ウサギの家庭医学【第9回】泌尿器疾患

飼っているウサギに、頻尿、血尿、排尿困難、尿やけ、失禁、多飲多尿などの症状が出ている場合、それは泌尿器の病気かもしれません。早めに動物病院を受診するようにしましょう。
今回は、ウサギの泌尿器の代表的な病気について取り上げます。

尿石症

尿中にカルシウムなどの鉱物質が過剰に含まれた結果、腎臓、尿管、膀胱、尿道などに結晶や結石が形成されるものです(写真1)。

写真1:ウサギの結石症で摘出された結石

■原因

ウサギは主にアルファルファなどの食餌に含まれるカルシウムを腸管で吸収し、いったん血中に取り込んだ後、主に炭酸カルシウムやシュウ酸カルシウムの形で尿中に排泄しています。
カルシウム含有量が多すぎる乾草やペレット、おやつを給餌し続けると、生成されたカルシウム結晶を排出しきれず、膀胱結石や尿道結石を発症することがあります。
また、肥満や雄は発症のリスクがより高いとされています(文献1)。

■症状

尿が白く濁る、血尿、排尿時の苦痛や頻繁な排尿が典型的な症状です。
なお、マメ科植物(アルファルファなど)やβカロチン系野菜の給餌、脱水、抗菌薬、代謝的要因などによりポルフィリン、ビリルビン誘導体が産生され、赤い色の尿が出ることがありますが、これは生理的有色尿といって問題がない尿です。
異常な色の尿が3~4日以上続く場合は動物病院の受診をお勧めします。

■診断

以下の検査を組み合わせ、総合的に診断を行います(文献2)。
・触診:腹部の触診で膀脱結石や尿道結石が触知されることがあります。
・尿検査:尿潜血、尿中の結晶、膀胱炎の有無を確認します。
・画像検査(単純X線検査、超音波検査、CT検査など):結石の位置やサイズなどを確定します(写真2)。
*血液検査:尿石により腎機能が低下していないかを確認します。

写真2:単純X線検査で容易に観察できる大きな結石

■予防

主に、以下の3つが発症予防に重要です。
1.カルシウムが少ないフードを給餌する
 ・チモシーの牧草
 ・サラダ菜、セロリ、ニンジン、淡色野菜 (白菜やキュウリ)
  ※キャベツは結石の原料となるシュウ酸を多く含むため、避けたほうがよいでしょう。
2.飲水環境を改善する
 ・飲水のカルシウム除去
 ・水を十分に与える 
3.運動の促進を行う
 ・ダイエット
 ・部屋散歩の時間を長くする

■治療

膀胱結石の場合は切開により摘出を行います。腎結石や尿管結石なども切開での摘出は選択肢となりますが、ウサギの場合は難易度が高く、多くの場合、選択されません。
膀胱炎を併発している場合は抗菌薬での治療を行います。

腎不全

腎臓は体の重要な器官であり、血液の浄化、電解質バランスの維持、カルシウムとリンのバランスの維持、血圧の調節、赤血球生成の促進などを司っています。
腎臓の機能不全はこれらのプロセスに影響を及ぼし、健康上の問題を引き起こす可能性があります。
腎不全は、数時間〜数日にかけて腎臓の状態が急速に悪化する急性腎不全、数週間〜数カ月にかけて徐々に悪化する慢性腎不全に分けられます。

■原因

腎不全を起こす理由はさまざまで、ストレス、長時間の麻酔、心不全、尿路閉塞、腎結石、感染症、腫瘍、エンセファリトゾーン病(エンセファリトゾーン[Encephalitozoon cuniculi]という寄生虫が引き起こす脳炎を特徴とする病気。斜頸や眼振、旋回といった症状を示す)、アミロイドーシス(アミロイドと呼ばれる異常蛋白質が全身のさまざまな臓器に沈着し、障害を起こす病気)などによって引き起こされる可能性があります(文献3)。

