ウサギの家庭医学【第14回】眼疾患 前編

この連載では、部位別にウサギの様々な病気を解説してきましたが、この眼疾患が最後になります。
今回は前編として、ウサギの眼の特徴および動物病院で実施する検査を述べ、次回の後編(第15回:最終回)では代表的な病気の概要を解説します。

ウサギの眼の特徴と構造

被捕食動物であるウサギは、頭部の側面に眼があり、非常に広い範囲(ほぼ360度)をみることができます。その反面、立体的にくっきりとみることができる範囲は、真正面の狭い領域に限られており、鼻先あたりはよくみえていません。この領域は、口唇やヒゲによる触覚で物を認識しています。
ウサギの眼球の構造は、基本的には犬や猫と変わりませんが、角膜が薄く、水晶体が丸く大きいという特徴をもっています(写真1、2)。水晶体は通常、その厚みを変えることによって遠近のピント調節を行っていますが、ウサギはその遠近の調節が苦手です。

写真1:角膜は眼球表面の約30%を占める(左)。他の哺乳類にくらべて角膜が薄い(右、矢頭)

写真2:水晶体は丸く大きいのが特徴

角膜、虹彩、水晶体で囲まれる領域である眼房には液体(房水)が存在し、虹彩が付着している根本の部分の隅角(ぐうかく)により、液体を産生したり、または排出したりし、その房水量が調節されています。
眼圧という用語を聞いたことはあるかと思いますが、眼圧が高いということは、この房水の量が増えすぎてしまっているということになります(眼球の中に水風船があり、それが膨らんで、内側から眼球組織を圧迫しているイメージ)。
眼球の内側の最後面には、網膜が存在します。ここには、視覚情報を脳へ伝えるための神経細胞が密集しています。ウサギの網膜の血管は、神経が集まる視神経乳頭の部分から水平に伸びている特徴的な形をしています(写真3)。また、網膜を構成する神経細胞の特徴から、赤系統の色が認識できないといわれています。その一方で、暗視野での視力には優れています。

写真3:網膜の血管。視神経乳頭から左右に広がっている

猫など夜行性の動物では、光を反射するタペタムという構造が網膜の裏側にありますが、ウサギは夜行性でありながらこのタペタムをもっていません。
涙液を分泌する器官として眼の背側に涙腺、腹側に副涙腺、上眼瞼と下眼瞼の間の目尻の部分に瞬膜線(図1)、そして上下の眼瞼縁にはマイボーム線(写真4)が存在しています。涙液は結膜や角膜を保護したり、異物を洗い流したり、角膜に栄養を与える役目をもち、余った涙液は蒸発したり、下眼瞼の内側に1つ存在する涙点を通して鼻腔に排泄されます。
なお、被捕食動物のウサギは常に危険を察知する必要性があるため、人では5〜6秒間に1回の瞬きの回数が、ウサギでは6分間に1回と非常に少ないのも特徴です。

図1:涙腺の分布

写真4:マイボーム腺

主な検査

動物病院では、ウサギの眼を評価するために以下の検査を実施します。

視覚検査(眩目反射)

眼に強い光を入れて、眼をつむるかどうかをみるもので、網膜や視神経が光を感じ取っているかを評価することができます。なお、犬などではその他の視覚検査とて、綿球落下試験や威嚇反応、迷路試験を実施しますが、ウサギでは有用ではありません。

視診

眼を直接みる検査です。瞼に異常がないか、結膜などに充血がないか、涙や眼脂(目やに)が多くないか、角膜の外観に異常がないかなどを評価します。

徹照法および細隙灯顕微鏡検査

徹照法では眼に光を当てて眼内(角膜、前眼房、水晶体、硝子体)の濁りの有無などを観察します。細隙灯顕微鏡検査は、非常に細くて縦に伸びる光を眼に当て眼球をスライスするように各断面を観察する検査法で、眼の内部の状態をより詳細に観察することができます。

フルオレセイン検査

角膜上皮障害や角膜潰瘍のある部位のみが染色され、正常な角膜では色がつかない特殊な蛍光色素により、角膜の障害を確認する検査です。
なお、蛍光色素が混ざった涙は鼻涙管を通して鼻腔に流れるため、色素に染まった液が鼻孔から流出していれば鼻涙管の完全な閉塞はないと考えられ、ウサギで問題となることの多い鼻涙管の開通性の評価にも使われます(写真5)。
しかしながら、鼻涙管が開通していたとしても、鼻孔ではなく、喉の奥に流れてしまう場合もあるため、鼻から色素が流れ出てこない場合であっても、必ずしも異常とは限りません。

写真5:フルオレセイン検査。左はフルオレセイン試験紙。右の写真では両側の鼻孔から色素が流れているため、鼻涙管は開通していることがわかる

眼圧測定

眼圧計(写真6)を用いて眼球内圧を測定します。特に緑内障の診断や治療評価には欠かせない検査です。

写真6:ウサギも測定できる眼圧計

超音波検査

眼球に対して超音波検査を実施することもあります。眼内の構造や大きさの評価、眼球の裏側にある病変の確認などに使用されます。


この連載は、一般社団法人日本コンパニオンラビット協会(JCRA)「ウサギマスター認定者(ウサギマスター検定1級)」の獣医師で分担しながら、飼い主さんにも知っておいてほしいウサギの病気を解説しています。

・一般社団法人日本コンパニオンラビット協会
https://jcrabbit.org

[出典]
・写真1~4、図1…『ウサギの医学』(著:霍野晋吉、緑書房)

【執筆】
松田英一郎(まつだ・えいいちろう)
獣医師。JCRAウサギマスター検1級認定。酪農学園大学卒業。ノア動物病院、札幌総合動物病院勤務を経て、2005年、札幌市北区にマリモアニマルクリニック(https://marimo-animalclinic.com )を開院。地域のかかりつけ動物病院として、犬・猫に加え、ウサギやハムスター、モルモット、チンチラ、デグー、小鳥などのエキゾチックアニマルの診療にも力を入れている。

【監修】
霍野晋吉(つるの・しんきち)
日本獣医畜産大学(現 日本獣医生命科学大学)獣医畜産学部卒業。獣医師、博士(獣医学)。1996年古河アニマルクリニック開業(茨城県)。1997年エキゾチックペットクリニック開業(神奈川県)。現在は株式会社EIC(https://exo.co.jp)の代表を務め、エキゾチックアニマルの獣医学の啓発や教育に関わる活動を行っている。その他、日本獣医生命科学大学非常勤講師、ヤマザキ動物看護大学特任教授、(一社)日本コンパニオンラビット協会代表理事、(一社)日本獣医エキゾチック動物学会顧問なども務める。著書に『カラーアトラス エキゾチックアニマル 哺乳類編 第3版』『同 爬虫類・両生類編 第2版』『同 鳥類編』『ウサギの医学』『モルモット・チンチラ・デグーの医学』(いずれも緑書房)。

[参考文献]
1.霍野晋吉. 第13章 眼疾患. In: ウサギの医学. 2018: pp.442-479. 緑書房.