子犬の困った行動への対応法【第5回】無駄吠え(過剰咆哮)

前回の記事では、子犬の困った行動として「誤飲」への対応法を紹介しました。今回は、無駄吠え(過剰咆哮)の問題について紹介します。

吠えは犬の正常行動であるとともに、様々な異常行動に関連して起きる臨床徴候でもあり、その診断は広範囲に及びます。その原因や対処法、問題の深刻度もそれぞれのケースによって大きく異なります。

‌一般に子犬でよく認められる過剰咆哮は、多くの場合、飼育環境の改善や行動ニーズを満たすことで軽減します。もちろんそれだけでは完治しないこともありますが、それを抜きにして治療を行うと、一時的に改善しても再発しやすく、また別の場面で問題行動がみられるようになることも少なくありません。まずは適正飼養を心掛けることが基本で、それに加えてそれぞれの状況にあわせた対処を組み合わせて行うと、満足する結果が得られる場合が多くなります。

【ポイント! 過剰咆哮の対処法】
◇  飼育環境を改善し、行動ニーズを満たす
◇  飼い主に対する要求吠えには応じず、「おすわり」など適切な行動を強化する
◇  子犬期からチャイムや来客に慣れさせ、近所の犬や人とふれあって社会化させることにより、過剰咆哮を予防する

以下に、身体的異常や行動疾患として取り扱うべき異常行動としての吠えを除外した過剰咆哮のうち、飼い主さんからの質問が多い状況とその際の対処方法について紹介します。

過剰咆哮への対処法

■飼育環境の改善

不適切な飼育環境が吠えの原因になっている場合は、まずそこにアプローチする必要があります。たとえば来訪者への過剰咆哮が問題となっているにもかかわらず、玄関先などで飼育されている場合には、飼育場所の変更が必要です。犬は侵入者を警戒する習性があるため、外部から頻繁に人のアプローチがあるような場所での飼育は、吠えの問題を悪化させることが多いです。動物福祉の観点からも、人の出入りが少なくて犬が安心できる場所で飼育するべきでしょう。

また、犬が刺激のないサークルやケージに長時間閉じ込められて飼育されている場合は、多くのケースで吠えるのは犬の問題ではなく飼育方法の問題です。何らかの理由で狭い場所に閉じ込めなければならない場合には、その前後で十分な刺激を与えるべきです。日常的に犬を長時間狭い空間に閉じ込めなければならない理由がある場合は、その理由を解決する方法も同時に考えましょう。

ただし、犬を飼育する上で、犬が狭く囲まれた場所で静かにリラックスしていられるようにトレーニングしておくこと(クレートトレーニング)は非常に重要です。自宅で必要に応じて使用するだけでなく、車移動やペットホテルなどに預ける際にも、これを利用することで犬が自宅以外の場所でリラックスすることができます。また、近年重要課題となっている災害時の同行避難の際にも、犬の安全を確保するためにたいへん有効です。

■行動ニーズを満たす

野生動物は、起きている時間の大半を食べるために費やしているといわれます。この時間はオオカミのような捕食動物では獲物を探し、みつけて追いかけ、捕まえて殺し、食べるというすべての過程を含んでいます。一方、我々の飼っている犬たちは、食べものを器に入れて与えると、わずか1~2分程度で食事が終わります。労せずして食事にありつける代わりに、一日の大半を退屈して過ごすことになります。獲物を捕まえて食べるために必要なエネルギーは行き場を失い、その結果吠えや破壊行動、攻撃行動などに向けられやすくなります。

特に若い犬やエネルギーレベルの高い犬は、毎日十分な運動や遊びの時間が必要です。朝夕の散歩に加え、飼い主がおもちゃで一緒に遊ぶなどエネルギー発散を行うことで、多くの場合、吠えはもちろんそれ以外の問題行動の頻度も減ります。また飼い主との関係性も改善されるため、犬との生活がより楽しくなるというプラスの効果もあります。

