猫も人と同じように糖尿病になります。イギリスで行われた調査によると、およそ200頭に1頭の猫が糖尿病にかかっていたといわれています*¹。実際、日本で飼育されている猫でもよくみられる病気のひとつです。
糖尿病は、しっかりと治療をすれば元気に暮らせるようになる病気ですが、治療がうまくいかないケースもあります。そんな糖尿病と向き合うために、日々進歩していく獣医療の最新の正しい知識を持つことがとても大切です。
猫の糖尿病の原因は?
猫の糖尿病は、人でいう2型糖尿病に似たタイプが多く、血糖値を下げるホルモンであるインスリンがうまく働かなくなることで起こります。特に以下のようなことが原因になるといわれています。
・肥満(太りすぎ)
・ステロイドなどの薬の影響
・膵臓の病気
・他のホルモンの病気
肥満は大きなリスクで、太った猫は糖尿病になりやすくなります。
糖尿病は年齢に関係なく発症しますが、特に4歳以上の猫で多くみられます。また、オス猫(特に去勢済み)のほうがかかりやすいというデータもあります。
最近では、成長ホルモンが過剰に産生されることによって、インスリンが効きにくくなり、糖尿病を発症する猫が増えてきています。成長ホルモンの過剰産生によって頭や手足が巨大化することがあるので、先端巨大症とも呼ばれていますが、見た目に変化がない症例も多いです。成長ホルモンの測定は難しく、かつ安定しないため、成長ホルモンの作用によって増える物質を測定することによって、間接的に成長ホルモンの増加を確認して診断します。

猫が出すサイン(症状)と診断方法
次のような症状がある場合は、糖尿病のおそれがあります。
・水をたくさん飲む
・おしっこが多い
・よく食べるのに痩せていく
・後ろ足がふらつく、ジャンプがうまくできない
主に次のような検査で診断します。
・血糖値の測定(血液検査)
・尿糖の測定(尿検査)
猫はストレスを感じると一時的に血糖値が上がることがあるため、症状や検査結果を総合的に判断します。
主な治療法と先端医療
治療の主役はインスリン
今のところ、猫の糖尿病で一番効果がある治療方法は「インスリンの注射」です。
人の2型糖尿病では、診断時からインスリンを投入することは少ないですが、人よりも遅れて診断されることが多い猫の糖尿病では、診断時からインスリンを使用することが多いです。
膵臓からのインスリン産生能力が残っている場合は、適切に治療をすれば「寛解(インスリンをやめても元気に過ごせる状態)」することもあります。ただし、すべての猫が寛解できるわけではありません。
成長ホルモンが過剰に産生されている場合の治療法
成長ホルモンは下垂体と呼ばれる脳の一部から産生されるため、下垂体に対する治療が行われます。これには、手術、放射線治療、飲み薬による治療が含まれます。
猫の糖尿病における新しい治療法
最近、人の糖尿病でも話題になっている治療法に、「SGLT-2阻害薬」という新しい飲み薬があります。この薬は、余分な糖分をおしっこと一緒に体の外に出すという、インスリンとは違った方法で血糖値を下げます。
猫にも使われ始めており、注射が必要ないことや低血糖(血糖値が下がりすぎてしまうこと)のリスクが低いことが特徴です。一方で、どの猫にも使えるわけではなく、治療開始後はケトン体(脂肪が変化して作られる物質)のモニタリングが必須となるため、獣医師の指導のもとで使用されています。
猫の糖尿病治療で大切な血糖値モニタリングと食事
血糖値のチェックが重要
糖尿病の治療では、血糖値のチェックが大切です。最近では、自宅で血糖値を測る方法も増えてきました。
もちろん、動物病院で血糖値を測ることもできますし、状況によっては尿糖チェックも役立ちます。
ごはん選びも大切
食事は、糖尿病管理においてとても重要で、高タンパク・低炭水化物の食事が基本です。特にウェットフード(缶詰やパウチ)がおすすめで、炭水化物が少ないうえに水分もしっかりとれます。ダイエットが必要な場合は急激な減量は避け、ゆっくりと体重を落としていくことが大切です。
獣医師と相談しながら、無理なく続けられるごはんを見つけましょう。
おわりに
猫の糖尿病の治療で一番大切なことは、「快適に暮らせるようになること」です。ここ数年でどんどん進化している最新の治療法を活用しながら、飼い主さんと獣医師が協力して治療に取り組むことで、糖尿病の猫が快適に過ごせる環境を整えてあげましょう。
[参考文献]
*¹ DG O’Neill et al. “Epidemiology of Diabetes Mellitus among 193,435 Cats Attending Primary-Care Veterinary Practices in England”, J Vet Intern Med, 30, 964–72, 2016
【執筆】
永田矩之(ながた・のりゆき)
獣医師、博士(獣医学)。大阪府立大学を卒業後、6年間の一次診療動物病院勤務を経て2022年に北海道大学で博士を取得。2023年より岐阜大学応用生物科学部共同獣医学科准教授。岐阜大学動物病院では内科診療科を担当。犬と猫の内分泌疾患の診療と研究に注力している。
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