ウサギの家庭医学【第6回】呼吸器疾患

ほかの動物と同様、ウサギにおいてもさまざまな呼吸器疾患がみられます。

今回は、いわゆるスナッフルのようなウサギの飼い主さんにはよく知られている病気、気管や肺の疾患、そしてウサギに特徴的な呼吸器疾患を解説していきます。

ウサギの呼吸器の解剖学的特徴と病気との関連

ウサギの鼻腔は、腹側、中部、背側、および篩骨(しこつ)で構成される対になった甲介によって構成され、腹側部は鼻咽頭まで続いています。鼻甲介の粘膜面には鼻分泌腺が多数存在しており、そこから粘液が分泌されます。鼻粘膜から分泌される粘液は、細菌やゴミが侵入するのを防いだり、嗅覚を増大させる役割があります。この部位の骨は複雑に入り組んだ格子状の構造となっており、鼻炎の悪化などにより、この領域の骨が融解しやすいという特徴があります(文献1)。

鼻腔の奥には咽頭が存在し、そこに気圧を調整する耳管(中耳と咽頭をつなぐ空気を含んだ管)が開口していますが、その開口部はほかの多くの動物でみられるようなスリット状(半分閉じている)ではなく、常に開いた状態となっています(文献2)。ウサギでは鼻腔の感染が中耳に波及することが多いのですが、このことが大きな要因となっているのかもしれません。
犬や猫と同様に、眼の内側から鼻腔にかけて鼻涙管という涙が流れる管があり、鼻腔疾患と関連し、流涙などの症状がよくみられます。
ウサギの喉頭蓋は長く、咽頭腔内に突出しています(文献1)。

肺は右に4葉、左に2葉に分かれていますが、ウサギの胸腔の容積は、特に腹腔の容積とくらべて非常に小さく、1回あたりの換気量が非常に少ないのが特徴です。心臓の頭腹側にはリンパ組織である胸腺が存在します。犬や猫では成長するにつれてその体積は退縮するのですが、ウサギでは退縮が起こりません(文献2)。

ウサギの呼吸器疾患の特徴にはどんなものがあるのでしょうか?

・歯や眼の病気と関連することがあり、またこじれると神経疾患などにつながりやすい。
・肺の容積が小さいので、重度の呼吸器症状につながりやすい。
・鼻呼吸優位なので、鼻腔の通気が悪くなると呼吸困難となる。
・呼吸困難の症状がわかりにくい。
・重度になると、同時に循環器の機能異常を呈しやすい。

これらの特徴はウサギの呼吸器周辺の解剖学的構造や動物種の特徴と深く関わっています。

呼吸困難の症状と注意点

鼻汁やくしゃみなどの症状は異常に気づきやすいかと思いますので、ここではそれ以外の注意すべき呼吸パターン、特に呼吸困難の症状を解説します。なぜなら、早急に動物病院へ連れて行くべきかどうか、重症度の判断に直結するからです。

まず覚えておいてほしいのは、ウサギは鼻からの呼吸が主で、口からの呼吸がほぼできないということです。ウサギが口を開けて苦しそうに呼吸している場合、鼻からの呼吸がほぼできておらず、今この瞬間に亡くなってもおかしくないほど重症であることを意味してします。残念ながらこの段階になると、急いで動物病院に向かったとしても、移動中、あるいは病院に到着したとしても助からないことが非常に多いのです。

呼吸困難の症状は胸腔内の疾患と関連があることが一般的ですが、呼吸が苦しくなると、まずは鼻の穴が広がる症状(鼻孔の拡大)がみられ始めます(写真1)。

写真1:異常呼吸。健常時にくらべ鼻孔が拡大し、頻繁に動く

次に呼吸が速くなり(呼吸促迫)、呼吸症状が重度になるにつれて次第に腹式呼吸へと移行していきます。この段階ではまだ体の姿勢を保持できている(床からお腹を浮かせている)のですが、さらに進行すると床に体の腹側をべたっとつけた匍匐(ほふく)姿勢となり(写真2)、最終段階になると完全に横になってしまって起き上がれない状態(横臥)となります。なお、必ずこの順番で症状が進行するわけではなく、腹式呼吸の段階や匍匐姿勢の状態からいきなりけいれんを起こして急死する場合も実は珍しくありません。

写真2:努力呼吸。顔を上げて身体は伏せた姿勢(匍匐姿勢)をとる

呼吸症状に関しては、できるだけ早い段階(可能であれば鼻孔拡大段階)で気づきたいところです。お腹をべたっと床につけた匍匐姿勢や、横臥の状態になってしまってから異変に気づいたとしても、残念ながら助からないことも多いのが実情なのです。腹式呼吸や匍匐姿勢の段階は明らかに苦しそうなことがみて取れるのでわかりやすいのですが、呼吸促迫や特に鼻孔拡大の症状は、ときとして判断に迷う場合もあるため、普段の元気なときの呼吸様式(活発に動いているとき、リラックスしているとき、睡眠時)をスマートフォンで動画撮影しておくことをお勧めします。

