ウサギの家庭医学【第12回】骨格・筋疾患

ウサギは跳躍するための発達した筋肉をもち、脂肪が少なく、骨は体重の7〜8%(猫の2/3)と軽量化されています。そのため骨は折れやすく、骨折したとしても患部の固定も難しい動物です。したがって、人や犬・猫とは異なる考え方で対応しなくてはなりません。

今回は、ウサギの各骨における骨折への対応、ならびに関節炎、開張脚、筋ジストロフィーについて取り上げます。

骨折

骨折治療で考えなければならないこと

ウサギの骨折治療にあたっては以下を考慮します。

・手術に伴う全身麻酔のリスク。
・じっとしていないため、固定が難しい。
・骨が砕けやすく、整復しにくい。
・感染が起こりやすく、整復のための器具による影響が大きい。
・痛みに弱く、ストレスを感じやすい。
・整復が難しい場合は、断脚も考慮しなくてはならない。

ケージレスト

ケージレストとは、ウサギをケージに入れて安静を保つことです。骨折の手術後、獣医師よりケージレストでの管理を指示されます。
その他、部屋んぽ(部屋の中での散歩)の時間を短くする、ケージ内のレイアウトをシンプルにする、高さのある場所をなくす、ケージ自体を狭くするといった対応をとります。
絶対に安静にするというよりは、ウサギの体への負担と精神的なストレスを最小限にできるように妥協点を探っていきます。

断脚

ウサギの骨折に対して、整復が難しい場合は、断脚を選択することもありますが、一肢を断脚したとしても基本的な生活には支障がないといわれています。小型種ほど断脚に対応できますが、尻尾が地面につくため、すれてタコができたり、脱毛が起こったりはします。

幼体の骨折

2〜3カ月齢の幼体の骨折は、手術による整復をしなくても、簡易的な外固定(写真1、包帯やギプスなどで皮膚の外から固定する方法)とケージレストにより、生活に問題がない程度に歩行できるまでに回復することが多いといわれています。

写真1:外固定

老体の骨折

高齢になると麻酔のリスクが高まり、ケージレストで過ごしても骨化しない(治らない)可能性が高くなります。そのため、骨折が生活の質にどれほど影響するのかを考えながら、治療や管理(どう付き合うか)の方針を検討します。

前肢の骨折

■骨の特徴(写真2)
・尺骨(しゃっこつ)は大きく湾曲していて扁平化している。
・橈骨(とうこつ)も扁平化しているため、髄内ピン(骨折整復に用いる金属。手術によって骨の中心の空洞[髄腔]に入れて固定する)の挿入が難しいこともある。
・上腕骨は埋まっており包帯を巻くことは困難。
・ウサギの歩様は基本的に後肢で行うため、前肢の負重は小さい。

写真2:ウサギの前肢骨
上:上腕骨は長く、橈骨と尺骨は緩やかにカーブする
下:橈骨(左)・尺骨(右)の断面。尺骨は扁平になっている

■原因
落下やケージなどへの挟み込み、人による不注意での踏みつけ、または爪切りの際の事故などで起こります。

■対応
・橈尺骨骨折では、髄内ピンによる内固定(写真3、手術で体の中に固定材を入れて骨折部を連結する方法)を行うこと理想だが、肘側の骨折では髄内ピンの挿入が困難なため、ケージレストで対応することも多い。
・上腕骨骨折では、歩行時の負担も少なく、手術後の包帯での固定も困難なため、ケージレストで対応することが多い。

写真3:内固定(ピンによる整復)

後肢の骨折

■骨の特徴(写真4)
・後肢は歩行時の負重が大きい。
・大腿骨は体に埋まっている。
・腓骨(ひこつ)は遠位で脛骨(けいこつ)と癒着している。
・脛骨は軽度に扁平化している。
・脛骨は遠位になるほど細くなり、近位の1/3ほどしかない。

写真4:ウサギの後肢骨
上:大腿骨は緩く弯曲している
下:脛骨と腓骨の断面。脛骨は正円ではなく三角形をしており、腓骨は髄腔がない

■原因
・飛び降りなどの事故で起こりやすい。
・脛腓骨はウサギで最も起こりやすく、大腿骨の骨折は複雑に骨折することが多い。

■対応
・脛腓骨骨折では、基本的に髄内ピンによる内固定が多く選択される。
・大腿骨骨折も同様に、髄内ピンによる内固定を行うことが多い。しかし、複雑に骨折していることがよくあり、髄内ピンとともにワイヤーで周囲の骨片を寄せるように固定することもある。

骨盤の骨折

■対応
・仙腸関節*の脱臼がなければ、基本的に歩行に問題がないため、ケージレストで対応する。
・仙腸関節の脱臼を伴う場合には、スクリューで固定をする。

*仙椎4~5個が癒合して仙骨を形成する。第1仙椎は変形して大きな関節面を形成し、両側の腸骨内側面と関節(仙腸関節)をなす。

肋骨・指趾の骨折

■対応
・肺への影響は少ないため、ケージレストで対応する。
・指の骨折は歩行に問題なく、骨が細くて髄内ピンの挿入が難しいためケージレストで対応する。
・痛みによって自咬することも多い。
・痛みのコントロールは重要であり、咬傷が激しい場合は断指も考慮する。

