ウサギの家庭医学【第8回】消化器疾患

ウサギの消化器疾患は非常に多く、当院でも来院した病気の2~3割程度を占めています。ウサギは草食動物であり、常に食べ続けていますので、消化器の病気は命の危険につながる重大な症状を起こすことがあります。
「急に食欲がなくなった」「便の形や量がおかしい」「お腹を痛そうにしている」など、気になる症状があればすぐに動物病院を受診しましょう。
今回はウサギの消化器疾患の中でも特に多い、胃食滞、盲腸食滞、クロストリジウム性腸炎を取り上げます。

胃食滞

胃の動きが悪くなったり(機能的障害)、誤って異物を飲み込んでしまった(物理的障害)結果、胃の内容物がずっと胃内に留まり、閉塞を起こしてしまう病気です。
異物の原因としては、被毛、イナゴ豆の種子、カーペットや布の繊維、プラスチックなどとされています(写真1)。特に多いのは、自ら毛繕いをした被毛の塊が胃の中に貯留してしまう毛球症という病気で、アンゴラウサギなどの長毛種では死因のトップ(28.6%)を占めています(文献1)。

写真1:ウサギの胃の中から摘出された異物。左:被毛、右:タオルの繊維

■原因

ウサギは
・嘔吐ができない
・胃に特有の形状
 胃壁は薄い。
 胃から腸への出口となる幽門括約筋は発達し、幽門、噴門が小さい。
・ムチンが胃の中に多く分泌される
など、他の動物ではみられない特徴があります。

このため、不適切な食餌(量が多すぎる、繊維質が少なすぎるなど)、異物の摂取、運動不足、胃炎やストレスなどの要因により、胃腸の動きが悪化し、食物や食物が胃内に停滞してしまい、胃食滞を発症します。近年、ペレットのつなぎとして用いられる小麦粉に含まれるグルテンという物質が胃の運動性を低下させ、胃食滞の原因の1つとして指摘されています。

■症状

代表的な症状は以下のとおりです。
・食欲低下
・便の性状変化
 普段は均一で球形の便が、大小不同、数珠状(被毛が便と混じって連続した便になる)、涙状などに変化します。
・疼痛
 お腹を地面につける、お腹を触られるのを嫌がる、ほふく姿勢、背弯姿勢(背中を丸くして前かがみになっている)、じっとして動かないといった胃の痛みを表現する行動を示します。

症状が悪化した場合は、脱水や肝リピドーシス(肝臓に脂肪が過剰に蓄積し、機能障害を起こす)などの疾患を併発し、突然死することもあるので注意が必要です。

■診断

動物病院では主に以下の検査を実施します。
・身体検査
 胃の大きさや硬さを確認し、圧迫した際の疼痛の有無を確認します。
 肥満がある場合は、胃食滞を起こしやすいとされていますので、肥満の有無も確認します。
・X線(レントゲン)検査(写真1)
 腹部のX線を撮影し、胃の位置、大きさ、内容物の状態、小腸、盲腸、大腸のガス貯留などを確認することで、消化管の状態を詳細に評価することができます。なお、ヨードの造影剤を経口で与えて撮影する造影X線検査(写真2)は、胃の詳細な状態や異物の正確な存在箇所を確認できる(文献2)だけでなく、ヨードにより胃のうっ滞や毛球を水和・軟化することで、症状が改善できる効果も期待できます。

写真2:胃食滞のウサギの腹部X線画像。消化管内にガスが貯留している

写真3:胃食滞のウサギの造影X線画像。X線の透過性の低い(白い)ものが胃内の造影剤。真っ白になっていない箇所が異物

・CT検査
 X線検査で判定が難しい場合は、全方位的にX線画像を撮影できるCTという装置を用いた診断を実施します。CT検査により、異物の位置やサイズだけでなく、その異物が何であるかの仮診断まで行うことができ、非常に精度が高い結果を得ることができます。
・血液検査
 肝リピドーシスなど、併発疾患の有無の確認を目的とします。

■治療

まず内科療法を行い、改善がみられなければ外科療法を検討します。
《内科療法》
・食餌の変更
 炭水化物の量が適切で、高繊維な食餌を積極的に給与します。前述のとおり、グルテンが多い食餌は消化管の動きを低下させるため、避けることをお勧めします。
・運動、マッサージ
 散歩や腹部のマッサージは消化管への血流を促進し、運動を活発にする効果があります。
・内服薬
 消化管機能調整薬(メトクロプラミド、モサプリド)、および鎮痛薬(ブトルファノール、ブプレノルフィン)、抗炎症薬(メロキシカム)、鎮痙薬(ブチルスコポラミン)などの薬を使用します。内服薬と注射薬が存在しますが、一般的には注射薬のほうが効果は高いとされています(文献3)。

《外科療法》
上記の内科療法を実施しても反応が悪い場合、肝リピドーシスの併発が心配される場合、完全閉塞による急性胃拡張(写真3)を起こしている場合などは外科手術が適応となります。全身麻酔下で開腹して胃切開を行い、胃停滞の原因となっている内容物を可能な限り摘出します。