飼い主の不在時に吠え続けるために、飼い主さんが分離不安症を疑って行動診療を希望する犬の中でも、日常生活での刺激不足や運動不足が原因であるケースも少なくありません。このような犬では、外出前に十分運動をさせ、退屈しのぎになるガム、食べものを詰めた知育玩具を置いて外出すると、多くの場合、落ち着いていられます。

このように、一般に犬でよく認められる過剰咆哮は、多くの場合、飼育環境の改善や行動ニーズを満たすことで軽減します。まず適正飼養を心掛けてもらうことを基本とし、これに加えてそれぞれの状況にあわせた行動修正を組み合わせるとよいでしょう。

特定の状況での吠えに対しては、以下の対処法を参考にしてください。

■サークルやケージでの吠え

サークルやケージに入れると吠える場合、まずは狭く囲まれた場所でリラックスできるようにトレーニングする必要があります(クレートトレーニング)。

最初はケージの中で食事を与えることから始めます。少しずつ時間を延ばすためには、ケージの中にフードをばらまいて入れたり、食べものを詰めたコングを一緒に入れたりするのもいいでしょう。

また下準備として、ケージの中に柔らかい敷物を敷くなどして居心地のよい場所にしておきます。さらに散歩や遊びなどで犬に十分にエネルギー発散をさせて、水を与え排泄を済ませます。そのあとに、時間をかけて食べるガムや食べものを詰めたコングとともにケージに入れ、疲れて後は眠るだけという状態をつくります。これを繰り返せば、ケージに入れるとスイッチが切れ、静かに過ごすという条件づけができます。コングにふやかしたフードと刻んだササミやチーズなどを混ぜて詰めたものを冷凍して与えると、食べることにもエネルギーを使わせることができます(写真)。

写真:クレートトレーニング

逆に犬が十分なエネルギーの発散をせず元気な状態のときに何もないケージに閉じ込めることを繰り返すと、ケージに入れると吠えるという行動パターンができてしまいます。この行動パターンができてしまうと、たとえ疲れていてもケージに入れたとたんに吠えるようになり、ケージで落ち着いて過ごすことが困難になります。最初の導入を慎重にすることで、結果的にトレーニング時間を短縮することができるのです。

■飼い主に対する要求吠え

犬は人とのコミュニケーションに吠え声や視線を使うことが多くあります。飼い主さんが食事をしているとき、人と話しているとき、犬のおもちゃや食べものを持っているときなどに、飼い主さんの気をひくように目を見ながら吠えます。吠えたときに飼い主さんが犬の要求をかなえることで吠えを強化していた場合には、無視することで消去できます。しかし完全に無視することは簡単ではなく、無意識に反応したり、根負けしてしまう飼い主さんが多いため、私は負の罰をお勧めしています。

例えば犬が吠えて飼い主さんに要求するときには、「あっ」と言ってその場から立ち去るのです。吠えることで自分にとって大切なもの(すなわち飼い主)がいなくなってしまうと学習させます。立ち去る時間は10~30秒ぐらいでいいですが、要求吠えするたびに根気よく繰り返すことが大切です。また、立ち去る際にはドアから出ていくなど、犬の視野から姿を消すと犬が理解しやすくなります。

また犬が要求吠えをするような場面、例えば食事を与えるときなどには必ず「おすわり」や「ふせ」などの合図を出して、吠えていないタイミングで犬の要求をかなえるようにします。吠えて要求するのではなく、飼い主さんの合図に反応すれば望みがかなうと学習させることで、過剰な吠えを減らして人間社会のルールを守ることができるようになります。

各トレーニングは飼い主さんだけで行っても成功しないことも多いため、私の動物病院では、私が行動診療で飼育環境の見直しや行動ニーズを満たした適正飼養、具体的なトレーニング方法を指導した後に、しつけインストラクターのレッスンを数回にわたり受けてもらっています。

