フォトエッセイ 猫に呼ばれて世界の街へ【第30回】時の重なる街(アゼルバイジャン)

ジョージアをあとにして、次に訪れたのはアゼルバイジャンの首都バクーでした。

この地を訪れることにしたのは、いつも写真展を見に来てくださる方から「ぜひ行ってほしい」とすすめていただいたのがきっかけです。ちょうど今回の旅のルート上だったので、寄ってみることにしました。
最近は、テレビドラマ『VIVANT』の続編がアゼルバイジャンで撮影されたという話題もあり、この国の名前を耳にする機会が増えましたね。

ジョージアのトビリシからバクーまでは、わずか1時間ほどのフライトです。移動時間は短くても、国が変わると雰囲気が大きく変わります。ちなみにアゼルバイジャンの入国にはビザが必要ですが、なんと日本人はビザ代が無料です。

バクーの空港を出るとすぐに、一匹の猫が出迎えてくれました。幸先のいいスタートです。

アゼルバイジャンは、古くはシルクロードの要衝として栄え、現在は石油や天然ガス、いわゆるオイルマネーで発展した国です。世界遺産にも登録されるバクーの旧市街には、中世の城壁や石造りの建物が残っています。一方、街の中心部には近未来的な建築も立ち並び、その象徴ともいえるのがフレイムタワーです。夜になると赤くライトアップされ、炎のように輝いていました。新しさと古さが共存する光景は、時間の層が重なっているように感じられました。

市街地に到着した頃には日が暮れてしまったため、本格的な猫探しは翌朝に持ち越すことにしましたが、夜に出会った猫の姿はアンバー色の街灯の下で幻想的に浮かび、街の雰囲気に溶け込んでいました。

翌朝、朝日が城壁を琥珀色に染める頃、猫たちは徐々に活動を始め、街も少しずつ目覚めていきます。

市街地では、数日後に控えたF1グランプリの準備が進められていました。街の中心部を数日間通行止めにしてしまうという大胆さに驚くとともに、特大ディスプレイや観客席が設置されて街並みがレース仕様に変わっていく様子は、とても興味深かったです。

旧市街を歩くと、石畳の路地が迷路のように入り組み、猫たちがその中を悠々と歩いています。その姿はとても絵になります。

途中、『猫たちの家』を見つけました。扉や窓まで備えた丁寧な造りで、温かみがありました。イスラム教徒が多いアゼルバイジャンでも、猫が大切にされていることが伝わってきました。

お土産屋には銅製品や絨毯が並んでいました。アゼルバイジャンの絨毯は長い歴史を持ち、博物館もあるほどです。残念ながら、訪れた日は休館日でした……。アゼルバイジャンには、他にも興味のある場所がいくつかあります。改めてこの地を訪れたいと思いました。

そしてここでも、ジョージアに続いてザクロジュースの屋台を発見しました。真っ赤な実をその場で搾ってくれるスタイルは同じです。背後に立っていたザクロのキャラクター像がなかなかホラーな雰囲気で、いつか夢に出てきそうです(笑)

ジョージアが『赤』の印象だとしたら、アゼルバイジャンは『琥珀色』でした。朝日が当たった城壁や、猫の毛に映る夜の光、そのどれもが、やわらかくあたたかい色をしていました。

次はいよいよ、この旅のメインの目的地『ウズベキスタン』へ向かいます。美しい『青』の世界が待っているはずです。

【文・写真】
町田奈穂(まちだ・なほ)
猫写真家。水中写真家・鍵井靖章氏との出会いをきっかけにカメラを始める。「猫×彩×旅」をテーマに、世界中を旅しながら各地で出会った猫たちを撮影。これまでに35ヶ国以上を訪れ、2023年には念願の世界一周を果たす。2023年、2024年に富士フォトギャラリー銀座にて個展を開催。その他企画展やSNS等を通じて作品を発表している。
Instagram:cat_serenade
X:naho_umineko

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