ウサギの家庭医学【第11回】生殖器・繁殖疾患 後編

ウサギの子宮卵巣疾患

子宮疾患では、子宮内膜過形成、子宮内膜炎、子宮水腫、子宮蓄膿症や子宮膿瘍といった非腫瘍性の疾患や、子宮腺癌、子宮平滑筋腫、子宮平滑筋肉腫といった腫瘍性の疾患に分けられます。
卵巣疾患では、顆粒膜細胞腫と呼ばれる腫瘍性疾患が多くみられます。

非腫瘍性疾患

・子宮内膜過形成:子宮の内膜が肥厚する病態 (写真1、2)。

・子宮内膜炎:子宮の内膜に炎症が起こる病態。

写真1:子宮内膜の肥厚が認められる。子宮広間膜に脂肪の蓄積が多く認められる

写真2:子宮内膜の肥厚が認められ、子宮角がボコボコしている。子宮広間膜に脂肪の蓄積がやや認められる

・子宮水腫:子宮内に液体が貯留する病態(写真3)。

写真3:子宮内の液体の貯留が認められる

腫瘍性疾患

(写真4、5)

・子宮腺癌:ウサギで最もよく発生する腫瘍。悪性腫瘍。石灰化することが多い。

・子宮平滑筋腫:子宮平滑筋から発生する良性腫瘍。

・子宮平滑筋肉腫;子宮平滑筋から発生する悪性腫瘍。

写真4:右子宮角に巨大な腫瘤、左子宮角にやや大きな腫瘤が複数認められる

写真5:片側子宮角に巨大な腫瘤が認められる

・子宮蓄膿症:子宮内膜の炎症や感染により膿が子宮内に貯留する病態。

・子宮膿瘍:子宮に膿瘍が発生する病態。

卵巣疾患

・顆粒膜細胞腫:卵巣に発生する悪性腫瘍(写真6)。

写真6:片側卵巣に腫瘍を形成

症状

初期では無症状ですが、進行すると、陰部からの出血や、食欲不振などを引き起こします。出血は子宮や卵巣の炎症や腫瘤より出た血液が陰部より排出されたものです。子宮静脈瘤を形成しており破裂したケースでは、重大な貧血を起こす可能性があります(写真7)。
食欲不振が起こるケースでは、大きくなった腫瘤の胃腸への圧迫が原因となったり、生殖器の炎症病変が体全身に影響を及ぼすことによって発生することがあります。

写真7:子宮静脈瘤を形成していた症例

また、悪性腫瘍の場合は他の臓器に転移することがあります(主に肺や骨など)。肺への転移では呼吸困難等の症状が、骨への転移では病的骨折が、それぞれ認められることがあります。

診断

正常な場合、子宮卵巣はレントゲン画像では目立ちませんが、腫瘤を形成している場合、下腹部に大きなしこりとして確認することができます。また、慢性炎症や腫瘍を形成している場合(典型例は子宮腺癌)は石灰沈着を起こすことが多く、レントゲンで白い陰影が認められます(写真8)。

写真8:下腹部にしこりの形成と石灰化部が認められる

超音波検査においても、子宮の炎症では子宮径が大きくなりますし、子宮水腫における子宮内の水分貯留(写真9)、子宮卵巣腫瘤形成(写真10)の確認も可能なことから、診断に必須な検査です。

写真9:子宮内に液体の貯留が認められる

写真10:子宮に腫瘤の形成が認められる

治療

外科治療:子宮卵巣の摘出術を実施します。

内科治療:ホルモン治療を行うことがあります(発生した病態によります)。

予防

ウサギは繁殖能力が高く、年中交配可能なことから、メスの生殖器への負担が大きく、生殖器疾患が多いことが知られています。
子宮疾患の発症年齢は2歳から報告があることから、病態が発現する前に子宮卵巣摘出術(避妊手術)を行っておくのが望ましいといえます。また、年を取ると、子宮広間膜と呼ばれる子宮に付着する膜に脂肪沈着が起こることがよくあるため、成熟する6カ月齢から、脂肪沈着が増加する1歳齢までに手術を行うべきという意見もあります。
実際、筆者自身も、脂肪が少ないほうが手術を行いやすいという実感がありますし、肥満のウサギや高齢のウサギに関しては麻酔のリスクも高まるため、若年で実施したほうがよい[M1] と考えています。