脱臼・関節炎・遺伝性疾患など

股関節脱臼

■対応
・脱臼後2~3日以内であれば、麻酔下での迅速な整復を行う。
・関節が外れたままでも、数日~2週間以内にある程度正常な歩様になる。
・痛みは少ないといわれているが、関節炎などが起こる可能性はある。

関節炎

■原因
・加齢による。
・細菌の血行感染。
・外傷の波及。

■症状
・患肢の挙上(普段より高い位置に上げる)、破行(正常な歩行ができない)。
・関節の腫れ、熱感、痛み。
・血行感染では全身状態の悪化。

足根関節炎

■原因
・足底潰瘍(ソアホック)からの波及が主。

■診断
・レントゲン検査による関節の骨増成、骨融解の有無の確認。
・初期の関節炎はCT検査でしか判断はできない。

■治療
・足底潰瘍の治療と鎮痛薬による痛みのコントロール、抗菌薬による治療を施す。
・蓄膿が顕著なら、切開による排膿も行う(うみを出す)。
・骨増殖や骨融解が重度な場合、断脚でしか完治は目指せない。

開張脚

■原因
・常染色体における潜性(劣性)遺伝疾患。

■症状(写真5)
・両後肢の開張(外側に開いた状態)。
・生後4カ月齢までに発症し、成長とともに顕著になる。
・前肢や片側の後肢での発生はまれ。
・歩行が困難になるが、一般状態(全身的な健康状態)の問題は生じにくい。

■治療
・治療法はない。
・後肢をうまく動かせないため、2次的な感染、脱臼、外傷の管理を行う。

写真5:開張脚
左上:後肢の開張脚。後肢が外側に変位している
右上:前肢の開張脚。後肢の発生に比べて発生はまれ
下:全肢の開張脚。四肢ともに外反しているため、ほふく匐前進する

筋ジストロフィー

■原因
・粗悪なペレットやペレットの酸化によるビタミンE不足。
・現在は粗悪なペレットも減り、発生は少なくなっている。

■症状
・体重減少、削痩(やせすぎ)。
・食欲不振。
・硬直、横臥(写真6)。
・急死。

■診断・治療
・確定診断は筋肉の生検による病理検査にて行う。
・検査結果を待っている間に急死してしまうことが多いため、症状と血液検査でのCPK(クレアチニンキナーゼ)の上昇をもって(暫定的な診断で)、治療を開始する。
・ビタミンEの一種であるトコフェノールを筋肉注射、あるいは経口にて投与する。

写真6:筋ジストロフィー
全身が虚脱し、横たわっている

以上のように、ウサギの骨折は手術のみが正しい治療とは限りません。骨折部位、骨折の仕方、生活の質、ウサギの性格を考慮して主治医としっかり相談し、その子にあった対応を選択していきましょう。

この連載は、一般社団法人日本コンパニオンラビット協会(JCRA)「ウサギマスター認定者(ウサギマスター検定1級)」の獣医師で分担しながら、飼い主さんにも知っておいてほしいウサギの病気を解説しています。

次回は神経疾患を解説します。

・一般社団法人日本コンパニオンラビット協会
https://jcrabbit.org

[出典]
・写真…『ウサギの医学』(著:霍野晋吉、緑書房)

【執筆】
兵藤礼人(ひょうどう・あやと)
酪農学園大学を2019年に卒業。獣医師。JCRAウサギマスター検1級認定。ウイル動物病院グループ・仙台動物医療センターに勤務(https://animal-99.com/ )。犬や猫の診療に加え、エキゾチックアニマル診療科を担当している。

【監修】
霍野晋吉(つるの・しんきち)
日本獣医畜産大学(現 日本獣医生命科学大学)獣医畜産学部卒業。獣医師、博士(獣医学)。1996年古河アニマルクリニック開業(茨城県)。1997年エキゾチックペットクリニック開業(神奈川県)。現在は株式会社EIC(https://exo.co.jp )の代表を務め、エキゾチックアニマルの獣医学の啓発や教育に関わる活動を行っている。その他、日本獣医生命科学大学非常勤講師、ヤマザキ動物看護大学特任教授、(一社)日本コンパニオンラビット協会代表理事、(一社)日本獣医エキゾチック動物学会顧問なども務める。著書に『カラーアトラス エキゾチックアニマル 哺乳類編 第3版』『同 爬虫類・両生類編 第2版』『同 鳥類編』『ウサギの医学』『モルモット・チンチラ・デグーの医学』(いずれも緑書房)。

[参考文献]
1.霍野晋吉. 第11章 骨格・筋疾患. In: ウサギの医学. 2018: pp.366-403. 緑書房.