■玄関チャイムの音に対する吠え

玄関チャイムに対する吠えは、チャイムの音を聞くとクレートに入り好物を食べるという行動パターンをつくることで改善できます(代替行動分化強化)。好物はインターホン近くの、犬の届かない場所に用意しておきます。そのそばにクレートを置き、協力者にチャイムの音を鳴らしてもらいます。チャイムの音と同時にクレートに入るよう合図を出し、好物をクレートに入れます。何度も繰り返すうちに犬はチャイムの音を聞くと、好物をもらうために自らクレートに入るようになります。日頃からクレートの中に好物を詰めたコングやデンタルガムなど時間がかかる食べものを入れておき、チャイムが鳴るとクレートに入るように合図を出し、犬がこれを食べている間に来客に応対してもいいでしょう。

これらを根気よく練習することで、犬はチャイムが鳴ったら吠えずにクレートに入って、好物を待つようになります。ただし実際の来客時にこれを練習しても、犬の興奮レベルが高いためうまくいかないことが多くあります。「チャイムの音→クレートに入る→好物を食べる」という行動パターンがしっかりできあがるまでは協力者に手伝ってもらい、繰り返し練習する必要があります。

何らかの理由で犬のトレーニングが困難な場合には、チャイムが鳴ったら犬の好物を床にばらまくなどして気をそらし、犬がこれを食べている間に応対してもいいでしょう。この方法は根本的な解決にはなりませんが、来客への応対を可能にすることができます。

■来客に対する吠え

自宅に入ってくる知らない人は犬にとってテリトリーへの侵入者であり、警戒して吠えるのはきわめて正常な行動です。実際に犬がいると、泥棒が家に侵入するのを抑制する効果があることも知られています。

短時間で吠え止む場合はほとんど問題になりませんが、吠え続けて応対が困難になるようなケースでは、玄関チャイムへの吠え対策を参考に、クレートに入れるか、来客が入らない部屋に入れてドアを閉めておくというのが最も簡単な方法です。ただし、相手が頻繁に家に訪れる場合や長時間滞在するような場合は、好物と関連付けながら少しずつ慣らしていきます。犬をあらかじめ空腹状態にしておき、来客を攻撃しないようにサークルなどに入れた状態で、来客から好物を投げて与えてもらいましょう。来客の印象をよくするために最初は吠えていても好物を与え、犬が好物を期待するようになれば吠えていないときのみに与えるようにします。

警戒して吠えているわけではなく、喜んで吠えている場合もあります。相手が犬嫌いでなければ犬にリードを付けて、「おすわり」などの合図を出して、吠えるのをやめて落ち着いて合図に従ったら、挨拶をさせるようにします。このようなケースでは挨拶したくて吠えているので、吠えていない方が早く挨拶できることを教えるのです。

■散歩中に出会う人や犬に対する吠え

警戒や嫌悪から攻撃的に吠えている場合が多いですが、逆に好奇心や遊び心から吠える犬もいます。好奇心や遊び心からの吠えは子犬や若い犬で多くみられ、社会的成熟に伴い、または嫌悪的経験により、攻撃的な吠えになることが一般的です。好意的な吠えの場合、頻繁に会う犬であれば飼い主の了承を得た上で、互いに攻撃的な様子がないことを確認しながら挨拶させてもいいでしょう。この際に吠えながら突進すると、犬に吠え行動に対する報酬を与えることになる上、相手の犬に恐怖心を与え攻撃的にさせてしまう危険性があります。まず「おすわり」などの合図を出し、落ち着いたらゆっくりと近づくようにします。相手の犬が後ずさりしたり、顔を背けたりといったしぐさを見せる場合には接触は避け、距離を置いて一緒に散歩するなどしながら徐々に慣らしていきます。

