ウサギの家庭医学【第5回】歯牙疾患(不正咬合)後編

今回は「不正咬合」の治療と予防を解説します。

治療

過剰に伸長した歯を歯科用バーで切削します。切歯は基本的には無麻酔で処置できますが、ウサギの口腔内は非常に狭いため臼歯は麻酔をかけて行うのが望ましいです。
生後数カ月の子ウサギであれば、不正咬合の矯正が可能な場合があります。下顎切歯に外斜角をつけ、先端が上顎切歯の内側にくるようにします(写真1)。

写真1:不正咬合の矯正

切歯の抜歯(写真2)は、対象の歯が膿瘍の原因になっていたり(写真3)、重度の不正咬合や頻繁に切削する必要のある場合、適応となります。ただし、高齢の個体には歯や歯槽骨が劣化していることも多く、歯が破折する場合があるため、適応とならないことがあります。

写真2:下顎切歯の抜歯

写真3:左下顎切歯の根尖に膿瘍の発生

臼歯の抜歯は、対象の歯が膿瘍の原因となっていたり、眼球突出がみられる際に対象となります。過長のみで動揺のない歯は、顎の骨折をもたらすリスクがあるため、積極的に抜歯は行いません。

不正咬合が原因となって、鼻涙管に炎症が起こり、鼻涙管の狭窄や閉塞をもたらすことがあります。鼻涙管とは、目頭にある涙点からは鼻腔内に抜ける管で、涙を排出する機能があります。鼻涙管の走行する範囲に不正咬合によって引き起こされた炎症が発生したり、伸長した歯がぶつかってしまうことで管の通りが悪くなります(写真4)。
そこで、管のつまりを改善するために鼻涙管洗浄を行います(写真5)。感染や炎症の度合いに応じて点眼薬を処方することがあります。

写真4:鼻涙管に造影剤を入れて撮影したレントゲン画像。鼻から造影剤が出ず、詰まっているのがわかる

写真5:鼻涙管洗浄。涙点から鼻涙管に向けて管を挿入し、洗浄を行う

涙が過剰にあふれることにより眼瞼周囲に皮膚炎を起こすことがあります。ウサギの涙は脂を多く含んでおり、毛がベトベトになってしまうため、毛を剃ること(医療トリミング)も治療のひとつです(写真6)。
膿瘍が発生した場合(写真6)、原因となる歯の抜歯を検討すると同時に、膿瘍自体を摘出するか、開放創をつくって膿瘍の洗浄を行います。

写真6:目の周りの毛を剃り、医療トリミングを行った。また、目頭から鼻にかけて柔らかいふくらみがあり、膿瘍の発生を疑う

不正咬合のウサギは、繊維質の少ない食べ物を好むことが多いこと、また口腔内の疼痛のため食欲不振になりやすいことなどの理由で胃腸のうっ滞が起こりやすくなります。その場合は不正咬合の治療に加えて、うっ滞の治療を行います。

予防

野生のウサギと同じ食事を摂取すると、不正咬合は起きにくいといわれています。牧草を多く給餌することで、顎の水平運動を促進します。ペレットは硬く、歯を縦に動かしてつぶして食べるため、ペレットの給餌は体重の1%以下が望ましいといえます。ペレットを選択する際も、ハードタイプではなく、噛むとすぐに砕けるようなソフトタイプを選択すると歯には優しくなります。炭水化物や糖質を与えすぎる場合、齲歯(虫歯)を起こすリスクがあるので注意が必要です。特にバナナなどの粘度の高いものは摂取後に歯にこびりついていることが多いので、注意してください。

この連載は、一般社団法人日本コンパニオンラビット協会(JCRA)「ウサギマスター認定者(ウサギマスター検定1級)」の獣医師で分担しながら、飼い主さんにも知っておいてほしいウサギの病気を解説しています。
・一般社団法人日本コンパニオンラビット協会
https://jcrabbit.org/

【執筆】
谷本眞帆(たにもと・まほ)
獣医師、CRAウサギマスター検定1級。2018年北海道大学大学院獣医学研究院獣医学部を卒業。同年、浜村動物病院院長に就任(2023年退職)。

【監修】
霍野晋吉(つるの・しんきち)
日本獣医畜産大学(現 日本獣医生命科学大学)獣医畜産学部卒業。獣医師、博士(獣医学)。1996年古河アニマルクリニック開業(茨城県)。1997年エキゾチックペットクリニック開業(神奈川県)。現在は株式会社EIC(https://exo.co.jp)の代表を務め、エキゾチックアニマルの獣医学の啓発や教育に関わる活動を行っている。その他、日本獣医生命科学大学非常勤講師、ヤマザキ動物看護大学特任教授、(一社)日本コンパニオンラビット協会代表理事、(一社)日本獣医エキゾチック動物学会顧問なども務める。著書に『カラーアトラス エキゾチックアニマル 哺乳類編 第3版』『同 爬虫類・両生類編 第2版』『同 鳥類編』『ウサギの医学』『モルモット・チンチラ・デグーの医学』(いずれも緑書房)。