日本を象徴する美しい鳥
トキはこんな生き物
トキ(ペリカン目トキ科トキ属・学名Nipponia nippon)は、学名からも分かるように、日本を象徴する鳥です。
中国と韓国、そして日本では新潟県の佐渡島だけに生息している、とても貴重な鳥です。翼を広げたときに見える淡く美しいピンク色は「トキ色」と呼ばれ、サワガニなどの甲殻類に含まれる「カロテノイド」という色素が関係しています。

トキは、人の暮らしに近い里地里山で暮らしている鳥で、特徴的な長く下向きに曲がったくちばしを使い、水田や湿地でドジョウやカエルなどをツンツンと突いて探します。

かつては日本各地で見られたトキですが、狩猟や環境の変化、農薬の影響により数が激減し、1981年に日本では野生絶滅しました。以降、最後まで生き残っていた個体は保護され、人工繁殖の取り組みが始まりました。
2003年、最後の日本産のトキが亡くなってしまいましたが、1999年に中国から提供を受けていたトキの繁殖は順調に進み、その後、佐渡トキ保護センターでは多くの個体が育ちました。2008年には、野生復帰を目指して放鳥事業が始まり、毎年佐渡の空へとトキが放たれています。現在では、500羽以上のトキが佐渡の自然の中で暮らしていることが確認されています。

放鳥事業と並行して始まったのが「分散飼育」です。これは、環境変動や感染症によって1か所の飼育地が被害を受けても、別の場所でトキを守れるようにする取り組みです。現在、日本では佐渡トキ保護センターのほか、いしかわ動物園、佐渡市トキふれあいプラザ、多摩動物公園、出雲市トキ分散飼育センター、長岡市トキ分散飼育センターが協力して繁殖と保全に取り組んでいます。各施設で生まれたトキは、野生復帰の候補として秋に佐渡へ移送されます。
当園では、現在6羽を飼育・展示しています。
※情報は、2025年11月時点のものです
いしかわ動物園のトキの日常
トキたちは、朝日が昇ると同時に活動を始めます。水田や湿地へ向かい、エサ探しのスタートです。
当園では、朝9時ごろ、飼育員が公開ケージの「トキ里山館」の浅い池に生きたドジョウを放します。すると、トキたちは目を輝かせて泥の中にくちばしを突っ込み、ドジョウ探しに夢中になります。
昼間は木の上でのんびり休んだり、水浴びをしたり、再びエサを探したりと、自由気ままに過ごしています。1羽が餌場に行くと、他のトキも後に続いて餌場へと飛んでいく様子がよく見られます。「トキ里山館」には、自然にやってくるカエルやバッタなどのいきものもたくさん生息しているので、それらを捕食する姿も見ることができます。
夕方、太陽が沈むころになると、トキたちは木の上に戻り、仲間のそばで眠りにつきます。
飼育員さんの小話
いしかわ動物園のトキたちは、とにかく個性豊かです! たとえば、巣作りがとても上手なペアもいれば、不器用なペアもいます。トキは、直径60センチメートルほどの円形の巣を作ります。飼育員が枝や葉などの材料を用意してあげると、オスが一生懸命に運び、メスがきれいに並べていくことが多いです。
器用なペアは立派な巣を完成させるのですが、中には、せっかく集めた枝をすぐポイっと捨ててしまう「こだわり派」もいます。どうやら気にいらない素材があるようです……。

また、子育てにもそれぞれ個性があります。オスとメスがバランスよく協力するペアもいれば、どちらか片方だけが熱心にお世話をするペア、さらにはどちらも熱が入りすぎてケンカをしてしまうペアもいます。
こうしてみると、トキの繁殖はまるで人間の家庭のようです。ペアによって性格も関係性もさまざまで、飼育員は毎年「今年のペアはどうなるのかな?」とハラハラ、ワクワクしながら観察しています。


飼育員さんが教えるトキの見どころ
いしかわ動物園の「トキ里山館」では、トキたちが落ち着いて過ごせるように、中と外の明暗差を利用して、トキからは観覧通路の中が見えない工夫がされています。そのため、私たちはすぐ目の前でトキたちの自然な姿を観察できます。飼育員が生きたドジョウをガラス前の池に放つと、そこへトキが探しに行くため、トキを30センチメートルもない距離で見ることができます。トキは、野生下でも常にくちばしをツンツンとしながら餌を探していますが、このような野生の行動を間近で見ることができる機会は貴重ですので、よく観察してみてください!
ちなみに、トキのくちばしの先端には神経がぎっしりと詰まっていて、泥の中に隠れたいきもののわずかな動きを感じ取る「センサー」のような役割を果たしています。ツンツンとくちばしで探る姿は、まるで泥の中で宝探しをしているようです。そのトキたちが泥の中にくちばしを差し込んで、ドジョウを探し当てる「職人技」に注目してみてください!
トキは、繁殖期になると羽の色が変わります。普段は白っぽい羽ですが、春が近づくと、だんだん暗い灰色に変化していきます。この羽の変化には秘密があり、実は、トキの頭の後ろの黒い皮膚が少しずつ剥がれ落ちて、その黒い物質を水浴びの時に自分の体にぬりつけています。つまり、トキは自分でボディペイントしているのです。しかも、このような色の変わり方をするのは、鳥の中でもトキだけです! 観察するときは、色の変化も楽しんでみてください。

【文・写真】
いしかわ動物園
〒923-1222 石川県能美市徳山町600番地
TEL:0761-51-8500
公式サイト:https://www.ishikawazoo.jp/
X:@ishikawazoo_jp
Instagram:@ishikawazoo_insta
Facebook:いしかわ動物園
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