア期を迎えると、飼い主さんは犬の病気に向き合う時間が長くなります。介護などが必要な場合、その対応に一生懸命になるあまり心や体が疲れてしまう飼い主さんもいます。

シニアケア教室では、犬が1日でも長く、健康で幸せな日常を飼い主さんと一緒に過ごすためのお手伝いをしています。それと同時に、お別れするまでの飼い主さんの心の準備についてもお話しします。動物ができるだけ、飼い主さんの笑顔や優しい声に包まれた「いつもの生活」を送れるように、飼い主さんの心のケアをしているのです。

写真:シニアケア教室の様子

飼い主さんと動物たちの幸せな暮らしを支える

このように、パピー期からシニア期まで、教室などを利用して愛玩動物看護師の支援を受けることで適切な飼育管理ができます。

飼い主さんが動物の生活に責任をもつ上で直面する不安や課題は尽きませんが、愛玩動物看護師という専門家が暮らしにかかわることで、動物の生活をより安心・安全で豊かなものにできます。飼い主さんが動物病院での教室や指導を通して愛玩動物看護師と連携し、動物と一緒に健康で豊かな生活を送れることを心から願っています。

【執筆】
旭 あすか(あさひ・あすか)
1988年生まれ。IPC国際ペットカルチャー総合学院を2011年に卒業後、りんごの樹動物病院(愛知県安城市)にて動物看護師として勤務。2017年動物看護師長に就任。院内の働き方や動物看護師の業務の改善を進める。2023年に愛玩動物看護師免許を取得。その他、世界基準の心肺蘇生~獣医蘇生再評価運動(RECOVER)を2018年に修了。院内業務にとどまらず、おもに臨床病理学(糞便検査、尿検査、血液塗沫など)分野の愛玩動物看護師向けセミナーで講師を務めている。自身のインスタグラムでは「愛玩動物看護師のリアル」を発信し、知識・技術ならびに社会的認知度の向上のために尽力している。
Instagram:asahi_asuka_vnca