■診断

・血液検査:非再生性貧血や高窒素血症、高リン血症、高カルシウム血症などの併発疾患の有無を確認します。犬や猫では腎機能の指標としてクレアチニンという項目が使われますが、ウサギでは腎不全の末期になるまで上昇しないため注意が必要です。
・画像検査(X線検査、超音波検査):腎臓および骨、大動脈などの石灰化や腎臓三層構造(皮質・髄質・腎盂)の不明瞭化があるかを確認します。また、食渣の貯留量から胃腸のうっ滞を併発していないかどうかも確認します。
・尿検査:腎不全に併発した蛋白尿、血尿、膿尿などがないかを確認します。犬や猫では低比重尿となりますが、ウサギでは尿比重は等張であるとされています。
・抗体検査:慢性腎不全の症状を呈するウサギの多くがエンセファリトゾーンに感染しており、この病原体との因果関係が指摘されています(文献4)。

■治療

急性腎不全では、入院のうえで静脈内輸液を行い、腎臓の状態を改善します。それでも排尿が認められない場合、利尿薬などを用いることがあります。
慢性腎不全のでは、主に通院での皮下輪液により腎臓へ血流を維持し、毒素の蓄積を防ぐ治療が行われます。高血圧や蛋白尿を併発している場合、腎不全を増悪させるレニン-アンジオテンシン系という体内経路を抑制するため、ACE(アンジオテンシン変換酵素)阻害薬を使用します。
腎性貧血(腎臓が原因で起こる貧血)を併発しているときは、造血ホルモンであるエリスロポエチン製剤の投与を行います。
食欲不振を併発していれば、モサプリドやシプロヘプタジン塩酸塩シロップなど、食欲を増進させる治療を行います。それでも改善しなければ、人の手による補助給餌を検討します。

この連載は、一般社団法人日本コンパニオンラビット協会(JCRA)「ウサギマスター認定者(ウサギマスター検定1級)」の獣医師で分担しながら、飼い主さんにも知っておいてほしいウサギの病気を解説しています。
・一般社団法人日本コンパニオンラビット協会
https://jcrabbit.org/

[出典]
・写真1…『ウサギの医学』(著:霍野晋吉、緑書房)

【執筆】
青島大吾(あおしま・だいご)
獣医師、JCRAウサギマスター検定1級。2006年東京大学農学部獣医学専修を卒業後、同大学動物医療センター研修医(外科学)などを経て、2010年に愛知県豊田市でダイゴペットクリニックを開院(https://info-dpc.net/)。その後、岡崎大和院、豊田中央医療センター(本院、拡張移転)、日進オハナ院、名古屋名東院を展開。「Home away from home」を信条とし、「100年、飼い主さんを支え続けられる病院へ」という理念のもと、ペットライフの幅広いサポートを目指している。

【監修】
霍野晋吉(つるの・しんきち)
日本獣医畜産大学(現 日本獣医生命科学大学)獣医畜産学部卒業。獣医師、博士(獣医学)。1996年古河アニマルクリニック開業(茨城県)。1997年エキゾチックペットクリニック開業(神奈川県)。現在は株式会社EIC(https://exo.co.jp)の代表を務め、エキゾチックアニマルの獣医学の啓発や教育に関わる活動を行っている。その他、日本獣医生命科学大学非常勤講師、ヤマザキ動物看護大学特任教授、(一社)日本コンパニオンラビット協会代表理事、(一社)日本獣医エキゾチック動物学会顧問なども務める。著書に『カラーアトラス エキゾチックアニマル 哺乳類編 第3版』『同 爬虫類・両生類編 第2版』『同 鳥類編』『ウサギの医学』『モルモット・チンチラ・デグーの医学』(いずれも緑書房)。

[参考文献]
1.沖田将人. できる!! ウサギの診療. 2016. インターズー.
2.Katherine E. Quesenberry, James W. Carpenter. ウサギ・フェレット・齧歯類の内科と外科. 田向健一 監訳. 2012. インターズー.
3.三輪恭嗣 監修. エキゾチック臨床 Vol.20 ウサギの診療. 2022. 学窓社.
4.Harcourt-Brown FM. Diagnosis of renal disease in rabbits. Vet Clin North Am Exot Anim Pract. 2013;16(1):145-174.