また、今すぐ亡くなってもおかしくない症状を呈しているウサギでも、前日まで普通にご飯を食べていたという場合もしばしばあります。そのため、「食欲がある」ことを重症度の判断材料とすることは非常に危険であると強調し、付け加えておきます。

代表的な呼吸器疾患

■上部気道炎

ウサギでは鼻炎や咽頭炎など上部気道疾患が多発し、一般的な呼称として「スナッフル」と呼ばれたりしています。なおスナッフルという呼称は、ウサギでよくみられる鼻汁、くしゃみ、異常鼻音などの症状を示す用語で、病名ではありません。

ウサギの上部気道炎は慢性化しやすいのですが、それには以下のような理由があります。

・鼻腔の構造上、粘液が貯留しやすい。
・原因の1つとなっている細菌のパスツレラは粘膜性莢膜をもっており、抗菌薬が効きにくい。
・ボルデテラに不顕性感染している(病原体に感染しているものの、症状を発症していない状態の)個体が多く、その場合、鼻腔粘膜の変性が起こっており、治癒の妨げとなる。
・ウサギは鼻甲介軟骨が融解しやすい。
・歯根の過長や歯根の膿瘍(のうよう)が根底にあり、鼻腔に影響を与えている場合も多い。

パスツレラ菌(Pasteurella multocida)が主たる原因菌としてあげられますが、実際のところ原因菌は多様であり、多くは複合感染しています(文献1)。先に記しましたが、特にウサギで不顕性感染していることが多いボルデテラ菌(Bordetella bronchiseptica)が関与していると鼻腔粘膜自体の変性(扁平上皮化)が起こり、その構造の変化は継続するため、完全な治癒が困難となります(文献1)。

また、上顎前臼歯の過長や歯根膿瘍が根底に存在する場合もあるため、診断にはレントゲンまたはCTなど画像検査で歯の評価を同時に行うことも重要です。その他、牧草など異物の迷入による鼻炎がみられることもあります。
下眼瞼の内側には涙管が開口しており、その管は鼻腔とつながり涙液の通り道となっています。そのため鼻炎が起こると涙管やそこにつながる涙囊にも感染が起こるため、流涙症の原因となります。鼻腔の奥の咽頭部に感染が広がってしまう場合もあります。咽頭には耳管という中耳とつながる管が開口しているのですが、そこから細菌が侵入することで斜頸(頭部が斜めに向く状態)を起こす中耳炎の原因となることがあります。

このようにウサギの鼻炎は、さまざまな器官と密接な関係性があり、いろいろな方面から疾患を考えていく必要性のある疾患です。

治療は、抗菌薬や分泌物を溶解させる薬などの投与を主体とし、症状によりネブライザー療法(吸入)などを併用します。治療により症状はよくなることが多いのですが、抗菌薬をやめた途端すぐに再発したり、また治療中も軽度の症状がずっと残ったり、なかなかすっきりといかないのがこの疾患の難点です。しかし、重度の顎骨の融解や膿瘍、咽頭から中耳への感染や肺炎などの重たい病気に移行しなければ、それだけで命を落とすことは少ないのも事実です。治療については、とにかくこじらせないように、そのつど対応することで軌道修正していくという考え方で臨んでください。

■肺炎、気管支炎

肺炎(写真3)および気管支炎はウイルスや真菌などの感染でも起こりえますが、原因としては細菌感染が一般的です。鼻炎でもふれた、パスツレラやボルデテラがもっとも重要な原因菌ですが、ほかの細菌としてブドウ球菌(Staphilococcus spp.)、モラクセラ菌(Moraxella catarrhalis)、緑膿菌(Pseudomonas aeruginosa)、アシネトバクター菌(Acinetobacter spp.)、大腸菌(Escherichia coli)なども分離されます(文献1、2)。なお、真菌による肺炎も発生することはありえますが、非常にまれとされています。

写真3:肺炎のレントゲン画像。重度の呼吸困難のため衣装ケース内で無保定にて撮影

主に輸送や飼育環境の不備などによるストレス、栄養不良などによる免疫低下、強制給餌、鼻炎や咽頭炎による鼻汁、歯科疾患に起因する口腔内に漏出した膿の誤嚥などがきっかけとなり発症します。

