necoya booksさんが目指す「世界の猫好きをつなぐ本屋」

猫本専門書店の第5弾は東京・立川のnecoya booksさんです。店主の柳智恩(ゆう・じうん)さんに、オープンのきっかけや、お客さんに何度も来てもらうために大切にしていること、国際色豊かな本棚についてお聞きしました。

写真:necoya books店主の柳智恩さん

2年前にオープンした猫の本屋

もともと、猫の本を趣味で集めて、個人的にいろんな人に紹介していたんです。また、保護猫活動などにも興味をもち、猫のために何かできることはないかと思っていました。

それまで勤めていた会社を辞めたタイミングで、「猫の本をいろんな人に紹介する場をつくりたい」「猫のために何かしたい」という思いがあわさり、どちらも叶えられる場所「necoya books」をオープンすることに決めました。

necoya booksでは、トートバッグや缶バッジなどのオリジナルグッズの売上の一部を保護猫活動に寄付していて、詳細な報告はウェブサイトに載せてあります。また、2階のギャラリースペースではチャリティイベントを不定期で開催しています。

写真:オリジナルグッズのトートバッグと缶バッジ(上、下)

2022年2月に猫の本屋をつくることを決めました。猫に関連した日にオープンしたかったのですが、翌年の猫の日(2月22日)だと先過ぎるので、半年後の2022年8月8日「世界猫の日」をオープン日としました。

決めてすぐに物件を探しました。育児と両立させるために、自宅のある立川近傍である必要がありました。また、原画展などで絵を見るのが大好きで、自分でもそういう空間をつくりたかったので、ギャラリースペースのある物件を探しました。

5月中旬に物件を決めてリノベーション工事を進め、最終的な物件の引き渡しはオープンの3日前でした。自宅の在庫をからっぽの店舗に運んで、徹夜で作業し、奇跡的に間に合いました。はらはらさせられましたが、お気に入りの物件です。オープン日は平日だったのですが、Instagramの告知を見てお客さんたちがたくさん来てくださったのが嬉しかったですね。

写真:店舗の外観には本のマークがあしらわれている

来るたびに新しい発見がある場所

猫好きさんがいろんな所から集まります。近所から足しげく通われる方もいらっしゃいますが、立地的に人通りが少ないので、自分で情報を探して遠くから来店されるお客さんが多いですね。

せっかく興味を持って足を運んでくれたお客さんですから、2回、3回と来てもらうためにいろんな工夫をしています。

たとえば、店内の配置は定期的にガラッと変えています。お客さんが目に留めやすい場所は決まっているので、配置を変えるだけでも手に取ってもらえたりするんです。月イチで来る人が「変わったな」と思うくらいを目安にしています。

写真:本もグッズも定期的に配置を変えている(上、下)

また、展示会も定期的に開いています。オープン当初はおもに私から作家さんを招いていましたが、最近では新本が出たタイミングで作家さんや出版社さんなどから声をかけていただけるようになりました。

展示会にはいろいろな方が来てくれるので楽しいです。イラストレーターの北澤平祐さんが2021年に出した『ぼくとねこのすれちがい日記』の原画展を2023年に開いたときは、発売直後ではなかったにもかかわらず、北澤さんのファンがたくさんいらっしゃいました。今年も2月16日から3月13日まで北澤さんの絵本『ひげが ながすぎる ねこ』の原画展をするので、多くの人に来ていただきたいです。

図:『ひげが ながすぎる ねこ』の原画展が2024年2月16日から開催されている

展示が変わるたびに来店してくれる方もいます。オープンしてからの1年半で、だんだんとリピーターさんが増えて嬉しいですね。

国際色が豊かな本棚

「自分が読みたい本」と「おすすめしたい本」であることが基準です。たくさん売れている本でも基準に満たないものは仕入れません。その結果として偏りすぎてもいけませんが、猫の本はたくさんありますから、選んでも置く場所が足りないくらいです。

また、国内・国外にこだわらずに本や作家さんを紹介する場にもしたいと考えています。最近はインターネットで海外の作品を見られるので、国内にも海外の作家さんのファンがたくさんいるんです。

たとえば2023年8月に、オープン1周年の記念として韓国在住のイラストレーターのモリさんの展示会を企画したんです。すると多くの方が訪れて、「ファンだけれど、日本では手に入れられなかったのでうれしい」と絵本もカレンダーもすぐに完売してしまいました。2024年8月の2周年記念展も、モリさんの個展を開催する予定です。ほかにも、台湾在住の陶芸作家の猫ヒゲさんの展示会も好評でした。

国内外にこだわらずさまざまな作家さんの本を並べたり、展示会をしているので、たまに出版社の方から「良い海外作家さんがいたら紹介してください」と相談されることもあります。

写真:海外の本が並ぶコーナーがいくつもある

私は出身が韓国で、十代の頃に家族でアメリカに移住したので、韓国語と英語が使えるんです。高橋和枝さんの『うちのねこ』というとっても好きな絵本を、自分で翻訳して韓国の出版社に持ち込んだこともあります。

