ウサギの家庭医学【第15回】眼疾患 後編

今回の後編(第15回)では、ウサギにおける代表的な眼疾患の概要を解説していきます。

代表的な眼疾患

眼瞼疾患

【眼瞼炎】
細菌性結膜炎や鼻涙管疾患による流涙といった刺激などが原因で発生します(写真1)。細菌感染が主な原因であれば、抗菌薬の点眼により治療します。また、ウサギ梅毒、疥癬などの感染症が原因となり発生することもあり、それぞれ原因に対する治療を行います。

写真1:眼瞼炎

【眼瞼内反および外反】
ロップ種(特にオス)では顔面の皮膚がたるんでいるため、眼瞼の外板や内反が起こりやすいことが知られています。眼瞼の内反の程度によっては、眼球に物理的な刺激が加わり、流涙や角膜障害が起こることがあります。合併症が問題となる場合には手術を実施します。
また、ウサギの皮膚は組織が非常に脆弱であり、慢性的な刺激や炎症により変形が起こりやすく、慢性炎症が関係していることも多々あります。

【マイボーム腺の疾患】
眼瞼縁にはマイボーム腺という脂を分泌する腺組織とその道管の開口部があり、そこに細菌感染が起こったり、分泌物が詰まることにより、瞼の淵にしこりができることがあります。
感染が起こっている場合には抗菌薬の点眼など、病変が大きい場合には、針で穿刺して穴を開け、内容物を押し出す処置(写真2)を行います。

写真2:穿刺排膿

結膜の疾患

【結膜炎】
細菌感染の他、尿で汚れた床材からのアンモニアなど劣悪な環境による刺激や、牧草の粉塵も一因となります。抗菌薬や非ステロイド性抗炎症薬の点眼により治療を行います。
原因が環境に存在する場合は、同時に環境の改善を図ることも大切です。

【結膜過長症(偽翼状片)】
結膜は通常、透明である黒眼の部分(角膜)は覆っておらず、白眼の部分にだけ被さっているのですが、結膜過長症はこの結膜が増生し、黒眼(角膜)の中心に向かって伸びてしまう病気です。透明な角膜の上は結膜に覆われてしまうため、視野が狭くなります。原因不明の病気です。内科的治療では効果がなく、治療にあたっては手術が実施されます(写真3)。

写真3:結膜過長症

瞬膜腺の疾患

内眼角(目尻)の部位には、涙液を分泌している瞬膜腺が存在しています。眼の上部もしくは下部の涙腺および副涙腺由来の涙液は透明ですが、この瞬膜腺由来の涙液は、正常でも白く濁っています。

【瞬膜腺膿瘍】
瞬膜腺の炎症に続発して、膿瘍ができることがあります。治療としては切開および排膿を行い、抗菌薬の点眼もしくは内服薬を併用したりします。

【瞬膜腺過形成】
瞬膜腺が良性に大きくなってくるウサギ特有の疾患です(写真4)。発情したオスにおいて、サイロキシンとアルドステロンが、瞬膜腺の過形成を引き起こすことが知られています。実際、未去勢オスのウサギでは比較的よくみられます。
瞬膜腺が腫大することによって(写真5)、鼻涙管の開口部も圧迫され、その結果、流涙症が起こりやすいのですが、炎症ではないため、痛みなどの自覚症状は通常ありません。無治療で経過を観察するか、治療を実施する場合は瞬膜腺を切除して小さくする手術を実施します。