オスの生殖器疾患

オスの生殖器疾患はメスに比べて少なく、「生殖器疾患の予防」を理由として去勢手術を行うことは積極的には勧めていません。生殖器疾患の予防は、去勢手術のメリットの1つであり、オスの問題行動(攻撃性、自傷行為、スプレー)などを総合的に評価して、手術の予定を決めていくことが多くなります。
精巣疾患の病態は、潜在精巣、精巣炎や精巣上体炎といった非腫瘍性疾患と、ライディッヒ細胞腫、精細胞腫やセルトリ細胞腫を代表とする腫瘍性疾患に分けられます。

・潜在精巣:精巣が陰嚢内に位置せず、腹腔内もしくは鼠経部の皮下に存在している病態。
精巣は10~12週齢で陰嚢内へ下降しますが(写真11)、鼠経輪(陰嚢と腹腔内をつなぐ輪)が広いため、成熟後も精巣が腹腔内に移動します(写真12)。
診察時に精巣が腹腔内に戻っていることも多々あり、周囲の組織を軽く押すことで陰嚢内に精巣が移動し、潜在精巣ではないこと確認できます。
しかし、潜在精巣の場合は、精巣が腹腔内や鼠経部皮下に停滞しているため、圧迫しても陰嚢内に移動しません。その場合の多くで、精巣は委縮します。

写真11:精巣が陰嚢内にある状態。太い矢印は陰茎。細い矢印は睾丸

写真12:ウサギは鼠径輪が広いため、精巣が容易に腹腔内に移動する。精巣が腹腔内に移動し、陰嚢の皮膚にたるみが認められる

診断:陰嚢に下降していないことを確認したのち、鼠径部の触知や超音波検査により精巣を探します。
治療:潜在精巣が腫瘍化することはまれなので、そのまま何も治療を行わないか、停滞した精巣を摘出する手術を実施します。

・精巣炎:精巣が炎症により、腫脹する病態。

・精巣上体炎:精巣上体が炎症により、腫脹する病態。
悪化すると、腫脹した陰嚢が破裂し、膿瘍が発生することがあります。

写真13:精巣上体炎。陰囊が精巣上体の膨大により膨らんでいる

・精巣腫瘍:ライディッヒ細胞腫、精細胞腫、セルトリ細胞腫の順に発生が多くみられます。
診断:腫大化した睾丸(写真14)を摘出し、病理検査をすることで病態が特定できます。
治療:精巣を摘出する手術を行います(写真15)。

写真14:精巣腫瘍。右側の陰囊が左側の4倍ほどに肥大している

写真15:正常の精巣

この連載は、一般社団法人日本コンパニオンラビット協会(JCRA)「ウサギマスター認定者(ウサギマスター検定1級)」の獣医師で分担しながら、飼い主さんにも知っておいてほしいウサギの病気を解説しています。
・一般社団法人日本コンパニオンラビット協会
https://jcrabbit.org/

[出典]
・写真13~14…『ウサギの医学』(著:霍野晋吉、緑書房)

【執筆】
谷本眞帆(たにもと・まほ)
獣医師、CRAウサギマスター検定1級。2018年北海道大学大学院獣医学研究院獣医学部を卒業。同年、浜村動物病院院長に就任(2023年退職)。

【監修】
霍野晋吉(つるの・しんきち)
日本獣医畜産大学(現 日本獣医生命科学大学)獣医畜産学部卒業。獣医師、博士(獣医学)。1996年古河アニマルクリニック開業(茨城県)。1997年エキゾチックペットクリニック開業(神奈川県)。現在は株式会社EIC(https://exo.co.jp)の代表を務め、エキゾチックアニマルの獣医学の啓発や教育に関わる活動を行っている。その他、日本獣医生命科学大学非常勤講師、ヤマザキ動物看護大学特任教授、(一社)日本コンパニオンラビット協会代表理事、(一社)日本獣医エキゾチック動物学会顧問なども務める。著書に『カラーアトラス エキゾチックアニマル 哺乳類編 第3版』『同 爬虫類・両生類編 第2版』『同 鳥類編』『ウサギの医学』『モルモット・チンチラ・デグーの医学』(いずれも緑書房)。

[参考文献]

・霍野晋吉. 第10章 生殖器疾患・繁殖疾患. In: ウサギの医学. 2018: pp.318-363. 緑書房.