また、純粋な意味での呼吸器疾患とは異なりますが、鼻出血や出血性肺炎など重篤な呼吸器徴候を示す病気として、ウサギ出血病があります。これはカリシウイルスに属するウサギ出血病ウイルスによる伝染病であり、伝染力が非常に強く、感染し発症すると死亡率も非常に高いため、世界的に恐れられています。日本では家畜伝染病予防法における届出伝染病に指定されています。そのため、海外からウサギを輸入する場合などは、空港や港で検疫が行われています。国内で頻繁に遭遇する病気ではないものの、過去には日本国内(静岡県や北海道)でも発生がみられており、注意が必要です。

■肺腫瘍

肺腫瘍は、肺そのものに原発する原発性腫瘍と、肺以外のほかの部位にできた腫瘍が肺に転移することにより起こる転移性腫瘍(写真4)に分類されます。

写真4:肺腫瘍のレントゲン画像(乳腺腫瘍の肺転移)

腺癌などの原発性腫瘍が発生することもありますが、ウサギではほかの部位から転移した腫瘍の方が一般的によくみられます。肺に転移する腫瘍としては、子宮腺癌や乳腺癌がもっとも多く、ほかにはリンパ腫、線維肉腫、骨肉腫、黒色種などがあります(文献1、2)。

ウサギにおいては、化学療法や放射線療法など腫瘍に対する治療は現時点で確立されていないため、これらの治療は一般的な方法としては選択されていません。外科療法に関しても、ウサギでは侵襲性が高く(体への負担が大きく)、死亡率も高いため、積極的には実施されていないのが現状です。腫瘍に関連して二次感染や胸水貯留がみられた場合には、抗菌薬を投与したり、胸腔穿刺で胸水を抜いて肺が膨らみやすいようにしたりして、生活の質(QOL)を保つための治療を行ったりします。

■肺膿瘍

肺領域に腫瘤を形成する疾患として肺腫瘍をあげましたが、同じような腫瘤性病変を形成するウサギ特有の疾患として、肺の膿瘍もあります(写真5)。

写真5:肺膿瘍のレントゲン画像。左肺後葉にX線不透過性の腫瘤が認められる(矢印)

肺の一部に感染が起こり、そこに膿が貯留することで次第に腫瘤状の病変を形成します。レントゲンのみでは腫瘍との鑑別が困難であることも多く、その場合はCT検査が診断に役立ちます。膿瘍では孤立性病変を形成することが一般的です。非常に大型の病変を形成することも珍しくありません。手術に関しては、肺腫瘍と同様にリスクが高いため一般的には行われていません。
予後が悪い場合も多いですが、長期間の十分な抗菌薬の投与により、ある程度良化することもあります。

■胸腺腫

心臓の頭側に胸腺というリンパ組織があり、ここが腫瘍化することにより、呼吸困難などの症状を起こす病気です(写真6、7)。

写真6:胸腺腫のレントゲン画像

写真7:胸腺腫のエコー(超音波)画像

前述のとおり、ウサギは胸腔の容積が小さく、肺はその小さな容積を目一杯使って換気しています。胸腺腫が発生すると、胸腺組織そのものの腫大や、中に水が溜まることで胸腺そのものが大きくなり、その結果、十分に肺が膨らまなくなることで呼吸障害が起こることとなります。

呼吸症状のほかに、ウサギの胸腺腫に特徴的な所見として眼球突出があります。ウサギでは呼吸症状は重度となるまでわかりづらい場合があり、飼い主さんはこの眼球突出の症状に気づいて来院される場合もあったりします。胸腺の病気と眼に何の因果があるの? と思われるかもしれませんが、前大静脈という血管が関係しています。頭部からの血液が心臓に戻ってくるルートに前大静脈という血管があります。腫瘍により大きくなった胸腺がその血管を圧迫することで、胸腺より頭側にある血管のうっ血が起こります。その結果、眼球の奥にある眼窩静脈叢という血管の集まりがうっ血して膨らみ、眼球を外側に押し上げることで眼球が突出します。

診断は特徴的な症状の有無、レントゲンや超音波検査での心臓の頭側の腫瘤病変の確認、および針吸引による細胞診所見から暫定的に下します。治療は、一般的にはステロイドやシクロスポリン(免疫抑制薬)の内服が行われています。内部に水が溜まり嚢胞状となることで呼吸症状が悪くなっている場合には、胸腔穿刺により水を抜く処置を行う場合もあります。

■横隔膜ヘルニア

横隔膜は、腹腔と胸腔を隔てる筋肉でできた膜を指します。呼吸時にこの横隔膜を上下に動かすことで、肺を膨らませたり、萎ませたりして呼吸が行われるわけです。その横隔膜に裂け目が生じることで腹腔内の臓器が胸腔に入り込み、結果として肺が膨らむ領域が少なくなることで呼吸困難の症状が起こります。これが横隔膜ヘルニアです(写真8)。