写真4:瞬膜腺過形成により突出した瞬膜

写真5:腫大した瞬膜腺

鼻涙管疾患

涙が鼻腔へ流れる際に通る細い管が鼻涙管です。この細い管が外部から圧迫を受けて流れが悪くなったり、閉塞物で内腔が詰まることがあり、その結果、涙が鼻腔に流れないため、常に涙目となります。ネザーランドドワーフやロップ種などの頭部の短い品種では、通常とくらべ頭の骨が変形しており、鼻涙管の異常が起こりやすいといわれています。
涙嚢や鼻涙管そのものの炎症により膿が溜まって閉塞する場合もありますが、結膜炎などによる眼脂(目やに)や鼻腔内の鼻汁が鼻涙管の詰まりの原因となることが非常に多くあります。
また、歯科疾患とも関連性が深く、特に上顎切歯の歯根の先端と上顎第1前臼歯の歯根の先端あたりの鼻涙管はカーブし、細くなっています。そのため、閉塞が起こりやすい場所となっています。
鼻涙管が狭窄したり閉塞したりすると、常に涙を流している状態となります。そのため、眼の周りの被毛が涙でぬれ、皮膚炎が生じたり、さらに常に涙にさらされていることにより、結膜炎や眼瞼炎なども増悪しやすくなります。
主な検査として、前回で説明したフルオレセイン検査による鼻腔への通過性の評価、鼻涙管の造影X線検査やCT検査により、鼻涙管の形態の評価および歯の評価を行います。
治療としては、鼻涙管閉塞を確認し、それを開通させる目的で鼻涙管洗浄を行います。結膜の鼻涙管開口部である涙点(写真6)に細いカテーテルを通し、生理食塩水をシリンジ(注射筒)で注入します。開通すると、鼻孔から洗浄液が流れ出てきます。
そして、鼻涙管疾患の原因となっている結膜炎や角膜炎など、さらに鼻炎の治療もあわせて行っていきます。

写真6:涙点

角膜疾患

【角膜潰瘍、角膜炎】
角膜潰瘍は、外からの物理的な刺激で角膜表面にある上皮に傷がつき、欠損が生じる病気です。ウサギの場合、牧草で眼を突いてしまったり、給水ボトルの先が当たってしまい生じることが多々あります。角膜は1度傷がついてしまうと、自然には治らない組織です。犬や猫の場合、比較的浅い傷であったとしても痛みがあるため、眼をシバシバさせたりといった症状が出やすいのですが、ウサギでは傷が深くなるまでそのような症状が出ないことも多いため、注意が必要です。
また、ウサギでは角膜潰瘍がきっかけとなり、慢性の角膜炎に移行し、白っぽく濁ったり(線維化や浮腫)、角膜に血管が入り込んでくるようになります(血管新生)。
潰瘍部に細菌感染が生じ、治療がされない状態となると、角膜は急速に融解し、最終的には角膜の穿孔が生じます。ウサギの角膜は非常に薄く、穿孔が起こりやすいことが知られています。
角膜の傷はフルオレセインという色素により緑色に染まります(写真7)。傷が深いと逆に染まらなくなるため、潰瘍の深さの判断にも役立ちます。

写真7:角膜潰瘍

治療は犬や猫とほぼ同様に、抗菌薬や角膜を治癒させるための点眼薬を使用します。難治性の場合は、不完全に再生した上皮を綿棒などで剥がした上で治療したり、場合によっては角膜の治癒をさらに促す目的で、瞬膜を眼瞼に一時的に縫合する手術(瞬膜フラップ)を行う場合もあります。

【角膜脂質症、角膜変性症】
角膜に脂質、またカルシウムなどのミネラルが沈着することがあります(写真8)。残念ながら病変が消失することはありませんが、通常の生活に大きな支障はありません。

写真8:角膜変性症。角膜に脂質とカルシウムを含む白色結晶が沈着し、混濁する

ぶどう膜炎

眼球の構造のうち、非常に血管に富んだ領域である虹彩、毛様体、脈絡膜のことを総称してぶどう膜と呼びます。このぶどう膜に、何らかの原因で炎症が起こる病気のことをぶどう膜炎と呼びます。物理的な外傷などから続発するぶどう膜炎も起こりますが、ウサギでは特にエンセファリトゾーン(Ez)による水晶体の病変から続発するぶどう膜炎が多発します。
後述の白内障でも解説しますが、まずはエンセファリトゾーンの感染が原因で発生した水晶体の病変が破れることで房水内に流れ出します。水晶体内の成分は体には異物と認識されるため、自己免疫性の炎症反応がこのぶどう膜の領域で起こります。このタイプのぶどう膜炎は、若いウサギで多くみられます。
虹彩の充血や膿瘍(膿のできもの、写真9)の形成が、肉眼的に観察できる主要な症状です。