ただし散歩中に出会う人や犬すべてに接近させることはできないので、基本的には知らない人や犬に吠えずに通り過ぎることを目標にするといいでしょう。多くの場合、対象との距離を十分とった上で、吠える前に好物を見せ、好物に集中させながら通り過ぎるという方法で改善します。

■庭での吠え

 犬は侵入者を警戒する習性があるため、外部から頻繁に人のアプローチがあるような場所で飼育すると、吠えの問題が悪化します。道路に面している庭の前を人が通るような場合には、吠えの問題が起こりやすくなります。道路を通行している人が犬のいる庭の前を通り過ぎることは「人が近づく→犬が吠える→人が遠ざかる」という順番で起きるため、犬にしてみると侵入者が家に近づくのを吠えて追い払ったと感じて、吠え行動は自然と強化されてしまいます(負の強化)。

また庭に独りでいるときに吠え、飼い主さんが吠えるのを止めるために庭に出てくるとすれば、それも犬にとっては報酬となります。したがって、犬を庭に出す場合には飼い主さんが一緒に庭でおもちゃで遊んだり、フードを投げたりして、犬が集中できる楽しいことを一緒にするなど、犬が通行人を気にしない状況をつくる必要があります。また、犬を庭に出すのは近隣の人の迷惑にならない時間帯を選ぶことも大切です。

過剰咆哮の予防

過剰咆哮は子犬期には気にならなくても、性成熟期前後より目立つようになります。予防のためには、吠え始める前の子犬期にチャイムの音が鳴ったら呼び寄せ、褒めて好物を与えるようにしておくといいでしょう。チャイムの音が鳴ったときには、吠えずに飼い主のそばに行くとよいことがあると教えておくのです。

来客に対する吠えも子犬期から自宅に友人を招いて、楽しく過ごす時間を積極的につくることで予防できます。家に人が来ることはいいことであると学習させておくのです。散歩中の人や犬への吠えについても同様で、子犬期から散歩中に嫌悪経験をさせないように注意し、他人から好物を与えてもらったり、犬に会ったときには安全な距離で飼い主自身が好物を与えたりして、散歩中に人や犬に会うことはいいことだと学習させます。この際に近所の人には必ず挨拶をして、社会化を兼ねて子犬に好物を与えてもらうようにします。近隣住民ともよい関係を築くことができれば、吠え声が苦情につながる可能性も減らすことができるでしょう。

また、分離不安症の予防として、いきなり長時間の留守番をさせるのではなく、まずは飼い主が在宅時にも独りで過ごす時間をつくる必要があります。子犬は常に飼い主と一緒にいることを好みますが、いつでも一緒にいられるわけではないことを教えておくことは大切です。例えば家事や入浴など子犬から離れる際には、周囲の安全を確認した上でガムや知育玩具など暇つぶしになるものを与えて離れるようにしましょう。実際に外出する際もいきなり長時間の留守番をさせるのではなく、短い時間から徐々に慣らしていくことが望ましいでしょう。

さて、この連載では全5回で、子犬が引き起こしがちな「困った行動」とその対応法を紹介してきました。成犬になったあとも幸せに生活するための、子犬期の教育の参考としてください。

[参考文献]
・村田香織.こころのワクチン(Parade books).2011.パレード.
・村田香織.「困った行動」がなくなる犬のこころの処方箋.2022.青春出版社.

【執筆】
村田香織(むらた・かおり)
獣医師、博士(獣医学)、もみの木動物病院(神戸市)副院長。株式会社イン・クローバー代表取締役。日本獣医動物行動研究会 獣医行動診療科認定医。日本動物病院協会(JAHA)の「こいぬこねこの教育アドバイザー養成講座」などで講師も務める。獣医学と動物行動学に基づいて、人とペットが幸せに暮らすための知識を広めている。主な著書に『「困った行動」がなくなる犬のこころの処方箋』(青春出版)、『こころのワクチン』(パレード)、『パピークラス&こねこ塾スタートBOOK』 (EDUWARD Press)。