カラス博士の研究余話【第28回】烏合の衆

賢いのに「烏合の衆」?

「烏合の衆」ということわざがあります。まとまりがなく、カラスが騒ぎ群れるように統率のない集団や組織を指して揶揄するような場合に用いられる言葉です。

この言葉、世に賢い動物として知られるカラスにとっては、容認できるものではないと思います。カラスの群れは、見方によっては自然発生的で、統率力などない集団に見えるかもしれません。イワシやムクドリの群れのように、ひとたび事が起きれば個体同士の間隔の狭い群れ全体が、一矢乱れぬ動きで一つのいきものの様子を呈し、風の流れのように変幻自在の動きをするものもあります(図1)。集団の形を変え、右に左に素早く動いたかとおもえば後ろに反転し、逆方向に進みます。さらに、大きく膨らんだり細くなったり、正に縦横無尽です。

図1.ムクドリの群れ

このような群れとカラスの群れは違います。大勢で群れますが、一糸乱れぬ集団飛翔はしませんし(図2)、個体間の距離もあります。統制が取れている集団に見えなくてもしかたありません。しかし、長年カラスを見ていると、世間でいわれるほど意味も無く集団化する動物ではないと考えます。

今回は、「烏合の衆」という誤解を解くためにカラスの群れについて考えてみます。

図2.塒(ねぐら)に帰る大きな群れ

カラスにとっての群れの役割とは?

カラスの群れは季節変動型です。秋から冬にかけて群れは大きくなり、数千羽から1万羽ほどの大きな群れで夜を一緒に過ごします。その過ごす場所を「塒(ねぐら)」といいます。その塒が建物(図3)や大きな公園の樹木(図4)になったときに、景観・衛生面・騒音による人とのあつれきが生じます。駅前の街路樹に塒ができて周辺が糞だらけになり(図5、6)、ニュースになることも度々です。

図3.建物など人工物の塒
図4.公園の立ち木の塒
図5.駅前など都市部の街路樹の塒
図6.街路樹塒による糞害

群れの役割は、この厄介な塒にあるように考えられます。たとえば、自然状況が厳しくなり餌にたどり着くことが難しくなると、情報交換の場として集まります。集団が大きくなると、様々な場所で餌を得ているカラスが集まります。餌を得られていなかったカラスは餌の在りかを知り、夜が明けて塒から飛び立つカラスの動きを察知して付いて行き、餌にありつきます(図7)。つまり、集団の中から必要な情報を受け取り、先駆的に困難を乗り越える仲間を知るために集まっているのです。

図7.大きな群れから別れた小グループの餌場

一方、子孫を作る相手との出会いの場としても考えられます。塒が木々であれば、上下左右から選び放題です(図4)。小さな集団よりは、遙かに出会いが多くなります。

さらに、集団化には天敵からの回避などが考えられます。天敵から単独で追われるよりも、多数のほうが敵の目を反らす機会が多くなり、自身が天敵から襲われる確率は低くなります。単独で眠っていたらそうはいきません。

このように、生きるという意味では集団、それも大きな集団のほうが、自己保存の観点から見ても都合がいいです。

組織的ではないからこそ

ところで、集団化が進むと役割の分化が生じます。つまり、組織全体で有機的な役割分担が生じ、そのどこかが欠けることで組織が壊れていく現象が起きます。また、リーダーの役割を持つ者が無能であれば、組織がリーダーの判断ミスで崩壊することもあります。

組織化は合理的に見える一方で、弱い面が生まれます。その点、カラスは特定のリーダーを持ちません(それが烏合の衆という誤解につながるのですが)。カラスの集団では、危機に一番近く、初めにそれに気づいたものがリーダーです。遠くから迫りくる天敵をいち早く確認できる位置にいた個体から、身を守る行動をとります。すると、その隣、さらに隣へと動きが伝わり、ほとんど同時に群れは天敵を回避します。

また、過度な群れの統一性は、餌資源の奪い合いなど生存への矛盾が出てきます。明け方、自然発生的にいくつかの集団に分散し、様々な方向に飛び立つ集団の緩さは、こうした問題を解決します。

このように、カラスの群れは烏合の衆どころか、集団が臨機応変かつ合理的に機能する柔軟で賢い集団だといえるでしょう。

【執筆者】
杉田昭栄(すぎた・しょうえい)
1952年岩手県生まれ。宇都宮大学名誉教授、一般社団法人鳥獣管理技術協会理事。医学博士、農学博士、専門は動物形態学、神経解剖学。実験用に飼育していたニワトリがハシブトガラスに襲われたことなどをきっかけにカラスの脳研究を始める。解剖学にとどまらず、動物行動学にもまたがる研究を行い、「カラス博士」と呼ばれている。著書に『カラス学のすすめ』『カラス博士と学生たちのどうぶつ研究奮闘記』『もっとディープに! カラス学 体と心の不思議にせまる』『道具を使うカラスの物語 生物界随一の頭脳をもつ鳥 カレドニアガラス(監訳)』(いずれも緑書房)など。

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