写真9:虹彩の膿瘍

また、虹彩の付着している根本の部分には、房水の排出路があるのですが、ぶどう膜炎の慢性化により、この部分が狭くなったり、閉塞することで房水の量が増え、眼圧が上昇し、緑内障が発生することもあります。
犬や猫では、流涙や閉眼、羞明などのわかりやすい症状が出ることが多いのですが、ウサギではそのような症状を示さない場合も比較的多いため、注意が必要です。飼い主さんが眼の異常に気づいた頃には相当進行してしまっていることも多く、そのため普段から健診を受けておくことを強くお勧めします。
治療は、ステロイドや抗菌薬の点眼、フェンベンダゾールなどのエンセファリトゾーンに対する駆虫薬の投与を行います。治療は長期にわたることが多くなります。緑内障を併発している場合は、眼圧を下げる治療も同時進行で行っていきます。

緑内障

緑内障とは、眼から入ってきた情報を脳に伝達する視神経に障害が起こり、視力が低下もしくは失明に至る怖い病気です。眼球の最も奥には、網膜という組織が半球状にうちばりされているように存在しています。この部位にはものをみるために不可欠な視神経が張り巡らされており、それらは視神経乳頭で太い神経線維となって脳へとつながっています。
緑内障では、眼房の中の圧力(眼圧)が高くなり、内側から網膜が圧迫されることで視神経に障害が起こり、進行性に視力が低下します。
遺伝的に起こる緑内障もありますが、ウサギでは、前述のぶどう膜炎から続発し発症する場合が一般的です。なぜぶどう膜炎から緑内障が起こってしまうのかに関しては、前述のとおりです。
房水が過剰に貯留することで眼圧が上昇し、白眼の血管の充血(写真10)、眼球の拡張(眼が大きくみえる)、角膜の障害が起こります(写真11)。進行してくると痛みが生じることで、食欲が低下したり、元気がなくなったりといった症状が起こる場合がありますが、ウサギの場合は他の多くの哺乳類とくらべこのような症状が起こることはまれです。

写真10:白眼の血管の充血

写真11:緑内障による眼球の拡張と軽度の角膜浮腫

眼圧、角膜、および虹彩、水晶体、網膜の状態を各種検査により評価します。角膜や水晶体などが白く濁ることで、外側から内部の状態が確認することができない場合は、超音波検査により評価することもあります。
眼圧を低下させるための点眼薬、必要により角膜障害などの合併症に対する治療を行いますが、一定期間治療したら治るという病気ではなく、通常は生涯にわたって治療は必要となります。
最終的には失明に至りますが、人間ほど視覚への依存度がそれほど高くないため、そのような場合でも比較的生活に大きな支障は出ません。
緑内障の進行による角膜障害が重度で、角膜の穿孔(穴があく)、激しい眼内の炎症、痛みにより生活の質が低下している場合には、眼球の摘出手術が考慮されます。

眼球の突出

眼球が収まっている奥の領域を眼窩といいます。この領域に何らかの占有物ができることで、眼球が外に押し出され、眼が外側に突出してくることがあります。これは、さらさらとした液体であったり、どろっとした液体や、固いできもの(腫瘤)であったり様々です。
ウサギの眼窩には、上顎の後臼歯の歯根が非常に近接しているという特徴があります。重度の歯根炎により歯槽骨が融解し、膿が貯留(根尖膿瘍)することで、眼球の突出が起こります。ウサギの眼球突出の一般的な原因の1つとなっています(写真12)。

写真12:眼窩膿瘍による右眼の突出

また、この連載の第6回「呼吸器疾患」でもふれましたが、眼球の突出は胸腺腫という疾患によっても起こります。
これらの問題は後ろ側から眼球が押し出されることで発生します。
治療はおのおのの原因疾患に対して行っていきますが、乾燥による角膜の障害など2次的に眼の問題が起こってくることも少なくなく、必要に応じて治療を施します。
また、前述の緑内障においても、眼球の拡張が重度な場合、眼が突出してみえます。

白内障

白内障は、水晶体が変性して白く濁ってくる疾患であり(写真13)、多くは加齢が原因で発生します。他にはエンセファリトゾーンの水晶体への感染から発生する二次的な白内障もあります。
水晶体は、外からの光を集めてピントを合わせるカメラのレンズのようなはたらきをします。 通常は透明な組織ですが、白内障では白く濁ってしまうため、集めた光がうまく網膜に届かなくなり、ものがよくみえなくなります。

