本連載の第4~5回では、ウサギで問題になることが多い「不正咬合」を取り上げます。
ウサギの歯
ウサギの歯は生涯伸び続けます。この歯を「常生歯」と呼びます。
ウサギの歯には切歯と臼歯がありますが、犬歯はありません。
ウサギは人と同じように二生歯性で乳歯から永久歯に生え変わります。乳切歯は胎仔の間に脱落し、永久歯に生え変わるため、生まれてきたときにはすでに永久歯(切歯)をみることができます(写真1)。
乳臼歯は生後30日で脱落します。
おとなのウサギの切歯は、上顎に1対の大切歯とその裏に1対の小切歯、下顎に1対の切歯で構成されています(写真2)。切歯の役割は、食べ物を摂食可能な大きさに切断することです。
臼歯は、上顎に左右6対、下顎に左右5対あり、食物を臼のようにすりつぶす役割があります。下顎臼歯は上顎臼歯の真下ではなく、内側に位置し、完全には接触せず、咬合面の稜と窪みによって顎の動きが誘導されます。上下の臼歯は水平方向にすり合わさります。
歯の成長速度は、上顎切歯は1年間に12.7センチメートル、下顎切歯は1年間に20.3センチ伸長するという報告がありますが、個体によって差があります。
ウサギの不正咬合
不正咬合とは、歯並びやかみ合わせが悪くなる状態のことです。ウサギの歯は常に伸び続けるため、上下の歯のかみ合わせが悪いと歯が適度に摩耗しなくなります。そうすると、不正咬合が進行したり、それに伴う様々な症状を引き起こしてしまいます。
高繊維質の牧草などを摂取する際には水平方向に咀嚼しますが、ペレットなどの硬いものを摂食する場合は人と同じように垂直方向に歯を動かすため、不正咬合を引き起こすことがあります。
不正咬合の原因はほかにも、落下による顎の骨折、ケージの金網を過度にかじることによる歯根への障害なども考えられています。
症状と引き起こされる疾患
鼻涙管の炎症による涙(写真3)、鼻腔付近の炎症によるくしゃみ、口腔内の傷害(写真4、5)、口腔内の炎症によるよだれ、口をくちゃくちゃ動かしながら食べる、口腔内の出血、よだれを拭くことによる前足のよごれなどの症状をもたらすだけでなく、口腔内の痛みにより食欲不振や胃腸うっ滞などを引き起こすことがあります。
また、不正咬合は歯根部の炎症や膿瘍の原因にもなります。
上顎切歯が口腔内にカールするように伸長し、下顎切歯は鼻の方へ牙のように伸長します。それをwolf teeth(ウルフティース)と呼びます(写真6、7)。歯は本来エナメル質によっておおわれていますが、エナメル質が融解することがあります(写真7)。本来、正面からはみえないはずの小切歯が、不正咬合により曲がってしまうことがあります(写真8)。
レントゲンでは、触診や口腔内検査で発見できなかった根尖過長や変形を診断することができます。耳鏡(耳に差し入れて耳道や鼓膜などを検査する器具)を使って口腔内を観察する際には、後臼歯の異常を発見できないことも多いので、レントゲン検査が有用な場合もあります(写真9~11)。
CT検査では、歯根膿瘍を形成した際に抜歯の対象となる歯の特定や顎骨の異常を発見することができます。歯根膿瘍が進行し、鼻腔、眼窩、中耳へ波及した場合の評価をすることも可能です。
今回は以上とし、次回は治療と予防について解説します。
この連載は、一般社団法人日本コンパニオンラビット協会(JCRA)「ウサギマスター認定者(ウサギマスター検定1級)」の獣医師で分担しながら、飼い主さんにも知っておいてほしいウサギの病気を解説しています。
・一般社団法人日本コンパニオンラビット協会
https://jcrabbit.org/
【執筆】
谷本眞帆(たにもと・まほ)
獣医師、CRAウサギマスター検定1級。2018年北海道大学大学院獣医学研究院獣医学部を卒業。同年、浜村動物病院院長に就任(2023年退職)。
【監修】
霍野晋吉(つるの・しんきち)
日本獣医畜産大学(現 日本獣医生命科学大学)獣医畜産学部卒業。獣医師、博士(獣医学)。1996年古河アニマルクリニック開業(茨城県)。1997年エキゾチックペットクリニック開業(神奈川県)。現在は株式会社EIC(https://exo.co.jp)の代表を務め、エキゾチックアニマルの獣医学の啓発や教育に関わる活動を行っている。その他、日本獣医生命科学大学非常勤講師、ヤマザキ動物看護大学特任教授、(一社)日本コンパニオンラビット協会代表理事、(一社)日本獣医エキゾチック動物学会顧問なども務める。著書に『カラーアトラス エキゾチックアニマル 哺乳類編 第3版』『同 爬虫類・両生類編 第2版』『同 鳥類編』『ウサギの医学』『モルモット・チンチラ・デグーの医学』(いずれも緑書房)。