アメリカの大学ではコンピューターサイエンスを専攻したのですが、それとは別に日本語も学んだんです。そして、大学卒業後に研修プログラムに参加して日本に来ました。滞在予定は1年でしたが、日本で過ごしているうちに「まだここに居たいな」と思い、日本でIT関係のコンサルティング業に就職しました。

こうして並べると本屋と関係ない経歴のように聞こえますが、前職で身につけた情報収集、交渉、文書作成、プレゼンテーションなどの技能は今も役に立っています。仕事に限らず、これまでの人生経験をすべて役立てることで、なじみのないフィールドでもひとりで運営できていると感じます。

店をはじめるときの手続きなどは夫の協力を受けましたが、基本的にはひとりで運営しています。こまごまとしたものも多いですし、オンライン在庫と店舗在庫の同期処理も私が手動で対応しているので、アルバイトを雇うのも難しいんです。仕入れた本を整理したり、Instagram などで発信をしていると、あっという間に18時になります。それに加えて、通販の発送作業や、定休日の木曜には展示会の搬入・搬出もしています。

韓国にある猫の本屋「チェックボニャン」さんから、かなり影響を受けました。コロナ渦の頃に「韓国の方に、日本の猫の本を紹介する」というオンライン会を月2回で個人主催しはじめたところ、チェックボニャンの店主が参加してくださいました。先方は店内から参加しているので、背景に猫の本が並んでいる空間が見えるんです。それを毎回見ているうちに「いいな」が降り積もっていきました。私が「猫の本屋を開きたい」と相談したときも応援してくれて、今も続いているオンライン会を通じて交流があります。猫がつなげてくれた縁ですね。

また、オープン前にはCat’s Meow Booksさんの『夢の猫本屋ができるまで』をとても参考にしました。「猫の本屋」の本はなかなかないですし、Cat’s Meow Booksさんを訪れてみたところとても素敵だったので、教科書のように熟読していました。

だれが来ても楽しい場所

約1500点に増えた本に場所を譲り、開店当時にあった1階のカフェスペースはなくしましたが、2階のギャラリー隣のカフェスペースではコーヒーやニャンジュース(ミカンジュース)が楽しめます。常連さんもいて、なんと小学生の女の子2人がお茶をしていったこともあるんですよ。

写真:『せかいでいちばんおおきなネコ』(風木一人作、ひろかわさえこ絵)が展示されたギャラリー

写真:ギャラリーに併設されたカフェスペース(左奥)

子どもが本好きになるためには、周りに本屋があることがとても重要です。小さな子どもが来るとそういう場所になれている気がして嬉しいですね。店の前が近所の小学校の通学路なので、小学校の登下校班が店の前でポスターを見ながらよく盛り上がっているんですが、そういう子どもたちが入ってこられる場所にもしていきたいです。

今年の4月に息子が近くの小学校に入るんです。「うちのママの店だよ」って友だちを連れてくる気がするので、それをきっかけに子ども向けのイベントも企画していきたいですね。

写真:猫の絵本が並ぶコーナー

家がとても近いので、幼稚園が終わったあとに息子が店で過ごすことはよくあります。

一般的には子どもが作家を意識することは少ないと思うんですが、息子は本を見ると「この絵は誰々さんだね」と作家名で認識するんです。もともと絵を描くのが大好きなので、こうして原画を見られる環境に入り浸って影響されているのかもしれません。

猫が人生を変えてくれた

両親が動物好きではないため、実家では猫は飼っていませんでした。猫と暮らしはじめたのは9年前です。

最初に迎えた猫はミヤといいます。9年前に夫が会社の近くのペットショップで一目惚れして、「その猫を見るために昼休みに通っている」と私に相談してきたんです。私も見に行ってみたところとても可愛く、夫婦で相談して迎え入れることとしました。ミヤの誕生日は私たち夫婦の結婚した日なので、運命の出会いですね。

写真:最初に迎えたミヤ

2匹目はレオという名前で、私が一目惚れした子です。とてもやんちゃですね。

写真:柳さんが一目惚れしたレオ

2年ほど前に3匹目として迎えた猫がコロです。猫を飼うまでは「保護猫を譲渡する団体がある」ことすら知らなくて、「ペットはペットショップ」という固定観念に囚われていたんです。でも、2匹目を迎えたことをきっかけに保護猫活動について知識を深めて、近所の譲渡会に足を運んでみたところ、目が合ってしまったんです。

写真:譲渡会で出会ったコロ

今は、私と夫と息子と猫たちの「3人プラス3匹」で暮らしています。猫が人生を変えてくれたので、どの子との出会いにも運命を感じます。

猫にまつわるいろいろなイベントを開きたいです。保護猫活動をしている方を招いたり、何かをつくるワークショップを開いたり。ここでは猫関連のいろんな催しが行われていることを、知ってもらいたいです。

それとは別に、足を運んでくださったお客さんに満足してもらえる本屋であり続けたいとも思っています。necoya booksはほとんどの本が1点しかないので、宝探しのような体験ができます。じっくりお店で時間をかけて、お気に入りの本を持って帰れる、そういう本屋を楽しんでほしいと考えています。

necoya books

東京都立川市富士見町2-11-7
https://necoyabooks.com/