写真13:白内障

基本的には、視覚の低下以外に痛みなどはなく、涙や目やになどの症状もありませんが、白内障が進行することで水晶体に亀裂が入り、水晶体の中の蛋白が漏れ出すことによりぶどう膜炎や緑内障を発症し、眼に痛みを伴うこともあります。
眼に光を当てて眼内を観察する徹照法検査や細隙灯顕微鏡検査(写真14)で、水晶体の濁りの有無や程度を確認し診断しますが、水晶体の前方(角膜や眼房)に濁りがあり内部が確認できないときには、超音波検査で水晶体の状態を確認する場合もあります。

写真14:細隙灯顕微鏡検査。左は初発白内障。混濁は前囊下に限局している。右は水晶体皮質および水晶体核全域の混濁がみられる

いったん白く濁った水晶体は、元の透明な状態に戻すことはできませんが、進行を少しでも遅らせることを期待する場合は、ピレノキシンなどの点眼による治療を行います。
根本的な治療としては、水晶体組織を吸引除去する手術がありますが、現実的には実施できる動物病院は限られています。
緑内障でも述べましたが、ウサギでは視覚が完全に喪失したとしても、普段の生活に深刻な支障は出ないため、手術の実施に関しては、麻酔のリスクや手術後の合併症も含めて慎重に考える必要があります。

以上、ウサギにおける主な眼疾患を解説しました。結膜炎や白内障、ぶどう膜炎、そして緑内障など、病名だけみると私たち人間や犬・猫と大差はありません。しかしながら、各疾患で解説した通り、不正咬合による鼻腔や鼻涙管の問題、エンセファリトゾーンによる影響など、眼以外の疾患が関係しているケースがかなりの割合でみられるのがウサギの眼疾患の大きな特徴です。消化管のうっ滞などの病気とくらべ、食欲の低下といった症状が出ないことが多い眼疾患は、飼い主さんもどちらかというと様子をみてしまいがちです。
しかし、病気が相当進んでしまった状態から治療したとしても、治癒は限定的となることが多いため、普段からの定期健診、そして少しでも気になる症状がみられた場合には早めの受診を強くお勧めします。

この連載は、今回が最終回になります。
一般社団法人日本コンパニオンラビット協会(JCRA)「ウサギマスター認定者(ウサギマスター検定1級)」の獣医師で分担しながら、飼い主さんにも知っておいてほしいウサギの病気を解説してきました。
ご愛読、ありがとうございました。

・一般社団法人日本コンパニオンラビット協会
https://jcrabbit.org

[出典]
・写真3~5、8,9、14…『ウサギの医学』(著:霍野晋吉、緑書房)

【執筆】
松田英一郎(まつだ・えいいちろう)
獣医師。JCRAウサギマスター検1級認定。酪農学園大学卒業。ノア動物病院、札幌総合動物病院勤務を経て、2005年、札幌市北区にマリモアニマルクリニック(https://marimo-animalclinic.com )を開院。地域のかかりつけ動物病院として、犬・猫に加え、ウサギやハムスター、モルモット、チンチラ、デグー、小鳥などのエキゾチックアニマルの診療にも力を入れている。

【監修】
霍野晋吉(つるの・しんきち)
日本獣医畜産大学(現 日本獣医生命科学大学)獣医畜産学部卒業。獣医師、博士(獣医学)。1996年古河アニマルクリニック開業(茨城県)。1997年エキゾチックペットクリニック開業(神奈川県)。現在は株式会社EIC(https://exo.co.jp)の代表を務め、エキゾチックアニマルの獣医学の啓発や教育に関わる活動を行っている。その他、日本獣医生命科学大学非常勤講師、ヤマザキ動物看護大学特任教授、(一社)日本コンパニオンラビット協会代表理事、(一社)日本獣医エキゾチック動物学会顧問なども務める。著書に『カラーアトラス エキゾチックアニマル 哺乳類編 第3版』『同 爬虫類・両生類編 第2版』『同 鳥類編』『ウサギの医学』『モルモット・チンチラ・デグーの医学』(いずれも緑書房)。

[参考文献]
1.霍野晋吉. 第13章 眼疾患. In: ウサギの医学. 2018: pp.442-479. 緑書房.