サンショウウオは謎に満ちていて、まだ分かっていないことが多いいきものです。このアカイシサンショウウオもその一種で、実はまだ野外で卵も幼生も見つかっていません。発見からもう20年も経ているのですが……。

発見が難しいのは産卵場所です。生息環境である赤石山脈は南アルプスとも呼ばれ、標高2,000~3,000メートル級の山々が連なります。天竜川や大井川、安部川に富士川の源流が含まれているため、豊富な森が育まれています。この環境で育まれた森はさまざまな動植物の成長を助け、この動植物たちが森をさらに豊かにしています。アカイシサンショウウオは、水場と陸を結ぶ非常に重要な位置にいて、環境のバロメーター的な役割を果たしています。

深い森では、たとえ水場で産卵すると分かっていても、卵や幼生を見つけることは至難の業です。おそらく、産卵場所は伏流水が流れるような場所であり、地表に露出することが考えられないため、発見をさらに困難なものにしています。
飼育実験下では卵も幼生も確認されていて、白くて大きな少量の卵を産み、幼生は餌をとらなくても変態するようです。

アカイシサンショウウオは、紫色に近い少し黒っぽい体色をしています。背中には模様がない個体が多いですが、小さい頃は銀白色の斑点があります。現在は、種の保存法で指定されているため捕獲することはできませんが、指定前に研究者の方に同行して発見した時は、水場から離れた石がたくさん積み重なったような場所で、石を一つ一つ丁寧にめくっていくと発見できた記憶があります。変わった場所に暮らしていると思いましたが、意外にも石の下は湿っており、他と比べても涼しくすみやすい環境なんだと分かりました。知らなければこんな場所にサンショウウオがいるなんて夢にも思わない場所です。
変態上陸してから雪深いこの地で生き抜くための戦略なのでしょう。

同時に、石の下に逃げ込んだ小さな昆虫類を食べて生活していることもわかりました。
このような経験から少しずつサンショウウオの生態にふれて、それが保全を考えるうえで役立つことを考えると、もっと彼らのことを知らないといけないと痛感しました。
【文・写真】
関 慎太郎(せき・しんたろう)
1972年兵庫県生まれ。自然写真家、びわこベース代表、日本両棲類研究所展示飼育部長。身近な生きものの生態写真撮影がライフワーク。滋賀県や京都府内の水族館立ち上げに関わる。『日本のいきものビジュアルガイド はっけん!』シリーズ(田んぼのいきもの、カナヘビ、小型サンショウウオ、ニホンイシガメ、ニホンヤモリ、トカゲ、イモリ、ニホンアマガエル、オタマジャクシ、オオサンショウウオ)、『野外観察のための日本産両生類図鑑 第3版』『同 爬虫類図鑑 第3版』、『世界 温帯域の淡水魚図鑑』、『日本産 淡水性・汽水性エビ・カニ図鑑』(いずれも緑書房)、『うまれたよ! イモリ』(岩崎書店)、『日本サンショウウオ探検記 減り続ければいなくなる!?』(少年写真新聞社)など著書多数。
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