横隔膜ヘルニアは事故などで外傷性に起こるケースもありますが、ウサギでは加齢性に発生することがあります。犬や猫では根治を目的とした治療として手術を実施することが多いのですが、ウサギでは非常に高リスクとなります。特に加齢性に起こった場合、手術を実施せずとも、(もちろん例外はありますが)実際のところ進行は緩徐で、慢性的経過をたどることも珍しくありません。

写真8:横隔膜ヘルニアのレントゲン画像

■気管虚脱

気管は、気管軟骨によって常にほぼ円筒を保つ構造となっており、これによりスムースに息を吸ったり吐いたりできます。ところが、この円筒構造が保てなくなり、扁平状につぶれてしまうことがあり、それを気管虚脱といいます(写真9)。

写真9:気管虚脱(矢印)のレントゲン画像

原因としては、肥満、加齢による気管軟骨の変性、慢性気管支炎などが考えられています。犬では特徴的な重度の咳を呈することで有名な疾患ですが、ウサギでは呼吸時のブーブーといった喘鳴(ぜんめい)音、いびきのような呼吸音を呈するのみで、ほとんどは一般状態に問題は現れません。

■ウサギのいびきについて

若齢期はなんでもなかったのに、中年齢を超してきたあたりからブーブーと鼻を鳴らす症状があったり、いびき音を呈するようになった、こういう子は多いのではないでしょうか?
これらの症状が起こる原因には、軟口蓋の過長や肥厚、喉頭や咽頭の狭窄、気管の狭窄、歯牙疾患に起因した鼻腔の狭窄、気道や咽頭の炎症などがあります。鼻腔や咽頭の問題などは、前述のとおり歯牙疾患などから続発することがあり、慢性化もしやすく、そのため時間をかけて徐々に症状が現れてきます。もちろん加齢が一因となっていたり、肥満による咽頭部の狭窄なども原因のひとつであり、実際、肥満のウサギではほぼいびき音を発していたりします。
しかしながら、これらの症状がある場合には歯牙疾患、あるいは鼻腔やその他の呼吸器の領域に異常が起こっている可能性があるため、動物病院で総合的に評価されることをお勧めします。

次回は循環器疾患を解説します。

この連載は、一般社団法人日本コンパニオンラビット協会(JCRA)「ウサギマスター認定者(ウサギマスター検定1級)」の獣医師で分担しながら、飼い主さんにも知っておいてほしいウサギの病気を解説しています。

・一般社団法人日本コンパニオンラビット協会
https://jcrabbit.org/

[出典]
・写真1、2、5、9…『ウサギの医学』(著:霍野晋吉、緑書房)

【執筆】
松田英一郎(まつだ・えいいちろう)
獣医師。JCRAウサギマスター検1級認定。酪農学園大学卒業。ノア動物病院、札幌総合動物病院勤務を経て、2005年、札幌市北区にマリモアニマルクリニック(https://marimo-animalclinic.com)を開院。地域のかかりつけ動物病院として、犬・猫に加え、ウサギやハムスター、モルモット、チンチラ、デグー、小鳥などのエキゾチックアニマルの診療にも力を入れている。

【監修】
霍野晋吉(つるの・しんきち)
日本獣医畜産大学(現 日本獣医生命科学大学)獣医畜産学部卒業。獣医師、博士(獣医学)。1996年古河アニマルクリニック開業(茨城県)。1997年エキゾチックペットクリニック開業(神奈川県)。現在は株式会社EIC(https://exo.co.jp)の代表を務め、エキゾチックアニマルの獣医学の啓発や教育に関わる活動を行っている。その他、日本獣医生命科学大学非常勤講師、ヤマザキ動物看護大学特任教授、(一社)日本コンパニオンラビット協会代表理事、(一社)日本獣医エキゾチック動物学会顧問なども務める。著書に『カラーアトラス エキゾチックアニマル 哺乳類編 第3版』『同 爬虫類・両生類編 第2版』『同 鳥類編』『ウサギの医学』『モルモット・チンチラ・デグーの医学』(いずれも緑書房)。

[参考文献]
1.霍野晋吉. 第6章 呼吸器疾患. In: ウサギの医学. 2018: pp.198-219. 緑書房.
2.Lennox AM, Mancinelli E. Respiratory Disease of Rabbits. In: Ferrets, Rabbits, and Rodents: Clinical Medicine and Surgery. Quesenberry K, Mans C, Orcutt C, Carpenter JW, eds. 4th ed. pp.188-200. EIsevier.