写真4:急性胃拡張を起こしたウサギ。腹部が著しく膨満し、沈うつ状態になっている

盲腸食滞

盲腸は下部消化管である小腸と大腸(結腸)の間にある臓器で、食餌を発酵したり、エネルギーを吸収したり、盲腸便という特別な便を生成したりしています。盲腸も胃とほぼ同様の理由で食滞を起こすことがあり、これを盲腸食滞と呼びます。

■原因・症状・診断・治療

胃食滞とほぼ同様ですが、盲腸は外科手術を行うことができないため、治療は内科療法が中心となります。

クロストリジウム性腸炎

クロストリジウム(Clostridium spiroforme)という菌が産生するエンテロトキシンという物質で引き起こされる下痢などを主とした腸炎です。
ウサギの腸内細菌叢はグラム陽性菌が主とされています。この腸内細菌叢が乱れた結果、グラム陰性菌、クロウトリジウム(C.spiroforme)などの細菌が増殖します。大腸での感染や炎症が起こり、菌毒素が出て全身状態が悪化し、ときとして死に至ります。

■原因

ストレス、不適切な食餌の他、腸内細菌叢に対して不適切な抗生物質(グラム陽性菌に特に強く作用するマクロライド系、アミノグリコシド系、ベータラクタム系など)を投与することが原因と考えられています。

■症状

急性の水溶性下痢、抑うつ、食欲低下、疼痛などを引き起こします。重症の場合は脱水や急性胃拡張、低体温などの症状が出ることもあり、緊急性を要する場合があります。

■検査

クロストリジウム専用培地を用いた培養検査、遺伝子PCR検査(外注検査:動物病院が外部機関に依頼)などで診断を行います。

■治療

生活環境の改善を行うだけでなく、原因となっている抗生物質があればすぐに中止し、クロストリジウムの殺菌に効果のあるメトロニダゾールという抗菌薬に変更します(文献4)。また、乳酸菌やエンテロコッカスなどの生菌製剤を投薬したり、プレバイオティクス(腸内の有益な細菌の増殖を促進し、動物に有益にはたらく)サプリメント(製品名:ヴェルキュア)を使用することも有効です。速やかに腸内環境の改善を行えば、通常、予後は良好です。

今回は以上とし、次回は泌尿器疾患について解説します。

この連載は、一般社団法人日本コンパニオンラビット協会(JCRA)「ウサギマスター認定者(ウサギマスター検定1級)」の獣医師で分担しながら、飼い主さんにも知っておいてほしいウサギの病気を解説しています。

・一般社団法人日本コンパニオンラビット協会
https://jcrabbit.org/

[出典]
・写真1、4…『ウサギの医学』(著:霍野晋吉、緑書房)

【執筆】
青島大吾(あおしま・だいご)
獣医師、JCRAウサギマスター検定1級。2006年東京大学農学部獣医学専修を卒業後、同大学動物医療センター研修医(外科学)などを経て、2010年に愛知県豊田市でダイゴペットクリニックを開院(https://info-dpc.net/)。その後、岡崎大和院、豊田中央医療センター(本院、拡張移転)、日進オハナ院、名古屋名東院を展開。「Home away from home」を信条とし、「100年、飼い主さんを支え続けられる病院へ」という理念のもと、ペットライフの幅広いサポートを目指している。

【監修】
霍野晋吉(つるの・しんきち)
日本獣医畜産大学(現 日本獣医生命科学大学)獣医畜産学部卒業。獣医師、博士(獣医学)。1996年古河アニマルクリニック開業(茨城県)。1997年エキゾチックペットクリニック開業(神奈川県)。現在は株式会社EIC(https://exo.co.jp)の代表を務め、エキゾチックアニマルの獣医学の啓発や教育に関わる活動を行っている。その他、日本獣医生命科学大学非常勤講師、ヤマザキ動物看護大学特任教授、(一社)日本コンパニオンラビット協会代表理事、(一社)日本獣医エキゾチック動物学会顧問なども務める。著書に『カラーアトラス エキゾチックアニマル 哺乳類編 第3版』『同 爬虫類・両生類編 第2版』『同 鳥類編』『ウサギの医学』『モルモット・チンチラ・デグーの医学』(いずれも緑書房)。

[参考文献]
1.Oglesbee BL, Lord B. Gastrointestinal Diseases of Rabbits. In: Ferrets, Rabbits, and Rodents: Clinical Medicine and Surgery. Quesenberry K, Mans C, Orcutt C, Carpenter JW, eds. 4th ed. 2020: pp.174-187. EIsevier.
2.latunji-Akioye AO, Akinbobola B, Oni ZO. Comparison of contrast radiography and ultrasonography in diagnosing gastrointestinal obstruction in rabbits. J Vet Med Anim Health. 2022;14(2):44-51.
3.三輪恭嗣 監修. エキゾチック臨床 Vol.20 ウサギの診療. 2022. 学窓社.
4Katherine E. Quesenberry, James W. Carpenter. ウサギ・フェレット・齧歯類の内科と外科. 田向健一 監訳. 2012. インターズー.